救いの手(5)
城門でウェイドと出会ってから、およそ1時間後。エレンはエミルと共に長屋に戻ると、そこで待っていた仲間たちに深く頭を下げた。
「すまん!私が・・・私が浅はかであった・・・!」
エレンは仲間たちに、城で見聞きしたすべてを伝えた。だんだんと言葉が弱くなっていくエレンに、一同は同情するような表情を浮かべている。
「結局、基金は作れそうにない・・・・・・みんなから、2日間を奪ってしまった・・・!本当に・・・すまない!!」
仲間たちの顔を見ながら、エレンは再度、深々と頭を下げた。すると小さく笑いながら、カイルがエレンの肩に手を置いた。
「ま、なんかこうなる気はしてたけどさ。けどまあ、楽しかったぜ俺は。この面々で、1つの何かに全力で取り組めたしな」
「カイル・・・」
「それに関しては、私も同感。こうやって、みんなで何かに取り組むなんて、カルド以来じゃない。無駄骨だったかもだけど、私はやってよかったと思うわ」
「カレン・・・!」
カイルとカレンの言葉が、エレンの胸を強く打った。そんな彼に、エミルとダンも言葉をかける。
「正直、負担は大きかったですけどね。でも、僕も楽しかったですよ」
「俺もだ。それに、トール殿という友もできた。そうだろう、トール殿?」
「・・・まあ、俺はカルドの生まれじゃないし、無理やり連れてこられたわけだが・・・・・・でもまあ、お前に免じてよしとするよ、エレン!」
「ああ・・・!みんな・・・かたじけない!!」
思わず目に涙を浮かべながら、エレンは三度、深々と頭を下げた。そんな彼の姿に、仲間たちは視線を交わして笑みを向け合うのだった。
その日の夜。屋敷の外で夜風に当たっていたエレンに、ネルソンが声をかけてきた。
「それで・・・基金はどうなった?」
「・・・父上の、仰る通りでした。私の考えが・・・あまりにも甘うこざいました・・・・・・」
落胆したように言った息子の肩に、ネルソンは手を置いて言った。
「民を救おうとしたお前の心、それは決して間違ってはおらん。しかしな・・・弱き者に目を向けすぎると、国はあらぬ方向に向かってしまうのだ」
「はっ・・・そのこと、肝に銘じまする・・・」
息子の言葉に微笑を浮かべると、ネルソンは遠くを見るような目で言った。
「お前には・・・話していなかったな。わしがなぜ・・・宰相という職を引き受けたか」
「はい・・・思えば、それをうかがったことはありませんな・・・」
「うむ・・・カルドで百姓をしていた時から、わしはこの国に思うところがあった。国の偉い者たちは、果たして民の暮らしを見ておるのか。己の狭い視野に囚われ、本当に必要なことをしておらぬのではないか。そう考えていた矢先の、あの内戦じゃ。先代陛下が、身分に囚われず人材を募った時、わしは己の全てを賭けようと思った。・・・確かに、世に出て楽な暮らしをしたいという下心もあった。だが一番に心にあったのは、この国をより良い方向に導きたいという、そんな大それた思いだった」
「父上・・・」
ふっと小さく笑いながら、ネルソンはさらに言葉を続けた。
「運よくわしは、先代陛下に軍師として取り立てられ、戦は連戦連勝、その功績で宰相になることができた。わしは・・・これでようやく、民の暮らしをよくできると思った。しかし・・・城はわしが思っていた以上に、旧態依然の化け物が巣食う場所であった。それらが国を動かす限り、民の暮らしが楽になるはずもない。だからわしは、戦うことにした。どんな手でも使った。あの化け物どもを城から消し、民の痛みや苦しみを分かる者たちが、政に関われるようにした。・・・それでもまだ、道は半ばじゃ。わしにもまだ、できぬことがたくさんある。お前がしようとしたように、戦で家族を亡くした者を助けたいとも思った。その結果が、あのわずかな一時金じゃ」
「父上・・・」
「本当なら、お前の言うように、1年は戦災遺族を救いたい。しかし・・・お前も知っての通り、そんなことをしては国が潰れる。結局妥協するしかなかった・・・わしの人生は、そんなことの積み重ねであったわ」
自嘲するように言った父の目を、エレンはまっすぐ見つめて言った。
「しかし・・・父上のおかげで、わずかでも救われた者もおりましょう。一時金も、確かにわずかな額かもしれませぬ。3ヶ月もあれば、使い切ってしまうかもしれませぬ。それでも・・・民を想い、その暮らしに寄り添いたいと思った父上の真心、それは本物でございましょう。道は半ばかもしれませんが、それでも・・・父上がいなければ、ここまでになっていたか分かりませぬ」
エレンは父を見つめながら、率直な胸の内を彼に明かした。
「私は・・・父上の全てを認めることはできませぬ。ラダンの遠征・・・ウォンデーヌ殿の件・・・首席顧問官と王妃様の件・・・それを許すことは、この先もきっとありますまい。なれど・・・父上の功績、そして民を想う気持ちだけは、本物であると信じております。私も・・・あなたほどにはなれずとしても、民に寄り添える男になりたいと思っております」
エレンの言葉に、ネルソンは気恥ずかしそうな笑みを浮かべて言った。
「なんだか・・・お前にそう言われるとむず痒いのう。・・・ゴールに同じ話をしたときは、弱者に気を遣う必要などありませぬ、などと言われたものじゃ」
「それは・・・ゴール兄上らしき物言いですな。しかし・・・私は、私でございますれば」
全く嘘のないエレンの言葉に、ネルソンは思わず声を上げて笑った。そんな父に釣られるように、エレンも笑い声を上げるのだった。
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