捨て身の談判(4)
再び突き付けられた、大量の武器。カレンとダンが警戒のまなざしを向ける中、エレンはこともなさそうにさらりと言った。
「これは・・・何のお戯れでございますか?」
「これを戯れと言ってのける、その度胸は認めよう。しかし・・・わしの命令1つで、そなたたちの命は消える。それが分かっておいでか?」
揺らいでいた兵士たちの殺気が、再び戻ったのをカレンとダンは感じた。しかしエレンは微笑を崩さず、ノリスを見つめたまま言った。
「そのおつもりがないことは分かっておりまする。・・・方々、武器を下げていただいて結構でございます。構えたままでは、腕も疲れましょう」
「そなた・・・なぜそのように言い切れる?」
呆れたように問いかけるノリスに、エレンは涼しい顔で答えた。
「最初から討つ気ならば、私は今ここにはおりませぬ。しかし、ノリス殿は私たちを、城に入れてくださった。これぞ、ノリス殿が私たちを討つ気がない証。そして・・・私の話に、耳を傾けるおつもりがある証でございます」
エレンの言葉に、ノリスは小さな笑みを浮かべた。彼が手を上げると、武器を構えていた兵士たちが一斉に武器を降ろした。
「それで、わしにどうしろと仰るのじゃ?言っておくが、そちらに寝返ることはできぬ。わしは、ギル・スティーク将軍に忠誠を誓っておるゆえな」
「・・・まことでございますか?」
試すような目でノリスを見ながら、エレンがさらに問いかけた。
「まことに・・・ギル殿に忠誠を誓っておられると?」
「その通りじゃ。なにか、おかしなことでも申しましたかな?」
ノリスがそう問いかけると、エレンは真剣な表情になって言った。
「恐れながら・・・ノリス殿が忠誠を誓っている相手は、ギル殿ではございますまい」
「何・・・?」
「あなたが忠誠を誓っておられるのは・・・このベルトの民でございます!」
「・・・!」
その言葉にノリスだけでなく、その場にいる全ての者が息を飲んだ。ノリスは必死に平静を保ちながら、エレンに問いを投げかけた。
「ほう・・・なぜ、そのように仰るのじゃ?」
「民の方々から聞きました。あなたが、不作に苦しむベルトの民に、城の蓄えを差し出したこと。洪水で荒れた村の復興を、御自ら泥にまみれて進められたこと。そして・・・この地の民を守るために、不本意ながらギル殿におつきになったこと」
そこで一旦言葉を切ると、エレンはノリスの目を見つめて言った。
「あなたはこの地を・・・この地の民を愛しておられる。だからこそ、本意ではない戦に参加し、ここで我らを食い止めようとなさった。・・・しかし、このままギル殿についていても、所詮捨て石にされるだけ。あなたほどのお方を失うことは、このエルドラにとっても損失でございます!」
エレンはその場にひざまずくと、ノリスを見上げながら懇願した。
「どうか、この地の民と共に生きてくださりませ!皆・・・あなたのことを愛し、あなたのために命を差し出す者ばかりでございます!どうか・・・彼らのために生きてくださいませ!このような戦のために、命を散らす必要はございませぬ!!」
エレンが深く頭を下げると、ダンとカレンもそれに続いた。ノリスが沈黙を保つ中、エレンたちの背後の民たちも声を上げ始めた。
「ノリス様!どうか・・・どうか生きてくださいませ!」
「私たちは、ノリス様と共に生きたいのでございます!!」
「ギル将軍に、これ以上従う必要はありません!!」
エレンたちの背後の民たちだけでなく、城内からも声が上がり始めた。いずれもノリスが生きることを、そしてノリスと共に生きることを願う声であった。
「そなた・・・不思議な男よ。もし・・・もしここでわしが、本気でそなたを討っていたら・・・」
「その時は、私などよりよほど有能な将軍たちが、全力でこの城を落としていたでしょう。ですが・・・それではあなたも、民や兵たちも死にまする。そのようなことは・・・決して、あなたも望みますまい」
エレンの言葉に、ノリスは観念したように笑った。彼はその場に腰を下ろすと、エレンの目を見つめながら言った。
「エレン殿・・・この城、あなたに差し出しましょう。このノリス・クレイ、今この時より、国王軍にお味方いたしまする!!」
その言葉に、城内から歓声が上がった。エレンは笑顔で立ち上がると、周囲の者たちに叫びかけた。
「さあ皆様、宴の時間でございます!!ベルトの解放を祝い、皆で飲み明かしましょうぞ!!」
城の中の兵士や民が、次々とエレン、そしてノリスのもとに駆け寄ってきた。エレンはカレンとダンと視線を交わしてうなずき合うと、運んできた荷物を次々と開け始める。
「さあさあ、酒も肴もたくさんありまする!!今宵は、心行くまで飲み明かしましょうぞ!!」
ベルト城からの歓声は、国王軍の本陣にまで届いた。武装が解除された城を見ながら、ザメクが呆気にとられたように言った。
「嘘だろ・・・あの野郎、本当にやりやがった・・・」
「まさか・・・たった3人で城を落とすとは・・・・・・我が義弟ながら、面白い男よ・・・・・・」
ジャンヌが笑みを浮かべながら、沸き立つベルト城を見つめていた。――こうして、ベルト城は一滴の血も流すことなく、国王軍に降伏した。
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