巨星墜つ(2)
宰相が倒れた――その報せはエルドラ城を越え、国中に広く知れ渡った。
「宰相殿が・・・倒れた!?」
カルドの仲間たちが住む、城下の長屋。ダンとカレンから報告を受けたカイルが、驚きの余り上ずった声を上げた。
「ああ。エミルは、もうカール殿から聞いているだろう?」
「はい・・・まだ、受け止め切れてはいませんが・・・」
「私たちもよ。でも、一番大変のはエレンたち。私たちは今まで以上に、エレンを支えていかないと」
「お・・・おお!こういう時こそ、カルドの結束を見せる時だ!!」
カイルが意気込んでそう言うと、ダンが大きくうなずいた。
「その意気だ。この先、何があってももはや不思議ではない。だが、カルドの結束は変わらない」
「そうね、兄さん・・・私たちは、私たちにできるやり方で、エレンとその家族を支えましょう」
ネルソンが倒れたという報せは、彼やエレンの故郷であるカルドの村にも届いた。
「ネルソンが・・・・・・なんてこった。俺より10以上も若いというのに・・・」
ネルソンをよく知っている村長のジョセフが、報せに目を通しながら苦い表情で言った。エレンたちの兄貴分であったデインが、農具の修理の手を止めながら応える。
「もし・・・宰相殿が亡くなったら、この国は揺れましょう。・・・もっとも、エレンもスティークの乱を鎮圧し、後継者としては申し分ありませんが・・・」
デインの言葉に、ダンの初恋の人であるマミヤが応えた。
「それでも、エレンはまだ20歳です。あの子に果たして、ネルソンさんの後継ぎが務まるやら・・・」
「・・・まあ、今はネルソンの回復を祈るしかないな。それに・・・エレンたちの無事もな・・・・・・」
ネルソンの病状は、ゆっくりと、しかし確実に悪化している。
もはや体を動かすこともできず、目を覚ます頻度も少なくなっている。時折目を覚ましたとしても、すぐに眠りについてしまう。
エレンはミア、そしてジャンヌと話し合い、交代しながらネルソンの側に付き添うことにした。マリアは赤子のリーフのみならず、ジャンヌがネルソンに付き添う時には、彼女の息子のアランの世話も見ることになった。
「お父様・・・もう、目を覚まさないのかしら・・・」
エレンがミアと交代しようとした時、彼女が悲しそうにぽつりと呟いた。そんな妹を慰めるように、エレンがその肩に手を置いた。
「ミアは・・・父上とまた、言葉を交わしたいのだろう?きっとその願いは、天に届く。最後まで、希望は捨てるな」
エレンの言葉に目を潤ませてうなずくと、ミアは身を休めるために借りている城の部屋に向かった。それからしばらく経った頃、ネルソンが長い眠りから目を覚ました。
「おお・・・エレンか・・・」
「父上・・・!ミアを・・・ミアを呼んで参ります!ミアが、父上と話をしたいと・・・」
「待て。・・・陛下に、使者を出せ・・・・・・陛下に・・・最後に伝えたいことがある・・・」
「陛下に・・・?分かりました、すぐに!」
ネルソンが再び眠りに落ちてしまう前に、エレンは自らレオナルドのもとに向かった。レオナルドは夕食を終え、寝室に向かおうとしているところであった。
「そうか・・・宰相が、わしにのう」
「はっ!どうか・・・どうか父にお会いくださいませ!おそらく・・・これが最後の願いでございましょう!」
「・・・分かった。サイラス、ついてまいれ」
「はっ」
側近の謀臣であるサイラスを連れ、レオナルドは医務室に駆けつけた。幸いにも、ネルソンはまだ眠りに落ちていなかった。
「陛下・・・このような所にお呼びし、申し訳ございませぬ・・・」
「宰相、無理をするでない。そなたにはまだ、生きてもらわねば困るのじゃ」
「いえ・・・・・・もはや、これまででございましょう。その前に・・・・・・最後の、お願いがござりまする・・・」
「うむ。聞こう。そなたはわしにとって、一番の忠臣じゃ」
レオナルドの言葉に微笑を浮かべると、ネルソンはエレンに視線を向けた。それを悟ったレオナルドも、サイラスに目配せする。
「エレン殿、我らは一旦、ここを出た方がよさそうじゃ」
「はい・・・・・・陛下、何かあったらすぐお呼びくだされ」
「うむ。そうしよう」
ネルソンとレオナルドの意向を受け、エレンとサイラスは医務室を後にした。部屋のドアが閉まる音が、どこか重々しく響く。
「陛下・・・・・・私の後の宰相は、ぜひ・・・エレンに・・・」
「うむ。わしもそのつもりじゃ。貴族どもの中には、宰相の世襲に文句を言う者もいよう。だがそのような者たちは、わしが黙らせてやる。いや・・・わしが動くまでもない。そなたの息子は有能じゃ。自らの力で、異論を言う者たちを黙らせよう」
「そのように・・・評価していただけること・・・・・・あれの父として・・・まことに、嬉しい限り・・・・・・今後も・・・・・・エレンを、お願いいたしまする・・・・・・」
ネルソンの手を強く握りながら、レオナルドが微笑を向けて言った。
「そなたの息子ぞ、何ゆえ粗略に扱おうか。わしは・・・そなたと同じように、あの者を信じておる。何も、案ずることはないぞ」
レオナルドの言葉に、ネルソンが安堵の表情を浮かべた。それから程なくして、ネルソンは再び深い眠りにつき、しばらく目を覚ますことはなかった。
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