毒消し(3)
ジェームズとその一派が、アルフォード家追い落としに動く一方で――
「陛下・・・陛下の番にございます」
エレンは今日も、国王であるレオナルドの側仕えを務めている。この日の遊びは陣取りゲームであったが、レオナルドの表情にはいつもの余裕がなく、先ほどから上の空になることが多い。
「お・・・おお・・・そなた、療養中に腕を上げたか?いつもはそなたを追い詰めるわしが、今ではそなたに追い詰められておる」
盤面の状況に苦笑いしながら、レオナルドが次の一手を打った。対してエレンが素早く自分の石を置き、レオナルドの思惑を封じ込める。
「恐れ入りまする。なれど、私の腕が上がったわけではございません。・・・恐れながら、陛下に何やら、迷いのようなものが感じられまする」
「迷い、か・・・・・・当たらずとも、遠からずと言ったところか・・・」
レオナルドが再び、自分の石を盤の上に置く。それは双方の石が集中している所から、はるか遠くに置かれる形となっていた。
「差し出がましいようですが・・・もし私にできることがあれば、何なりと仰ってくださいませ。私にできることでしたら、どのようなことでもいたします」
「そう言われてものぉ・・・わしも今、何ができるか分からぬ。まこと、世の中とは生きづらいものよ」
エレンが再び、戦況を優位にする石を置いた。これでエレンの勝ちはほぼ決まり・・・かと思われたが・・・
「エレン・・・これからわしが言うことは、あくまで戯言と思え。決して、鵜呑みにするでないぞ」
「はあ・・・かしこまり、ました・・・」
レオナルドの意図を掴めず、エレンが訝しそうに声を上げる。しかしレオナルドが口にした言葉に、エレンの心は凍り付くこととなった。
「そなたの父は・・・あと何日生きられようかのう」
「・・・!陛下・・・!?」
「そなたも察していよう。今のこの城の空気・・・お世辞にも、そなたらにとって心地よいものとは言えぬ。それに・・・近く緊急会議が開かれようとしていること・・・存じておるか?」
レオナルドが、先ほど盤面の中央から離れた所に置いた石に連なるように、さらに1つ石を置いた。エレンは必死に心を落ち着かせながら、自分の石を置いてその動きを封じ込めた。
「いえ・・・父も、おそらく知らぬでしょう」
「それも当然じゃ。何せ、宰相やその一派には、まだ何も知らされておらぬからのう」
レオナルドが、再び中央から離れた場所に石を置いた。まるで、先ほど置かれた石と共に、中央を取り囲もうとしているかのように。
「そこで何が話されるのかは、まだわしにも分からぬ。しかし、大方の見当はつく。そこでの振る舞い次第では・・・そなたの父は生きて帰れぬ」
「そのような・・・まだ、ウォンデーヌ殿の一件から、さして時間が経っておらぬというに・・・」
「だからこそじゃ。そなたの父を疎んじておる者にとっては、今が格好の機会。・・・イリア・ウォンデーヌの首を晒したことは、宰相の間違いだったかもしれぬな」
レオナルドが、さらに盤面に石を置いた。もはや戦況はひっくり返り、エレンの石はレオナルドの石に包囲されかけている。
「陛下・・・1つだけ、お答えください。その・・・その動きの首謀者は、やはり・・・」
「誰とは言わぬ。が・・・そなたも大方、見当がついていよう」
エレンが震える手で、新たな石を盤面に置いた。だがレオナルドはそれを見越していたかのように、余裕の表情で自身の石を置いた。
「王手じゃ。ここから、ひっくり返せるか?」
「・・・まいりました。やはり・・・陛下はお強うございます」
エレンの言葉に、レオナルドは満足そうな笑みを浮かべた。さながら、物事が自分の思い通りに進んで素直に喜ぶ、子供のような笑みであった。
「・・・そうか。陛下が、そのようなことをな・・・」
数時間後。勤めを終えたエレンはすぐに、父の執務室を訪れた。
「やはり・・・緊急会議のことは、ご存じありませんでしたか」
「うむ・・・・・・陛下の仰る通り、カールやルシウスも知らぬであろう。知っていれば、話を耳に入れた時点で、わしのもとに来たはずじゃ」
苦い表情でそう言ったネルソンだったが、次の瞬間彼の顔はほころんだ。
「しかし・・・・・・わしは1つ確信したぞ。天はまだ・・・我が家を見捨ててはおらぬ」
父が口にしたその言葉に、エレンは無性に嫌な予感がした。
「父上・・・一体、何をなさるおつもりですか?」
「お前が知る必要はない。お前は常通り、陛下のお側に仕えるのじゃ。この件は・・・わしが対処する」
「父上・・・ウォンデーヌ殿や、イリア殿のようなことだけは・・・」
「お前はもう帰れ。ここから先は、わしの仕事じゃ」
有無を言わさぬ父の口調に、エレンは引き下がるほかなかった。ネルソンは彼が去ったのを確かめると、すぐに1枚の書状を書き上げた。
「この書状を、すぐにカルドに届けるのじゃ。急げ」
書状を受け取ったネルソンの従者が、急いで厩舎に向かい始める。ネルソンは椅子に腰を下ろすと、手を組んで小さくため息をついた。
「これでよし・・・・・・わしに手を出そうとしたこと、骨の髄まで後悔させてくれる・・・!」
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