宰相殿の嫁取り(1)
ここからが、物語全体の第13章になります
「サラを・・・お前さんの嫁にもらっちゃくれねえか?」
カルドの巡視を終え、城に帰還したエレン。そんな彼に、父の盟友であった将軍・ルシウスが、いつになく真剣な表情で問いかけた。
「やはり、その話ですか・・・・・・この際ですから、はっきりと言わせていただきます。私には、心に決めた女子がおります。申し訳ございませんが、サラ殿を嫁に迎えることはできませぬ」
「・・・やっぱりそうか。お前さん、いつも結婚の話となると逃げてたからな。さては好きな女子がいるのかと睨んでたが・・・そうか。やっぱりな」
納得したように呟きつつも、ルシウスは再度エレンに視線を向けて言った。
「けどなエレン殿、以前ゴードン殿やランスも言ってただろ?俺の家と縁戚関係になることは、アルフォードの家にとっても得だぜ?」
「私は、家の都合で結婚するつもりはありませぬ。私はミアのように、心から愛する者と結婚したいのです。ルシウス殿には申し訳ございませんが、サラ殿と結婚することはできませぬ」
きっぱりと言ったエレンに、ルシウスは小さくため息をついて言葉を返した。
「分かった。そこまで言うなら、もう無理に進めたりはしねえよ。しかし参ったな・・・あの子はああいう奴だ、貰ってくれる男がいなくて困ってんだよ」
「いずれ、サラ殿にふさわしい方が現れましょう。私よりも、よほどサラ殿にふさわしい方が」
「だといいがな。とりあえず、トールの式には出てくれよ。あいつも喜ぶ」
「ええ・・・もちろんです」
ルシウスが退室すると、エレンは席に腰かけて大きく息をついた。同時に、彼の胸にある決意が宿る。
「そろそろ・・・カレンに結婚を申し込むか・・・」
父の葬儀を終えた後、エレンは一度、カレンに結婚を申し込もうとした。しかし今は時期ではないと考え、それを先延ばしにしていたのだった。
しかし、ルシウスが本格的に結婚の話をしてきた以上、もはや先延ばしにはできないとエレンは思った。こうなったらなるべく早く、カレンと結婚した方がいい。そうでなければ、第二・第三のルシウスが、次々と妹や娘、孫娘をエレンに嫁がせようとするだろう。
(そうなる前に、カレンと結婚しなければ・・・)
そうと決まれば、早いに越したことはない。エレンはその日、仕事を手早く済ませると、急いで屋敷に帰還した。
「あっ、エレン・・・」
「カレン!・・・あの日言えなかったこと、今ここで言わせてくれ」
カレンの顔を見るなり、エレンはその両手を握りながら言った。
「カレン・・・結婚してくれ。やはり俺は・・・お前なしの人生など考えられぬ」
「ちょっ・・・ちょっと待って、エレン!」
カレンはエレンの言葉を嬉しく思いつつも、大声で彼の言葉を遮った。一方のエレンは予想外の反応に、ぽかんと口を開けている。
「カレン・・・喜んで、くれないのか・・・?」
「いや、もちろん喜んでるわよ。でもその前に、サラさんと話をしてほしいの」
「サラ殿と?一体、どういうことだ?」
「・・・あんたがカルドに行ってた時、サラさんに会ったのよ。あの人・・・あんたのことが好きだって、そう言ってたわ」
「サラ殿が・・・?」
カレンが重々しくうなずいたことで、エレンはようやく確信した。サラが自分を好いてくれているというルシウスやトールの話は、本当のことだったのだ。
「けど、あの人勇気が出せなくて、あんたに告白できないって言ってた。だから私言ったの。エレンは鈍感だから、直接言わなきゃ気づきませんよ、って」
「鈍感・・・まあ、それは否定しないが・・・」
「だから、サラさんに会って、その気持ちをちゃんと聞いてほしいの。結婚のことは、それが済んでから考えましょ」
というわけで、プロポーズの返事は保留となった。エレンはサラと話をするために、すぐにバルデッタの屋敷を訪れた。
「宰相様!いかがなされましたか?」
「サラ殿と、話をしたいのです。呼んでいただけますか?」
「ええ、もちろんです!お嬢様!お嬢様!!」
使用人が慌てたように、サラの名を呼び始めた。エレンは緊張で表情をこわばらせながら、サラがやってくるのを待った。
やがてこちらに近づく足音が聞こえ、サラが姿を現した。サラもいつになく緊張しており、様々な感情がこもった目でエレンの顔を見つめている。
「サラ殿・・・カレンから、一通りの話は聞いた。私に・・・言いたいことがあるとか」
エレンに言葉を促されると、サラは震える声で思いの丈をぶつけ始めた。
「私・・・エレンの奥さんになりたい!エレンのこと、子供の頃から大好きだった・・・・・・今まで勇気が持てなくて、ずっと・・・ずっと素直になれなかった!でも・・・今なら言える・・・・・・エレン・・・私、あなたのこと・・・大好き!」
サラの言葉が、エレンの胸を深く抉った。彼女が言っていることには、一切の嘘偽りもない。それはエレンも十分わかっていたが、それでも彼は、サラの告白を受け入れることはできなかった。
「すまぬ・・・すまぬ、サラ殿・・・!私には・・・そなたの想いを受け取ることは・・・できぬ!」
サラはエレンの言葉に動揺すると、喉の奥から声を絞り出した。
「カレンさんが・・・いるから・・・?」
「ああ、そうだ・・・・・・私は・・・カレンを心から愛している・・・!たとえ・・・例え何があっても、カレンと一緒に生きていきたい・・・その気持ちに・・・嘘はつけぬのだ・・・!」
目から涙を流しながら、エレンはサラに深々と頭を下げた。
「すまぬ・・・そなたの気持ちに、今まで気づいてやれなかった・・・!本当に・・・すまぬ・・・!」
その謝罪に、サラは大きく首を横に振った。彼女は涙に濡れた目でエレンを見つめていたが、やがて踵を返して屋敷に駆け込み、玄関のドアをバタンと閉めた。
「サラ殿!サラ・・・殿・・・!」
追いかけてはならない。エレンは、必死に自分を抑え込んだ。ここで追いかけたところで、余計にサラを傷つけるだけだ。そう自分に言い聞かせると、エレンは追いかけたい気持ちをぐっとこらえた。
一方のサラは自室に駆け込むと、ベッドの前で膝をついた。彼女は目から涙をあふれさえながら、ベッドに顔をうずめて声を上げて泣いた。
「エレン・・・エレン・・・・・・!」
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