巨星墜つ(6)
ここまでが、物語全体の第11章、そして第一部となります
ネルソンの葬儀は、国葬として執り行われた。
希代の英雄であり、同時に冷酷な政治家でもあった男。その評価は真っ二つに割れるだろうが、多くの国民が彼の死を悼み、城の周りには多くの人々が集まった。
故郷のカルドからも、村長のジョセフを始めとして、多くの者が葬儀に駆けつけた。ネルソンの棺は息子のエレンや、カルドの村人であったダンとカイル、エミルといった者たちが担いだ。彼らの兄貴分であるデインもまた、棺を担ぐ男手に加わった。
国葬のならわしとして、国王のレオナルドが一番に、棺を埋めるための土をかけた。その後にエレンを始めとするカルドの男手たちが、次々と土をかけて棺を埋めた。
葬儀が終わっても、エレンはすぐに屋敷には戻れなかった。デインはカイルたちとの再会を喜んでいたが、その輪にわずかに加わる暇さえない。
「陛下・・・父のために、ありがとうございました」
エレンはレオナルドのもとを訪れると、国葬への感謝を述べた。
「うむ・・・父を失う辛さ、わしも知っておるからのう。それに、そなたの父は、わしにとっては間違いなく英雄じゃ。これはわしからの、ささやかな礼にすぎぬ」
「そう仰っていただけること、我が家の誉れにございます。父も・・・喜んでおりましょう」
「そうであればよいがの。・・・さて。そなたも、覚悟はできておろうが・・・」
エレンの目を見つめながら、レオナルドが威厳のある声で言った。
「エレン・アルフォード。本日より、父・ネルソンの後を継ぎ、このエルドラの宰相となるべし」
レオナルドの言葉を受け、エレンはひざまずいて首を垂れた。
「はっ!謹んで、お受けいたしまする!」
エレンの言葉に、レオナルドは満足そうな微笑みを浮かべた。
「うむ。今日はもう、下がるがよい。明日からは、いよいよそなたがこの国を動かすのじゃ。その英気を、今のうちに養うといい」
「はっ!ありがたき、お言葉でございます!」
城を後にしたエレンは、カイルとエミルが住む長屋を訪れた。そこにはネルソンの葬儀に駆けつけた、ジョセフとデインの姿もあった。
「そうか・・・いよいよ、エレンが宰相殿か」
デインがエレンを見つめながら、感慨深そうに声を上げた。
「はい・・・父ほどのことができるかは分かりませんが、この国のために、尽くしていきたいと思います」
「お前は子供の頃から、いつも他人を思いやれる男だったからな。ネルソンも、それを見込んでお前を跡継ぎにしたんだろうよ」
ジョセフもまた、エレンの宰相就任を心から喜んだ。彼はエレンの目を見つめると、優しく温かい声をかけた。
「エレン・・・もし辛いことがあったら、いつでもカルドに顔を見せろ。宰相殿としてではなく、エレン・アルフォードとして、お前のことを歓迎しよう」
「村長殿・・・!ありがとう・・・ございます・・・!」
ジョセフの言葉に目を潤ませると、エレンは深々と頭を下げた。ジョセフとデイン、そしてカルドの仲間たちは、そんなエレンを優しい微笑みで見つめるのだった。
「そう・・・正式に、宰相殿になれたのね」
それから、およそ1時間後。アルフォードの屋敷に戻ったエレンは、使用人として働くカレンにも、宰相に就任したことを告げた。
「ああ・・・ここからが本番だ。イリア殿や王妃様のような、理不尽な犠牲者が二度と出ない世を、俺はこの手で作りたい。ジャンヌ義姉上には、そんなことはできないと言われたが・・・・・・それでも、この力が及ぶ限り、やってみたいのだ」
その言葉に力強くうなずくと、カレンはエレンの肩を両手で抱いた。
「きっとできる・・・あんたなら、きっとね」
「カレン・・・実は・・・そろそろ・・・・・・」
「え?」
カレンがきょとんとした表情で、エレンの目をじっと見つめた。エレンは急に気恥ずかしさを感じ、思わずカレンから顔をそむけた。
「いや・・・何でもない!今は・・・その時ではない」
「ちょっと!余計気になるじゃない!言いなさいよ!」
「いや・・・いずれ言う!だが、それは今ではないと思って・・・!」
「そのいずれっていつ来るのよ!?気になるから・・・言いなさいよ!」
「いや、だから今ではないと・・・!」
まるで幼い子供のように、カレンはエレンを問い詰め続けた。そんな2人の騒がしい姿を、マリアが微笑みながら見つめるのだった。
そして、翌日。エレンにとって、新たな始まりの日が訪れた。
「では・・・行ってまいります、義姉上」
「ええ。・・・エレン殿、宰相のお仕事、頑張ってくださいね」
息子のリーフの体を抱きながら、マリアがエレンに声をかけた。その後ろに立つカレンもまた、エレンに励ましの言葉をかける。
「エレン・・・頑張ってね・・・!」
「ああ・・・!では・・・行ってまいります!」
マリアとカレンに力強く言葉をかけると、エレンは城に向かって力強く歩き始めた。その背中を見送っていたマリアとカレンが、視線を交わしてうなずき合う。
「おお・・・新しい宰相殿じゃ」
「あれが新しい宰相殿か・・・」
「あんな若さで、この国の舵取りができるかのう」
エレンを目にした城下の人々が、口々に声を上げた。中には好奇心から声を上げる者や、エレンの力を疑問視する者もいたが、その声を全て受け止めながら、エレンはさらに足を進めた。
「エレン・・・」
そんなエレンを、城下の一角でサラが見つめていた。エレンが彼女の視線に気づき、小さな笑みを投げかけると、サラは頬を赤らめてうつむいた。
そしてついに、エレンは城に辿り着いた。彼は大きく深呼吸すると、城に向かって一歩を踏み出す。
(父上・・・兄上たち・・・・・・私は・・・私なりに戦ってまいります。この国の・・・宰相として・・・!)
衛兵が武器を下ろし、城門が音を立てて開かれた。門の中に足を踏み入れたその瞬間こそ、宰相となったエレンにとって、新たな戦いの始まりであった。
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次回からは、物語が第二部に移っていきます。ここまでご覧いただいた皆様に、心から感謝申し上げます。
今後もどうか、エレンの物語をご覧いただければ幸いです




