レシピの秘密(3)
エレンがイリアのもとを訪ねた、翌日のこと。エルドラ城下に、ハウルとその一族の首が晒された。
「なぜだ・・・?何ゆえ、ハウルとその一族が・・・?」
登城したバリーには、なぜハウルが処刑されたのか、その理由が分からなかった。しかし何事かと押し寄せた群衆に、衛兵が大きな声で叫びかけた瞬間、彼の顔から血の気が引いた。
「この者は、宰相殿の暗殺を企てた謀反人として誅された!恐れ多くも陛下がご主催の宴を利用し、宰相殿を亡き者にせんとしたのじゃ!」
(よもや・・・計画が・・・漏れたのか・・・?)
そんなはずはない、とバリーは思おうとした。しかし、腹心の首が目の前で晒されているという現実が、彼に底知れぬ恐怖を味わわせた。
「父上を・・・暗殺・・・!」
バリーと同じく登城の途中だったエレンが、衛兵の言葉に思わず息を飲んだ。群衆の1人として首を目にしたイリアも、困惑と恐怖が入り混じった表情を浮かべる。
「暗殺・・・怖い・・・」
2人から離れた場所で衛兵の言葉を聞いたサラが、付き添っていた兄のトールに縋りついた。トールは妹の肩を軽く叩きながら、何とか慰めようと声をかけた。
「大丈夫だ、未遂で済んだんだから。・・・しかし、宰相殿はこれでどう動く?あのお人が、こういう機会を逃すとは思えねえが・・・」
トールの言葉通り、ネルソンはすでに動き始めていた。
「陛下、宰相殿が至急お目通り願いたいと仰せです」
王妃のシャーンと共に朝食をとっていたレオナルドのもとに、側仕えの者がやってきて伝えた。シャーンが不快そうな顔で、側仕えの者に声をかける。
「今、陛下はお食事の最中じゃ。そのようなときに目通りなど、言語道断。時間をずらすようお伝えなされ」
「いや・・・会おう。宰相とて承知のはず、その上で目通りを願っておるのじゃ」
食器を置いて謁見の間に向かい始めた夫に、シャーンはそれ以上かける言葉を失った。渋々ながら食器を置き、夫と共に謁見の間に向かうと、そこにはすでにネルソンの姿があった。
「陛下・・・王妃様・・・お食事の最中、申し訳ございません」
「よい。話というのは、晒し首となった文官のことであろう?・・・確か・・・」
「ハウル・フレイク。若手の文官の有望株で、ウォンデーヌ殿も目をかけておいででした」
「そうか・・・しかし、大それたことを企てたものよ。わしが皆の、日頃の働きを労うために用意していた宴を、そなたの暗殺に利用しようなどとは・・・」
心から不愉快そうに、レオナルドが吐き捨てた。
「まこと、不敬としか言いようがありませぬ。・・・なれど、その原因を作ったのは、他でもないこの私でございます」
「・・・そなたが?どういう意味じゃ?」
「ラダンでの大敗・・・そしてスティークの反乱・・・・・・私への不満を募らせておる者は、まだまだたくさんおりましょう。おそらく、フレイクは氷山の一角。詳細に調べれば、奴の背後で動いていた者ども・・・次々と明らかになりましょう」
ネルソンはそう言うと、レオナルドとシャーンに深々と頭を下げた。
「先代陛下から、信頼の証として賜ったこの宰相の職・・・私は、いささか長く就きすぎたのかもしれませぬ。カール・マリクによれば、文官たちの間で、私の暗殺に関する噂が公然と飛び交っているとか。・・・このような混乱を招いた責任は、取らねばなりません」
「・・・宰相殿。そなた、何を言い出す気です?」
シャーンが緊張の面持ちで尋ねると、ネルソンは心から申し訳なさそうな視線を彼女とレオナルドに向けて言った。
「宰相の職・・・今この時をもって辞することといたします。後任には、陛下が見込んだ者をお取り立てくださいませ」
「・・・宰相よ。それは・・・何の戯れじゃ?」
いつになく真剣な表情で問いかけたレオナルドに、ネルソンは顔を伏せながら答えた。
「戯れなどではございませぬ。私は・・・これ以上の混乱を避けるべきだと考えております。それには、私が宰相の職から降りるのが一番かと・・・」
「ならぬ」
ネルソンの言葉を遮るように、レオナルドが断固とした口調で言った。
「宰相よ・・・そなたは父に誓ったはずじゃ。己の身命をこの国に委ね、我ら王家を支えていくと。それを反故にする気か?」
「・・・なれど、このままでは私に反感を抱く者が、次々と乱を起こしましょう。それを未然に防ぐためにも、ここは私が身を引いた方が・・・」
「その必要はない。わしにとって・・・いや、この国にとって、そなたは必要な男なのじゃ。それを手放すようなことは決してせぬ。たとえ誰が何と言おうと、わしはそなたを決して見捨てぬ。それを肝に銘じよ・・・!」
レオナルドの言葉に、ネルソンは深々と平伏した。彼はわずかに顔を上げると、レオナルドの目を見つめながら言った。
「陛下のお気持ち・・・しかと承りました。かくなる上は、この命尽きるその時まで、賜った勤めを全うする所存でございます」
「ふむ。まずは、フレイクの背後を徹底的に洗わねばならぬ。宰相よ、どんな手を使ってもよい。必ずや、この不届きに加担した者、全てに裁きを下すのじゃ」
「はっ・・・!必ずや・・・成し遂げて見せまする・・・!」
ネルソンは国王夫妻に頭を下げると、2人の前から去っていった。謁見の間から彼が出てくると、壁にもたれかかっていた盟友のルシウスが、小さな笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「賭けは、お前さんが勝ったようだな。それで・・・どうする気だ?」
「陛下のお許しをいただいた。これより・・・謀反人を徹底的に処罰する」
ご覧いただきありがとうございます。
評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします




