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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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巨星墜つ(5)

ネルソンの目が冷めぬまま、エルドラの年は緊張と共に暮れた。そして年が明け、レオナルド国王歴5年が始まって2日目に、ネルソンはようやく眠りから目を覚ました。


「エレン・・・か・・・」

「はい・・・ここにおります、父上・・・!」


久しぶりに目を覚ました父の顔を、エレンは目を潤ませながらまっすぐ見つめた。


「わしは・・・己の人生、何も悔いておらぬ・・・・・・一介の百姓から、この国の頂に上ることができた・・・・・・決して楽な道ではなく・・・褒められた生き方でもなかったが・・・・・・それでも・・・・・・己の進んできた道を、否定したくはない・・・」

「ええ・・・それでこそ・・・父上でございますな・・・!」


涙を目から流しながらも、エレンは精一杯の笑みを浮かべて応えた。


「わしはもう・・・いつ死んでも構いはせぬ・・・・・・だが・・・1つだけ、お前に託したいことがある・・・」

「はっ。何なりと、仰ってくださいませ」


エレンがそう応えると、ネルソンは無念の表情を浮かべながら言った。


「ゴールと・・・ルーカスのことじゃ・・・・・・わしは・・・あの2人の死を・・・ずっと調べてきた・・・・・・あの2人が・・・戦場で死ぬなど本来はあり得ぬ・・・・・・そもそも・・・あの戦で・・・ラダンなどに負けるはずがない・・・・・・」

「父上・・・しかし、ルーカス兄上の副官だった、ダリオ殿が教えてくださったではないですか。わが軍は・・・数を恃んで兵力を分散し、敵軍の伏兵に遭ったと・・・」

「それでもじゃ・・・ゴールは、あれが初陣ではなかった・・・・・・総大将も・・・初めての経験ではない・・・・・・だからこそ・・・わしにはどうしても納得がいかぬ・・・・・・なぜ・・・あの2人が、命を落とさねばならなかったのか・・・・・・」


その時、エレンの胸にある疑念が浮かんだ。そして父もまた、同じ疑念をこれまで抱き続けてきたのだろうと、そう確信した。


「兄上たちは・・・何者かに、謀殺されたと・・・?」

「わしには・・・そうとしか思えぬ・・・・・・だが・・・いくら調べても、その証を見つけられなんだ・・・・・・わしともあろう者が・・・この程度の謎を、解けずに終わるとは・・・・・・」


自嘲するように小さく笑うと、ネルソンは鬼気迫った表情をエレンに向けて言った。


「お前に・・・この謎を託す・・・・・・いずれ・・・いずれ必ず、尻尾を見せる者がいよう・・・・・・それを・・・見逃してはならぬ・・・・・・兄2人の死の真相・・・・・・お前が・・・暴け・・・・・・!」


それは、父の最後の願いであり、最後に投げつけられた難問であった。エレンはその重さを噛み締めながら、父に深く頭を下げた。


「分かりました・・・・・・兄上たちの死の真相、必ずや暴いてみせまする!」


決意を込めたエレンの言葉に、ネルソンは小さな笑みを浮かべた。


「頼もしい・・・・・・やはり・・・お前を選んだのは・・・正解であった・・・・・・」


その言葉を最後に、ネルソンは再び眠りについた。――そしてこれが、ネルソンの最後の言葉となった。





レオナルド国王歴5年、1月5日。農民から軍師、そして宰相へと成り上がり、エルドラに大きな影響と変革をもたらしたネルソン・アルフォードは、51年の生涯を終えた。


彼の死は、娘のミアが看取ることとなった。呼吸が止まった父の亡骸に、ミアは縋りついて声を上げて泣いた。エレンとマリアもすぐに駆け付け、悲しみの涙をミアと共に流した。


ネルソン死すとの報せは、たちまちのうちに城の内外を駆け巡った。ネルソンの盟友であったルシウスは、新年を祝って家族と食事中であった。しかしネルソンの死を知ると、静かに食器を置いて哀悼の意を示し、彼の子であるトールとサラもそれに続いた。


ネルソンの側近である文官のカール、そして同僚のニールとディエゴも、この報せを受けてすぐにエレンたちのもとを訪れ、ネルソンの亡骸と対面した。ダンとカレンの兄妹、そしてカイルとエミルといったカルドの仲間たちも、子供のころから世話になったネルソンの死を、心より悼んだ。


「陛下!宰相が・・・息を引き取りましてございます」


そしてその報せは、当然国王であるレオナルドのもとにももたらされた。側近のベイルからその報告を受けると、レオナルドは様々な感情が宿った表情を浮かべた。


「そうか・・・・・・宰相が、な・・・・・・」

「いかがなさいます?すぐに、宰相にお会いになりますか?」


謀臣のサイラスがそう尋ねると、レオナルドは小さく首を横に振った。


「いや・・・今行けば、エレンたちの負担になろう。・・・ベイル、サイラス、時機を見てそなたたちが行ってくれ。わしの使いと言えばよい、長居は無用じゃ」


「はっ・・・心得ましてございます」


かしこまって頭を下げると、ベイルはサイラスと共に医務室へと向かった。レオナルドは玉座に体を預けると、小さく、そして冷たい笑みを浮かべた。


「そうか・・・ついに・・・死んだか・・・」

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