巨星墜つ(1)
ここからが、物語全体の第11章になります。また、『第一部』の完結となる話にもなります
レオナルド国王歴4年、冬。
宰相のネルソンが倒れたという報せは、瞬く間にエルドラ城の中を駆け巡った。
「父上!!」
レオナルドの側仕えをしていたエレンが、城の医務室に駆け込んできた。ネルソンはベッドに寝かせられ、辛うじて呼吸が確認できる。
「先ほどから、眠られたままです。執務室で仕事をされていたところ、急に倒れたと、ルシウス殿が・・・」
いち早く駆け付けていたカールが、エレンにそう説明した。ベッドの近くには、苦い表情のルシウスの姿もある。
「ルシウス殿・・・すぐに対応していただき、ありがとうございます」
「いや、俺は大したことはしていない。しかし・・・まさか親父殿が、いきなり倒れるとは」
「いえ・・・父ももう、50になりました。年が明ければ51・・・以前申し上げたとおり、もう何があったとしてもおかしくはありませぬ」
動揺する自分を励ますかのように、エレンが気丈な声で言った。そんな彼に、ルシウスが再び声をかける。
「一応、アルフォードの屋敷には急使を出しておいた。それから、お前さんの妹の所にもな」
「さすがルシウスじゃ・・・手が早いの・・・・・・」
その時、ベッドから弱々しい声が聞こえた。一同が目を向けると、目を覚ましたネルソンが、弱々しい笑みを浮かべていた。
「父上・・・大丈夫でございますか?」
「見ての通りじゃ、大丈夫なはずがない・・・・・・この分では、年を越せても一月・・・生きられるかどうか・・・」
「そのような・・・そのような弱気なことを仰らないでくださいませ!!我が家にはまだ・・・父上が必要でございます!!」
懇願するようなエレンの言葉に、ネルソンが小さく笑みを浮かべた。
「そうかのう・・・わしはこれまで、ずいぶんと惨いことをやってきた・・・・・・その罰が・・・当たったのかもしれんな・・・・・・」
「だとしたら・・・遅すぎるくらいでございましょう・・・!そのような弱音・・・父上らしくありませぬ・・・!」
エレンの言葉に微笑を浮かべたまま、ネルソンは再び目を閉じた。彼の口から小さな寝息が聞こえ、眠りについたことを3人は理解した。
「ともかく、大変なのはこの先だぞ、エレン殿。親父殿が倒れたということは、この国の重しがなくなったということだ」
「左様。これまで息をひそめていた者どもが、一斉に動き出しましょう。エレン殿、十分お気を付けくださいませ」
「ええ・・・義姉上やミアにも、伝えねばなりませぬ」
と、その時。義姉のジャンヌとマリアがそれぞれの息子を伴い、医務室に姿を見せた。
「・・・!義父上・・・!」
「お義父・・・様・・・!」
2人が驚きの声を上げながら、ベッドに横たわるネルソンに近づいた。まだ赤ん坊のリーフがそのただならぬ気配を察したのか、マリアの腕の中で泣き始めた。
「よしよし・・・・・・おじい様は、きっと大丈夫ですからね・・・!」
目に涙をためながら、マリアが泣きじゃくる息子をあやし始めた。ジャンヌの息子で4歳のアランも、張りつめたような表情でベッドの上の祖父を見つめている。
「ははうえ・・・・・・おじいさまは・・・どうしちゃったのですか・・・?」
「アラン・・・おじい様は、今少し休んでおられるのだ。心配ない。いずれ必ず、目を覚まされる・・・」
アランの肩に手を置きながら、ジャンヌが声を震わせて言った。必死に我が子をなだめようとする2人の義姉に、エレンが沈んだ表情で声をかけた。
「義姉上たち・・・このような時に何ですが、今はとても危険でございます。父上に不満を持つ者たちが、何をしでかすか分かったものではありませぬ。どうか・・・身の回りには、十分お気を付けくださいませ」
「ああ・・・そうだな」
アランの頭を優しくなでながら、ジャンヌは緊張の面持ちでエレンを見つめた。
「エレン殿・・・このような時こそ、我が家の結束が試される。いつ何が起きても動じぬよう、強い心を持たねばならぬ」
「ええ・・・仰る通りです。マリア義姉上も、もしもという時の覚悟をしておいてくだされ」
エレンの言葉に、マリアがリーフをあやしながら小さくうなずいた。その後、小さな子供がいる2人の義姉は、一旦屋敷に戻ることとなった。
「お兄様!・・・ッ!お父様・・・!」
2人の義姉と入れ替わるように、今度はミアが、夫のウェイドと共に駆け付けた。ミアはベッドに横たわる父の姿を見るなり、涙をあふれさせながらベッドに取り付いた。
「お父様・・・どうして・・・!?」
「ミア・・・お前も知っての通り、父上ももうよいお歳じゃ。何があったとしても・・・もうおかしくはない」
「でも・・・まだ・・・孫の顔も見せてないのに・・・!」
「ミア、あまり義父上に無理をさせてはならぬ。今日は、一旦帰ろう。な?」
「嫌!目が覚めるまでずっといる!!もう・・・言葉を交わせないなんて嫌よ!!」
「無茶を言うな。・・・義兄上、申し訳ありませぬ」
「いや・・・妹は、昔からこうですから・・・・・・しばらく、側にいさせてやってくださいませ」
結局、その日はネルソンは目を覚まさなかった。ベッドに取り付いていたミアも疲れ果て、いつしかベッドにもたれて眠りに落ちてしまった。
「義兄上・・・ミアは、今のうちに連れて帰ります。このままでは、迷惑でございましょう?」
「いえ・・・カール殿に許しをいただき、城の部屋を1つ借りました。ミアは、しばらくはそこで寝起きさせます。あっ・・・ミアがいなくて、ご迷惑にはなりませんか?」
「なんの。私も、身の回りの家事くらいはできまする。お言葉に甘え、ミアは義兄上にお任せいたしまする」
こうして、ウェイドはミアをエレンに託し、一度家に戻っていった。エレンは眠りに落ちた妹の頭を、優しくそっと撫でるのだった。
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