幸せな結婚(4)
その日、ミアは城下で買った菓子を手に、ウェイドの家を訪れていた。
この菓子は、城下でも人気の職人が作った、高い評判を誇るものである。ミアは長い列に朝から並び、無くなる寸前で何とか買うことができたほどであった。
(早く、このお菓子をウェイドと一緒に食べたいわ。今日はどんなお話ができるかしら・・・)
花の手入れが終わった後の、ウェイドとの会話。それに思いを馳せながら、ミアは軽い足取りでウェイドの家に向かった。しかし――
「ウェイド?・・・ウェイド?」
彼の家に辿り着いたものの、そこには誰の気配も感じられなかった。何度か名を呼んでみたものの、やはりウェイドの姿はない。
(まだ、お城でのお仕事が終わってないのね・・・どうしようかしら・・・)
とりあえず、できることだけでもやってしまおうか。そう思い、花々の鉢に目を向けた――その時であった。
「・・・?誰・・・?」
突然背後から、ミアは複数人の視線を感じた。振り返ってみると、そこには粗末な衣服に身を包んだ、4人の男の姿があった。
「おい、こいつか?」
「そうじゃ、宰相殿の一人娘じゃ。・・・ミア・アルフォード殿で相違ないな?」
「・・・そうだけど、だとしたら何?」
4人の男のうち2人は、先ほどミアの姿を遠巻きから眺めていた男たちであった。彼らは下卑た笑みを浮かべながら、懐からナイフや短剣を取り出した。
「わしらとともに来てもらおうか。宰相の娘とあらば、それなりの値で買ってくれる者がおろうでな・・・!」
男の言葉を合図に、仲間の3人が一斉にミアに襲い掛かった。ミアはすぐに逃げようとしたものの、3人にあっという間に取り押さえられてしまう。
「放して!ちょっと、放しなさいよ!!」
もがいた拍子に、ミアが手にしていた菓子が地面に落ちた。ウェイドと共に食べようとしていたその菓子は、男の1人によって無惨に踏みつぶされてしまった。
「それ、急げ!いくら人通りが少ないとはいえ、見られたら面倒じゃ!」
男たちはミアを捕まえたまま、すぐにその場から離れ始めた。ウェイドが家に戻ってきたのは、それからほどなくのことであった。
「ん・・・?何だ、これは・・・?」
彼が目にしたのは、踏みつぶされた菓子の残骸であった。その破片が点々と、まるでどこかに案内するかのように続いている。
「気になるな・・・とりあえず、追ってみるか・・・」
そう決意すると、ウェイドは菓子の破片の後を追ってみた。すると遠くの方から、聞き覚えのある声が彼の耳に飛び込んできた。
「誰か・・・誰か助けて!ちょっと、放してよ・・・!」
「あの声・・・まさか!」
ウェイドは血相を変えると、すぐに声のした方へ走り始めた。そこで彼が目にしたのは、ミアの体を引きずる2人の男と、その仲間と思しき2人の男の姿であった。
「貴様ら!ミア殿をどうする気だ!?」
「・・・!ウェイド・・・!」
男たちに怒鳴りかけたウェイドの姿に、ミアが思わず安堵の笑みを漏らした。しかし男たちもひるむ様子はなく、ミアを捕まえていない2人がその手に武器を握りしめる。
「この娘は宰相の子じゃ、高値で買ってくれる者がおろう。命が惜しければ失せろ!」
「そうはいかぬ!貴様らのような者どもに、ミア殿は渡さぬ!」
ウェイドは腰から下げていた剣を抜き、男たちと対峙した。2人の男が荒い叫び声と共に、武器を振り上げてウェイドに襲い掛かった。
「はっ!ふん!!」
ウェイドも城に仕える衛兵なだけはあり、2対1という不利な状況でも、互角に男たちと刃を交えた。ウェイドは男の1人の武器を剣ではね飛ばすと、その切っ先を倒れ込んだ男に突き付けた。
「命までは取らぬ!ミア殿を放して失せよ!」
ウェイドは、勝利を確信していた。しかしそれが、彼にとって決定的な油断を生んでしまった。
「ウェイド、後ろ!!」
ミアが鋭い声で叫んだその瞬間、もう1人の男がウェイドの背後から一気に迫り、その背中に短剣を突き刺した。
「うあっ・・・!」
「ウェイド!!」
悲鳴を上げて体をのけぞらせたウェイドに、ミアが悲鳴混じりの声を上げた。ウェイドは背中を刺した男を睨みつけると、振り返ってその男の胸ぐらをつかみ、力いっぱい殴りつけた。
「ぐあっ!!」
男は地面に倒れ伏し、呆気なく気を失った。ウェイドは怒りに血走った目で、残る3人の男を睨みつけた。
「お・・・お前・・・なんで・・・そこまでするんだよ・・・!?」
先ほどウェイドに剣をはね飛ばされた男が、腰を抜かしたまま震える声で問いかけた。ウェイドは口から血を垂らしながら、強い決意を込めた目で言った。
「ミア殿は・・・私にとって大切なお方だ・・・!かけがえのない・・・大切な・・・人だ・・・!だから・・・この身を捨ててでも、ミア殿は守る!!それだけだ!!」
その気迫に、ミアを捕まえていた2人の男は完全におじけづき、ミアの体から手を離して走り去っていった。腰を抜かしていた男も何とか立ち上がり、悲鳴を上げながら逃げ去っていく。
「ウェイド・・・ウェイド・・・!」
自由になったミアはすぐに、ウェイドのもとに駆け寄った。彼は背中に剣が刺さったまま、力なくその場に膝をついた。
「ミア殿・・・ご無事・・・ですか・・・?」
「ええ・・・!私は無事よ・・・!でも・・・ウェイド・・・!」
「良かった・・・まことに・・・良かっ・・・た・・・・・・」
ウェイドの意識が薄れ、その場に力なく倒れ込んだ。ミアはその体を抱きかかえると、涙に濡れた顔で叫んだ。
「ウェイド!!ウェイド!!誰か・・・誰か助けて!!ウェイド!!ウェイドおおおおおおおっ!!」
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