毒消し(4)
エレンがレオナルドからの警告を受け取った、次の日のこと――
「父上。陛下がお呼びということは、いよいよ陛下も、宰相の追い落としをお認めになったということでございますな?」
この日、ジェームズとその長子のロベルト、および2人に味方する文官たちが、レオナルドに呼び出されて謁見の間に向かっていた。息子の言葉に応えるように、ジェームズが上機嫌で口を開く。
「うむ。やはり陛下は、聡いお方よ。今宰相を庇ったとて、あのお方には何の得もない」
一行が謁見の間に入ると、衛兵たちは心得たように彼らを通した。そこに入ったジェームズたちが、玉座に腰かけるレオナルドに慇懃に頭を下げる。
「陛下・・・ご機嫌麗しゅう・・・」
と、その時であった。謁見の間の至る所に隠れていた兵士たちが、弓や剣を構えながらジェームズの一行を取り囲んだ。
「ち・・・父上!」
「陛下・・・これは、いかなることでございましょう・・・!?」
状況を呑みこめず、ジェームズたちは完全に混乱していた。するとそこに、四将軍の一員であるルシウスとランスを左右に従え、ネルソンがゆっくりと姿を現した。
「これは・・・首席顧問官。陛下から、謀反人が間もなくやってくると聞いて、兵を揃えて待っていたのですが・・・・・・よもや、それがあなたとは」
「宰相・・・!」
この瞬間、ジェームズたちは悟った。全ては、この男の策だったのだと。・・・そしてこの時、彼はあることに気が付いた。王妃であり、自身の娘であるシャーンが、この場にいないということに。
「なぜじゃ!なぜ、わたくしが陛下のお側におってはならぬのじゃ!?」
そのシャーンは今、自室で侍女たちに幽閉されていた。侍女の1人が申し訳なさそうに、シャーンに言葉を投げかける。
「お許しくださいませ。なれど、陛下からのきつい言いつけでございます。ご自身がお呼びになるまで、王妃様を決してこのお部屋から出すなと」
「そんな・・・!陛下が・・・そのような・・・!」
体と心を絶望に蝕まれ、シャーンはその場に頽れた。一方、謁見の間では、ジェームズがレオナルドに視線を向けて叫んでいた。
「陛下・・・何ゆえでございます!?わたくしは・・・陛下のためを思えばこそ・・・」
「首席顧問官」
ジェームズの言葉を遮るように、レオナルドが淡々と言った。
「わしはのう、宰相に恩義を感じておるのじゃ。・・・14年前、この国で起きた未曽有の内乱を鎮めたのは、一介の百姓だったこの男であった。この男の知略なくば、あの内乱が収まっていたとは思えぬ。ネルソン・アルフォードこそ、我が国の宝、我が国の忠臣。そう思えばこそ、父はこの者に宰相の位を与えたのじゃ」
そこで一旦言葉を切ると、レオナルドは厳しい視線でジェームズを睨みつけた。
「それに比べて、そなたやその一族が一体何をした!?国の一大事にもかかわらず、そなたは首席顧問官の立場を守ることに汲々とし、己が一族の利を貪っただけだったではないか!そのような者の言葉など、我が耳に入れるに値せぬ。わしが心から頼りとするのは、真の忠臣であるネルソン・アルフォードよ!!」
ジェームズとその一派にそう言い放つと、レオナルドは周囲に控える兵士たちに命じた。
「我が国が誇る精鋭たちよ、王の名をもってそなたらに命ずる。謀反人ジェームズ・ベルナードと、それに与する不忠の輩、ことごとく討ち果たすのじゃ!!」
「はっ!!」
レオナルドの言葉に、兵士たちが一斉に武器を構えた。ジェームズが絶望の表情を浮かべ、縋るようにレオナルドに訴える。
「へ・・・陛下・・・!」
その時、放たれた1本の矢が、ジェームズの心臓を貫いた。それを合図として、ルシウスとランスが率いる兵士たちが一斉に、ジェームズの一派に襲い掛かった。
――もはや、それはただの殺戮であった。その殺戮を凝視しながら、ネルソンとレオナルドが一瞬視線を交わし、小さくうなずき合うのだった。
「エレン!エレン、大変だ!!」
それから、しばらくのこと。城勤めが休みであったため、屋敷にいたエレンのもとに、息を切らせてダンがやって来た。
「ダン!一体、どうした!?」
「首席顧問官が・・・謀反を企んだそうだ。首席顧問官とその一党は・・・陛下の命を受けた宰相殿によって・・・討ち取られたと・・・!」
「・・・!首席・・・顧問官が・・・!?」
その報せにエレンのみならず、偶然近くを通りかかったカレンもまた、驚愕することとなった。彼女は声を震わせながら、兄であるダンに問いかけた。
「王妃様は・・・?あの方は、首席顧問官の娘御よ。もしかして、あの方にも何か累が及ぶんじゃ・・・」
「いや、そこまでは分からぬ。噂では、陛下はすぐに軍をまとめ、首席顧問官の所領を攻めるよう命じられたとか。おそらく、首席顧問官のご一族が、ことごとく討ち取られることになるぞ!」
「・・・何という・・・・・・これが・・・父上のやり方か・・・!」
エレンが父の行いに愕然としていた、まさにその頃。ようやく部屋を出ることを許されたシャーンが、涙に濡れた目で夫を問い詰めていた。
「陛下・・・何ゆえでございます!?父は・・・あなた様のことを、思えばこそ・・・!」
「すまぬな、シャーン。しかし・・・天秤とは、そう簡単には釣り合わぬもの。そなたの父は・・・いささか重すぎたのじゃ」
レオナルドのその言葉を受け、シャーンが声を震わせながら問いかけた。
「それは・・・陛下のお言葉でございますか?・・・それとも・・・あの男の言葉でございますか・・・!?」
その問いに答えることなく、レオナルドはシャーンの顔を見つめ続けた。シャーンはそれですべてを察し、夫の前で頽れるしかなかった。
「分かりました・・・・・・すべては・・・陛下の御心のままに・・・・・・!」
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