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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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新たなる宰相(5)

ザメクとの再会から、2週間後。エレンは国民たちの声を聞くため、領内各地の巡視を始めた。


城には相変わらず訴えは多数来ていたが、それが国民が上げる声の全てではない。エレンはできうる限り、直接国民の声を聞きたがった。


案の定、いや、予想以上に、国民は多くをエレンに訴えた。エレンはそれに丁寧に耳を傾け、できる限りの善処を約束した。


「しかし、宰相殿も無理をなさいますな。宰相を引き継いで数ヶ月で、国内の巡視を始めるとは」


季節が夏になった頃。巡視から帰還したエレンに、カールが声をかけてきた。


「自分でも、無謀だったかもしれないとは思っております。なれど、ザメク殿と話して思い知ったのです。訴状以外にも、民が上げたい声はあると」

「来週はカルドですか。久しぶりの帰郷になりますな」


エレンの予定に目を通すと、カールが小さな笑みを向けて言った。


「帰郷とはとても呼べません。あくまで、カルドの民から意見を聞きたいのです」

「それでも、久しぶりの故郷でございましょう?城での仕事は我らが引き受けますゆえ、少し羽を伸ばされませ」



1週間後。エレンはダンを連れ、カルドの巡視に向かった。2人はカレンも誘ったのだが、彼女はアルフォードの屋敷の仕事を理由に断った。


「今、この家にはマリア様しかいないのよ?リーフ様のお世話で大変なのに、私がいなくなったら余計な負担をかけちゃうわ。私はいいから、2人で行ってきて」


それ以上誘うこともできず、2人はカレン抜きでカルドに向かった。カルドの住民は、温かく2人と護衛の衛兵を迎えてくれた。


「エレン・・・いや、宰相様!うちの・・・うちの馬鹿息子は、元気にしているでしょうか?」


エレンの姿を見るなり、カイルの母親が身を乗り出すように尋ねた。


「ええ、元気にしております。今ではランス将軍のもとで、正規兵を目指しています。2年前のスティークの乱でも、活躍していましたよ」

「そうですか!ああ、あんな馬鹿息子でも、国の役に立ってると思うと・・・!」


息子の無事を知り、カイルの母は涙を流して喜んだ。エレンとダンはエミルの父にも、エミルが文官見習いとして働いていることを告げた。


「そうですか・・・あれにとっては、まさに理想の仕事といえましょうな」

「ええ。カール殿も、エミルがいて助かると言っていました」


その後2人は、カルドの村民の意見を聞いた。老朽化した橋の修理や、壊れやすい水路の補強に金を出してほしいなど、様々な要望がエレンに伝えられた。


「皆さんの意見、全て聞けると約束はできませぬ。なれど、可能な限り善処いたします」

「おお!さすがこの村出身の宰相様じゃ!」


エレンの言葉に、村人たちは心から喜びの声を上げた。聞き取りが一段落ついたころ、エレンはダンと共に、親しかったデインのもとを訪れた。


「宰相の仕事・・・大変そうだな、エレン」

「ええ・・・国を動かす、大切な仕事です。とはいえ、やはり私はまだ未熟・・・皆様の力や意見を借りて、何とかやっているのが実情です」

「やれているだけでも大したもんだ。お前は昔から芯が強い。だからネルソンさんも、お前を跡継ぎに選んだんだろう」

「はは・・・どの道、もう男子は私しかいませんでしたから。それでも、この道を選んだ以上は、中途半端なことはできないと思っています」

「そうだな。いばらの道だが、お前ならきっとできる」


デインの励ましの言葉に、エレンは気恥ずかしそうに小さな笑みを浮かべた。その後彼はダンを連れて、マミヤと久方ぶりの再会を果たした。


「こちらに来ると聞いて、驚きました。エレンもダンも、立派になりましたね」

「マ・・・マミヤさん!お・・・お久しぶりです!」


初恋の人を前にして、ダンはしどろもどろな声を上げた。


「あらあら、ダンは相変わらずね。それでも嬉しいわ。2人とも忙しい中、この村に来てくれて」

「民の声を、もっとよく聞きたいと思ったのです。この村以外にも、たくさんの場所に行きました。私の想像以上に、民の要望や不満は多い・・・その全てに応えることなど、無理だと分かってはいるのですが・・・」

「それでも、できる限りその声に応えたい。あなたらしいわ、エレン」


エレンを褒めつつも、マミヤは釘をさすことも忘れなかった。


「だけど、あまり1人で背負いすぎないでね。あなたの仕事は、ただでさえ重いものなのだから」

「はい・・・少しずつ、思い知っております・・・」


その後エレンたちは、村長のジョセフのもとを訪れた。ネルソンの葬儀以来の再会となったが、ジョセフはその時の言葉通り、エレンとダンを歓迎してくれた。


「仕事とはいえ、よく来てくれたな、2人とも」

「本当は、カレンも誘ったんですけどね。エレンの家の仕事が忙しいって、断られてしまいました」

「はは。カレンはしっかり者だからな。・・・いや、お前たち2人がしっかりしてないって言いたいわけじゃないぞ?」

「分かっております。しかし・・・ここに来たのは正解でした。あまりカルドから訴状が届かないゆえ、ここの皆さんが上げたい声を、十分把握しきれていませんでした」

「まあ、ここの奴らは今の暮らしで十分やっていけるからな。それでも、国に助けてもらいたいことはたくさんある。こっちも、その全部が叶ってほしいとまでは思っちゃいねえけどな」


エレンを労わるように言うと、ジョセフは2人に励ましの言葉をかけた。


「城での仕事、俺たちの予想以上に大変だとは思う。だが、お前たちらしさを見失うことなく、これからも頑張ってくれ」

「はい、村長(むらおさ)殿!」

「村長殿の言葉、胸に刻みまする。宰相として・・・いや、エレン・アルフォードとして、これからも努めてまいります」

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