毒消し(5)
今回、人によってはちょっと閲覧注意の内容となっております。ご了承ください
ダンからの急報を受けたエレンは、すぐに父に会おうと城に向かった。しかし・・・
「申し訳ございませんが、エレン殿をしばらく城に入れるなとの、宰相殿のご命令です」
「そんな・・・なんとか、中に入れてはもらえませぬか!?」
すでに先手を打っていたネルソンの命により、エレンは城に入ることができなかった。そうこうしている間にも、武装した兵士たちが次々と、城門の前に集結する。
「これは・・・?さては、もう首席顧問官の所領に攻め込むつもりか?」
「我らには、何も分かりませぬ。・・・さあ、お引き取りくださいませ」
衛兵に武器を突きつけられ、エレンはやむなく城を後にした。父に文句の一つも言えず、事態をただ見ていることしかできない、悔しさと無念を抱えながら。
ダンやエレンの読み通り、ジェームズの所領への侵攻は、速やかに行われた。
四将軍筆頭のゴードンが率いる軍勢が、ベルナード家の所領に攻め込んでいった。ジェームズの一族は城に籠って抵抗する構えを見せたが、逆賊になることを恐れた家臣たちはあっさりと主の一族を裏切り、彼らの首を持って討伐軍に降伏した。
かくして、ベルナード家は逆賊として、一族ことごとく首を討たれた。ただ1人、王妃のシャーンだけが、罪の追及を免れて今も生きている。
「ずいぶん派手にやったな、宰相殿も・・・」
ジェームズの死から5日後。ようやく登城を許されたエレンに、廊下で出会ったトールが暗い表情で声をかけた。
「ああ・・・父上は、あの後屋敷にも戻られなかった。昨日まで私の登城も禁じ、城でひたすら、首席顧問官の一族を葬ることに力を尽くしていた・・・・・・これではまるで、ウォンデーヌ殿の一件と同じだ」
「しかし、やらなきゃ親父さんがやられてた。これも、この城で生き抜くための戦いってやつだ」
トールの言葉に、エレンは何も言葉を返せなかった。それと時を同じくして、自室で悲しみに暮れていたシャーンのもとに、侍女の1人がやってきて告げた。
「王妃様。宰相殿が、至急お会いしたいと」
「宰相が・・・?分かりました。すぐに行きます」
シャーンは己を奮い立たせ、表情を引き締めてネルソンのもとへと向かった。しかし彼女のその強がりを、一瞬で打ち砕く光景がそこには広がっていた。
「こ・・・これは・・・・・・」
シャーンの目の前にはネルソンがひざまずいていたが、彼の前には、ずらりと首が並べられていた。その首が誰のものなのか、シャーンは全て知っている。
「お忙しいところ、申し訳ございませぬ。なれど・・・謀反人の一族の首、ご親族である王妃様に確認していただきたいと思いましてな」
父のジェームズや、兄のロベルト。他にも弟や妹、叔父や叔母、いとこといった面々が、首となってシャーンの前に揃っていた。シャーンは気が狂いそうになるのを必死にこらえながら、気丈にも声を絞り出した。
「確かに・・・相違ない。ご苦労でした、宰相殿」
シャーンの言葉に、ネルソンは小さな笑みを浮かべた。
「では、これらの首は3日間、城下に晒します。では・・・私はこれにて」
従者に首を運ばせながら、ネルソンは去っていった。シャーンはそれを見送ると自室に駆け込み、これまで我慢していた涙を声を上げて流し始めるのだった。
ネルソンの指示で、ベルナード一族の首は城下に晒された。執務室の窓からそれを見ていたネルソンのもとを、怒りの表情を浮かべたエレンが訪ねてきた。
「父上・・・!あまりにも、惨い仕打ちではございませぬか!?」
エレンの怒りの言葉にも、ネルソンは表情一つ変えずに応えた。
「言ったであろう?宰相の道は修羅の道だと。今更・・・この程度で騒ぐでない」
「この程度・・・?噂で聞きました。父上は、ジェームズ殿やご一族の首を、王妃様に見せつけたと!そこまでして・・・王妃様を追い詰めたいのですか!?」
エレンの問いかけに、ネルソンは小さくため息をつきながら答えた。
「分かっておらぬな・・・・・・まだ・・・足りないくらいだ」
「父上・・・!あなたは・・・!」
エレンがネルソンの方へ歩み寄ろうとしたその気、背後からやって来た衛兵が彼の肩を掴んだ。エレンを引き留めたその衛兵は、義弟のウェイドであった。
「義兄上、どうか抑えてくだされ」
「ウェイド殿・・・!放されよ!父上に、ひとこと言わねば気が済まぬ!」
「お気持ちは分かります、されど義父上もご覚悟を決めてのこと!どうか・・・お抑えくだされ!」
「・・・エレン。お前には、陛下のお側仕えの仕事があろう。このような所で油を売るな。早く行け」
ウェイドに体を掴まれたエレンは、無理やり執務室から出された。やり場のない怒りを抱えたまま、エレンはレオナルドのもとに伺候した。
「おお・・・エレンか」
「陛下・・・此度の一件、父がまたも大それたことを・・・!」
「よい。そなたの父には感謝せねばならんのじゃ。謀反を企んだ逆賊を、見事討ってくれたからのう」
平然と言い放ったレオナルドに、エレンは思わず食ってかかかった。
「しかし・・・王妃様が不憫でございます!ご一族を・・・いっぺんに失い・・・」
「あれも覚悟はしていたであろう。刃を握るということは、己も刺される覚悟がなければな。・・・さて、今日も遊ぼうではないか、エレン。何をしたい?サイコロか・・・陣取りか。トランプでもよいぞ。そなたに選ばせてやる」
微笑と共に言ったレオナルドに、エレンはそれ以上の言葉をあきらめた。ここで何を言ったところで、この若き国王には響かないであろう。その無力感が、今のエレンを支配している。
その夜。屋敷に戻ったエレンは、城で聞いた話をジャンヌとマリアに告げていた。
「まあ・・・そのようなことが・・・」
恐ろしそうな表情を浮かべるマリアに対し、ジャンヌは顔色一つ変えなかった。怒りに声を震わせながら、エレンが2人の義姉に告げる。
「あまりにも、残酷でございます。父上は、王妃様のお気持ちを何だと思っているのか・・・!」
結局この日も、城から戻れないと父から使いが来た。今のエレンには、父が自分から逃げているとしか思えなかった。だが・・・
「エレン殿。そなたは憤っているが、私は義父上の判断は正しいと思う」
「ジャンヌ・・・義姉上・・・」
ジャンヌが冷静な表情を保ちながら、落ち着いた声でエレンに言った。
「義父上にとって、これは戦であった。戦とは、敵を首にせねば終わらぬもの。なればこそ、義父上は禍根を残さぬために、ベルナードの一族を全て首にされたのだ。それに何の不思議がある?」
「それは・・・しかし・・・!」
「エレン殿。そなた、義父上の後を継いで宰相になると決めたのであろう?ならば、このようなことで動じるべきではないと思うがな」
エレンに失望したような目を向けながら、ジャンヌは部屋を去っていった。あとには未だ収まらぬ怒りを抱えたエレンと、怯えたような表情を浮かべるマリアだけが残された。
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