幸せな結婚(5)
ウェイドに助けられてから、程なくのこと。ミアの叫びを聞きつけた城下の町人たちが、意識を失ったウェイドを彼の自宅まで運び、さらに医者を呼んできてくれた。医者はウェイドの怪我の手当てを終えると、固唾を飲んで見守っていたミアに告げた。
「運がようございました。幸い急所は外れております。一月か二月安静にすれば、完全に治るでしょう」
「良かった・・・本当に、ありがとうございました・・・!」
ミアが深々と頭を下げると、医者は塗り薬を置いて去っていった。するとそれを見計らっていたかのように、ウェイドが眠りから目を覚ました。
「んっ・・・ここは・・・」
「ウェイド!・・・良かった・・・本当に・・・!」
ウェイドの声を聞くなり、ミアは涙ぐみながら彼のもとに駆け寄った。ウェイドはそれだけですべて理解したのか、ミアに穏やかな笑みを向けた。
「ご無事で、何よりでございました・・・・・・申し訳ございません。私のために、お手を煩わせてしまって・・・」
「何言ってるのよ、あなたは命の恩人よ。その恩人が私のために怪我をしたのに、それを放っておくことなんてできないわよ・・・!」
感情の波を抑えきれず、ミアの両目から大粒の涙が流れた。彼女はウェイドの手を両手で握ると、その目を見つめながら謝罪の言葉を告げた。
「ごめんなさい・・・!私のせいで、こんなことになって・・・!」
「いえ・・・あなたは悪くありません。それに・・・」
気恥ずかしそうな表情を浮かべると、ウェイドはさらに言葉を続けた。
「あなたのことを、守りたかったのです・・・・・・私にとって、あなたはかけがえのないお方・・・・・・身分違いであることは、百も承知ですが・・・・・・私は・・・あなたの・・・ことが・・・」
と、その時であった。ミアが両手でウェイドの顔を抱くと、その唇に自らの唇を重ねた。突然のミアの行動に、ウェイドが驚いたような表情を浮かべる。
「ミア・・・殿・・・?」
「私も・・・あなたのこと、大好き・・・・・・身分なんて、そんなの・・・そんなの、どうだっていいの!前にも言ったでしょ・・・?私は元は・・・百姓の娘よ・・・あなたよりも・・・ずっと下の・・・身分の・・・」
「・・・なれど、今は・・・」
「だから、そんなのどうだっていいって言ってるの!私・・・あなたのこと、本気で好きになっちゃったの。あなたが・・・私のことを、大切に思ってくれているように・・・・・・私も・・・あなたのことを・・・!」
ウェイドの胸に顔をうずめながら、ミアは声を上げて泣き始めた。ウェイドは戸惑った表情を浮かべたものの、やがて静かに微笑みながら、ミアの頭を優しく撫でた。
「嬉しゅうございます・・・・・・例え・・・叶わぬ恋であろうと、あなたと・・・気持ちを通じ合えた・・・・・・私は・・・それだけで幸せでございます」
――その時、ミアはついに決意した。彼女は涙に濡れた顔を上げると、ウェイドに決意がこもった声をかけた。
「ウェイド・・・会ってほしい人たちが、いるの」
その夜。ミアは城勤めを終えて帰ってきた兄と父を、ウェイドの家へと連れてきた。
「ミア・・・この方は・・・?」
横たわるウェイドを目にしたエレンが、ミアにそう問いかけた。
「紹介するわ。ウェイド・レスト・・・お城に仕える衛兵で・・・私が、心から好きになった人」
「・・・!ミア・・・!」
ミアの告白に、エレンが驚きの声を上げた。ネルソンは表情を変えなかったが、床に横たわるウェイドを見て問いかけた。
「その怪我・・・いかがした?」
「宰相殿・・・エレン殿・・・このような所に足を運ばせてしまい、申し訳ございません・・・!」
必死に起き上がろうとしたウェイドの肩に、ミアが手を置いて制止した。
「そのままにして。まだ、動いちゃだめなんだから」
「なれど・・・・・・」
ミアは首を横に振ると、潤んだ瞳で兄と父を見ながら言った。
「私・・・最近ずっと、彼とここで会ってたの。さっき・・・私が人攫いに襲われて・・・・・・ウェイドは、私のことを助けてくれたの。怪我は、その時に・・・」
「・・・そうか」
ネルソンが得心して声を上げると、ミアが強い決意を込めた表情で言った。
「お父様・・・お兄様・・・私・・・決めたわ。この人と・・・ウェイドと・・・結婚する」
その言葉に、エレンとウェイドが同時に驚きの声を上げた。ウェイドが必死に身を起こしながら、ミアに叫ぶように声をかけた。
「な・・・なりませぬ!私は、しがない衛兵の1人・・・宰相殿の娘御とは、到底・・・釣り合いませぬ!」
「ウェイド・・・お願いだからそんなこと言わないで・・・!私・・・身分で結婚が縛られるなんて、そんなの・・・そんなの絶対に嫌!!私は・・・好きになった人と結婚したいの!一緒にいて幸せだと感じられる、そんな人と結婚したいの!!」
「なれど・・・!」
ウェイドの体に抱き着きながら、ミアは涙に濡れた目でネルソンを見つめた。
「お父様、お願い!!私・・・もう、彼がいない人生なんて考えられないの・・・!だから・・・この人と、一緒にいさせて!!私の・・・最後のわがまま、聞いて・・・!!」
ウェイドの体を強く抱きながら、ミアは声を上げて泣き始めた。ウェイドがそんな彼女の体を、優しくそっと抱き返す。
エレンは妹の決意に、返す言葉も見つからなかった。するとネルソンが娘を見つめ、彼女の決意を確かめるように問うた。
「後悔は・・・せぬのだな?」
「ええ・・・絶対、後悔なんてしないわ・・・!」
「まこと・・・その男が好きなのだな?」
「ええ・・・!ウェイドのこと・・・大好きよ・・・!」
「ミア殿・・・」
ネルソンは娘の言葉を受け止めると、ウェイドに視線を向けて言った。
「ウェイド殿・・・娘は、家事もろくにできぬ。世間知らずで、気が短くて、己の意思を絶対に曲げぬ頑固者じゃ。・・・それでも、娘のことを・・・好きでいてくれるか?」
ネルソンの問いかけに、ウェイドは力強くうなずいて答えた。
「はい・・・私は・・・ミア殿のことを・・・離したくありませぬ・・・!」
「・・・!ウェイド・・・!」
目から涙を流しながら、ウェイドが震える声で言った。その答えを受け、ネルソンが晴れやかな表情で告げる。
「ならば・・・・・・この娘を、あなたに託しまする。どうか・・・幸せにしてやってくださいませ・・・!」
ネルソンが深々と頭を下げると、エレンもすぐにそれに続いた。ミアはウェイドと顔を見合わせると、泣き笑いしながら父に感謝を告げた。
「ありがとう・・・お父様・・・!」
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