捨て身の談判(5)
ベルト城無血開城――その報せは、瞬く間にバラモスの各地に拡がった。
「バラモスの城を守る武将の多くは、私の知り合いでございます。彼らに声をかけ、こちらに味方するよう促しましょう」
降伏したノリス・クレイが、バラモスの各拠点に使者を送り、国王軍への合流を促した。それが功を奏し、スティーク軍のほとんどの城や砦が、戦わずして国王軍に降伏した。
エレンは軍勢をさらに進め、降伏しなかった城や砦を攻め落としつつ、ギルが籠るバラモス本城に迫った。その先鋒は、地の利を知り尽くしたノリスが率いる軍勢である。
「ふふ・・・まさか、あの若造にここまでやられるとは・・・・・・」
反乱を起こした当初は7万だったギルの軍勢も、度重なる敗戦や裏切りを経て、もはや500ほどにまで激減していた。対して城を囲む討伐軍は、降伏した軍勢を含めて18万ほどに膨れ上がっている。
「あの男・・・是が非でも味方につけておくべきだったやも知れぬな・・・!」
ゴールとルーカスの葬儀のことを思い出しながら、ギルは燃える城の中で自害した。こうして、五将軍の一人が起こした反乱は、この戦が初陣である若き総大将の手によって鎮圧されたのだった。
「おお!デイン、マミヤ!エレンが総大将を率いた軍勢が、反乱を鎮圧したそうだ!」
エレンの活躍は、瞬く間に彼の故郷・カルドにまで伝わった。報せを読んだ村長のジョセフが、農作業をしていたデインとマミヤに声をかけ、村に届いた国の広報紙を見せた。
「すごい・・・あのエレンが、軍を率いる大将になるなんて・・・」
「ああ、まったくだ。城に戻ってまだ半年も経っていないのに、ここまで化けるとは・・・」
思いがけない報せにマミヤのみならず、デインも感嘆の声を上げた。それからほどなくして、エレンが軍勢を引き連れながら、エルドラ城に戻ってきた。
「・・・!エレン様・・・!」
馬上のエレンの姿を見ながら、イリアが歓喜の声を上げた。エレンもイリアに視線を向けると、小さな笑みを彼女に向けた。
「お兄様!ジャンヌお義姉様も、みんな戻ってきた!!」
「ええ・・・皆様、無事にお戻りになりましたね・・・」
「ははうえ、おかえりなさい!!」
ミアとマリア、そしてアランも、2人やカレンたちの帰還を心から祝福した。サラも父と兄、そしてエレンの無事な姿に、胸の前で手を組んで微笑を浮かべる。
「さすが、宰相殿のご子息でございますな。奇策を使い、城を無血で落としたとか」
エルドラ城のバルコニー。戻ってきた軍勢を見つめるネルソンに、側近のカールが声をかけた。
「うむ・・・正直、あやつがそこまでやるとは思わなんだ。だが・・・嬉しい誤算とはこのことよ・・・」
凱旋してきた軍勢が、ついに城への帰還を果たした。エレンは馬を降りるとすぐ、国王夫妻に勝利を報告した。
「陛下・・・王妃様・・・・・・エレン・アルフォード、ただ今帰還いたしました」
「うむ。そなたの活躍、聞き及んでおる。よくやったな、エレン・・・!」
「はっ!」
レオナルドの言葉に、エレンは深々と頭を下げた。シャーンは複雑な表情を浮かべつつも、王妃としてねぎらいの言葉をかけた。
「エレン、謀反人の討伐、ご苦労でした。陛下もわたくしも、あなたの活躍に胸を躍らせ、帰る日を待っていましたよ」
「王妃様・・・そのお言葉、身に余る光栄にございます!」
国王夫妻への挨拶を終えると、エレンはカレンとダン、そしてジャンヌと共に、父のもとを訪れた。ネルソンは感慨深そうな目でエレンを見ながらも、少し呆れたように小さく笑った。
「父上・・・ただ今戻りました!」
「うむ。・・・しかし、その鎧はお前には似合わぬ。次はもっと、お前に似合うものを用意せねばならんな・・・」
「父上・・・私はもう、戦はこりごりでございます・・・!」
疲れ切ったように言った息子に、ネルソンは思わず声を上げて笑った。カレンとダンも釣られて大声で笑い、ジャンヌも声こそ上げぬものの、微笑を浮かべて親子のやり取りを見つめている。
持ち帰られたギルの首は、城下にさらされることとなった。さらにこれに連座し、ギルの一族はことごとく処刑され、スティークの一族は事実上滅亡した。
「義姉上・・・此度の戦、本当にお世話になりました。感謝いたします」
城での用をすべて終えると、エレンはジャンヌと共にアルフォード家に戻り始めた。その途中、エレンは深々と頭を下げ、戦でジャンヌに助けられたことを感謝した。
「いや・・・礼を言うのは、私の方だ。ありがとうエレン殿、私を戦に連れて行ってくれて」
深く頭を下げた義姉に、エレンが慌てて声をかけた。
「あ・・・頭をお上げくだされ!やはり義姉上には、戦場が似合っておりまする。・・・もっとも、これ以上の戦は、私は御免ですが・・・」
「そうか?先ほどから思っていたが、そなたの才は戦場でこそ輝く気がする。次も期待しているぞ」
「ですから、もう私は戦など・・・」
そんな話をしているうちに、ついに2人は屋敷に辿り着いた。そのドアの前では、目を潤ませたミアとマリア、そしてアランが待ち受けていた。
「おかえりなさい、ははうえ!おじうえ!」
アランはまっすぐ馬を降りた母のもとに走ると、その体に抱き着いた。ジャンヌも息子の小さな体を、愛おしそうに抱きしめる。
「ああ・・・いい子にしていたか?アラン」
「ずっと・・・寂しがっておいででしたわ。それでも・・・アラン殿は一度も、泣きませんでしたよ」
マリアがそう言うと、ジャンヌはアランの頭を優しくなでた。
「そうか・・・えらいぞ、アラン」
「はい、ははうえ!」
親子の再会を、エレンたちは心から祝福した。久しぶりの穏やかな時間に、エレンも思わず心からの笑みを漏らす。
「聞いたわよ、お兄様。大活躍だったんですってね」
「私など、大した活躍はしていない。すべては義姉上や、私についてきてくれた将兵のおかげだ」
「ふふっ。あとでその話はたくさん聞かせて。・・・ありがとうお兄様。みんなを、無事に連れて帰ってくれて」
「ああ・・・兄上たちも、きっと喜んでくれる・・・!」
戦の勝利で、アルフォード家の地位は回復した――この時のエレンは、そう考えていた。しかし、城という魑魅魍魎が跋扈する魔境では、そんなに単純に事は運ばない。
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