↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/125

涙の先(3)

カレンと涙を流し合った後も、エレンの気持ちは、未だに晴れない。


彼はベッドに身を横たえながら、ずっと考え続けていた。もし・・・イリアの想いに、もっと早く気づけていたら。もし・・・父の策略に、もう少し早く気づけていたら。もし・・・バリーを説得し、城に連れ帰ることができていたら。そのようなことを考えても、無駄だということは分かっている。だがそれでも、決してあり得なかったもしもの可能性を、エレンは何度も、頭の中で繰り返した。


「・・・エレン殿。陛下の見舞いの使者として、サイラス・カーン殿がいらしている」


エレンの部屋のドアを開けたジャンヌが、淡々とした様子で告げた。


「会うのが難しいなら、そう伝えるが・・・・・・どうする?」

「・・・会います・・・・・・陛下のご使者なら・・・会わぬわけにはいきますまい・・・・・・」


何とか上体を起こしながら、エレンが消え入りそうな声で言った。ほどなくジャンヌの案内で、サイラスがエレンの部屋にやって来た。


「此度は・・・まこと、大変な目に遭ったな。陛下も、そなたにはいたく同情しておられる」

「それは・・・まことに、恐れ多いこと・・・・・・ご心配をおかけし、申し訳ございませんと、陛下にお伝えくだされ・・・・・・」


エレンの声には、力が全く感じられなかった。サイラスは気の毒そうな目で、憔悴しきった目の前の若者を見つめている。


「あまりにも・・・辛い出来事であったな・・・・・・親しくしていた幼馴染に、殺されかけるとは・・・」

「いえ・・・すべては・・・私のせいにございます・・・・・・むしろ・・・あの時死んでいた方が、よほど幸せだったかもしれませぬ・・・・・・」


その言葉を廊下で聞いたカレンが、思わず小さな声を漏らした。その声に気づくことなく、サイラスがたしなめるようにエレンに言った。


「エレン殿、そのようなことを言ってはならぬ。そなたとウォンデーヌの娘の間に、何があったかは今は聞くまい。・・・なれど、元はといえば、ウォンデーヌが謀反を企てたのがすべての始まり。そなたはそれに巻き込まれただけ。そう思い、心を軽くせよ」

「・・・それができれば・・・どんなに、楽になれましょうか・・・・・・なれど・・・私には、無理でございます・・・・・・イリア殿の願いに応えられず、晒されたその首を、下ろしてやることもできず・・・・・・まこと・・・情けない限りでございます・・・・・・」


精気のないエレンの言葉に、カレンはこらえきれず涙を流し始めた。サイラスは小さくため息をつくと、エレンを憐れむように言った。


「そなたは・・・カルドから戻ってくるべきでは、なかったやもしれんな・・・・・・カルドで穏やかな日々を過ごしていた方が、そなたにとっては良い人生だったかもしれぬ」


サイラスのその言葉に、エレンは小さく笑みを浮かべた。


「私も・・・そう思います・・・・・・なれど・・・無理だったのでございます・・・・・・私には・・・この道しかございませんでしたゆえ・・・・・・」

「・・・ともかく、今は体と心を休めることじゃ。陛下も、そなたとまたゲームがしたいと仰せじゃ。一日も早く、城に戻ってまいれ」


そう言い残し、サイラスはアルフォードの屋敷を後にした。うなだれるエレンにかける言葉を見つけられず、カレンは情けなさからさらに涙を流すのだった。



その夜。城での仕事を終えたネルソンが、アルフォードの屋敷に戻ってきた。


「お帰りなさいませ、お義父様」

「おじいさま、おかえりなさいませ!!」


2人の嫁と共に出迎えてきた孫のアランに、ネルソンは明るく笑みを向けた。


「おおアラン、相変わらず元気がいいことじゃ。・・・それ!」


ネルソンが肩車をしてやると、アランは嬉しそうに叫び声を上げた。そんな息子の姿に微笑み浮かべつつ、ジャンヌの表情はどこか暗かった。


「義父上・・・エレン殿のことなのですが・・・」

「よい。聞かずとも、大方見当がつく。・・・よしアラン、母上や叔母上と共に遊んで参れ。じじはこれより、叔父上の顔を見てくるからの」

「はい、おじいさま!!」


ジャンヌとマリアにアランを託すと、ネルソンはエレンの部屋に向かった。その途中、彼はカレンと鉢合わせたが、彼女の表情もジャンヌと同じく・・・いや、それ以上に暗かった。


「あっ・・・お帰りなさいませ、宰相様・・・」

「うむ。・・・エレンの様子は?」

「・・・落ち込んでます。夕食も運んだのですが、一向に手をつけず・・・」

「そうか。・・・2人で話す。しばし外せ」


カレンにそう告げると、ネルソンは息子の部屋に足を踏み入れた。エレンはベッドに上体を起こしながら、窓から見える無人の屋敷に目を向けていた。


「エレン・・・わしのことを、さぞかし恨んでおろうな」


ネルソンが声をかけると、エレンはゆっくりと彼の方へ振り返った。エレンが表情をゆがめて小さくうなずくと、ネルソンは彼の目を見つめて告げた。


「いくらでも恨め。なれど・・・わしは己の行いを悔いてはおらぬ。・・・お前と違ってな」


そう言い残し、ネルソンは息子の部屋を後にした。エレンは悔しそうな表情を浮かべながら、布団の端を震える手で握りしめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。