↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/126

巨星墜つ(3)

ネルソンが次に目を覚ましたのは、レオナルドにエレンを託してから、2日後のことであった。


「義父上・・・目を覚まされましたか」


この時、ネルソンに付き添っていたのはジャンヌであった。ネルソンは彼女の顔を見つめると、力のない声でつぶやいた。


「おお・・・ジャンヌ殿か」

「はっ。・・・義父上、このような時に恐縮ではありますが、義父上にお願いしたきことがございます」

「わしにか・・・・・・見ての通り、わしにはもはや何もできぬ」

「いいえ・・・義父上だからこそ、できることでございます」


ジャンヌはそう言うと、真剣な表情でネルソンの顔を見つめて言った。


「義父上・・・アルフォードの家督を、アランに譲ると仰ってくださいませ。義父上のそのお言葉があれば、家督は正式に、アランのものとなりまする。義父上にしか、できぬことでございます」


ジャンヌの言葉に、ネルソンは小さな笑みを浮かべた。


「それはできぬ・・・・・・すでにわしは、エレンを後継に定めた・・・・・・そのこと、そなたもすでに承知であろう・・・」

「義父上のご意思は、尊重しとうございます。なれど・・・エレン殿は、この城で生きるにはあまりにも優しすぎます。あの者に、この先アルフォードを守って世を渡っていくことはできませぬ。なれば・・・以前あの者が言っていた通り、アランをアルフォードの後継とし、私がそれを後見する方が、この家のためとなります」


そこで一旦言葉を切ると、ジャンヌはネルソンの目を見つめながら再度懇願した。


「義父上・・・私は幼き頃に家族を失い、死ぬ覚悟で参加した戦で、偶然にも手柄を上げました。そのおかげで、亡き夫にも巡り会えました。私はただ・・・アルフォードの家を・・・第二の家族を守りたいのでございます。どうか・・・エレン殿を後継から外し、アランを後継に定め直してくださいませ・・・!」


深く頭を下げたジャンヌを、ネルソンは労わるような目で見つめた。


「そなたの想い、実に痛み入る・・・・・・我が家を守りたいという想いは、まぎれもなく本物であろう」

「・・・!義父上・・・!」

「だがな・・・エレンを後継から外すことはできぬ・・・・・・あれは・・・そなたが思う以上に、大きな男になりうる・・・・・・わしは・・・それに賭けてみたいのじゃ・・・・・・」

「賭けでは・・・守れぬものもございます・・・!義父上・・・どうか・・・!」


ジャンヌが再度懇願しようとしたが、ネルソンはすでに眠りに落ちていた。ジャンヌはそれ以上の言葉をつぐむと、ひたすら彼が目覚めるのを待った。


しかし、彼女が付き添う間、とうとうネルソンが目覚めることはなかった。やがてミアとの交代の時間が訪れ、ジャンヌは静かに医務室を去っていった。


「お父様・・・」


ミアが沈んだ表情を浮かべながら、眠り続ける父の手に触れた。するとその時、ネルソンがゆっくりと目を覚まし、ミアの顔をじっと見つめた。


「おお・・・ミアか」

「お父様・・・お父様!!」


ミアは目に涙を浮かべながら、思わず父の体に抱き着いた。ネルソンは微笑を浮かべつつ、ミアの耳元に声をかける。


「やめんか・・・そなたも来年で19だ、このような子供みたいなことは・・・」

「歳なんて・・・関係ないわよ・・・!お父様と・・・またお話しできるのが・・・嬉しくて・・・!」


父の胸に顔をうずめながら、ミアが震える声で言った。そんな娘の姿に笑みを浮かべつつ、ネルソンは静かな声で言った。


「ミア・・・・・・わしには・・・もう時間がない・・・・・・お前に・・・エレンへの伝言を頼みたい・・・」

「お兄様に・・・?いいわよ、何でも言って」


ミアが顔を上げてそう言うと、ネルソンは冷静な声で告げた。


「・・・ジャンヌ殿には・・・気をつけろと伝えてくれ・・・・・・あの者は・・・この先何をするか分からぬ」

「え・・・?ジャンヌ・・・お義姉様が・・・?」


思わぬ父の言葉に、ミアが思わず疑問の声を上げた。しかしその時にはもう、ネルソンは再び眠りに落ちていた。


「お父様・・・お父様!」


何度呼びかけても、ネルソンが目を覚ますことはなかった。やがて付き添いの交代の時間が来ると、ミアはエレンに、父から告げられた言葉を伝えた。


「ジャンヌ義姉上に・・・?一体、どういうことだ?」

「分からない・・・でも、お父様ははっきりと言ったわ。お義姉様が・・・何をするか分からない、って」


不安そうな声でそう言うと、ミアは縋るような目で兄の顔を見つめた。


「きっと・・・何かの誤解よね・・・?だって、ジャンヌお義姉様は、いつもまっすぐで正々堂々としてる人よ。そのお義姉様が・・・何か良くないことを考えるなんて、そんな・・・」


何と言葉を返すべきか、エレンはしばし考えこんだ。やがて彼は微笑を浮かべると、妹の頭を優しく撫でた。


「そうだな・・・義姉上に限って、そのようなことをなさるはずがない」

「・・・そうよね?きっと・・・お父様は悪い夢でも見たんだわ」


兄の言葉に安堵するかのように、ミアは明るい声で言った。しかし、父がこの期に及んで不確かな言葉を口にするということも、今のエレンには考えられなかった。



その夜。アルフォードの屋敷でぐっすりと眠るアランの頭を、ジャンヌが慈しむような笑みで優しく撫でた。


「アラン・・・お前のためなら、母はどんなことだってする」


強い決意を宿した目で、ジャンヌはアランを見つめながら言った。


「お前のことは・・・この母が・・・必ずや守り抜いてみせる・・・!」

ご覧いただきありがとうございます。

評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。