捨て身の談判(3)
エレンは、早速行動を開始した。まず、先ほど訴えに現れた地元民のもとを訪れ、壊れていない舟の提供を願い出た。
「ノリス殿を救うためなのです。まだ壊していない舟があれば、全て貸していただきたい」
その願いを、地元民たちは喜んで受け入れた。皆、ノリスを助けるためならばと、一も二もなく協力してくれた。
こうして半日ほどで、およそ50艘の舟が集まった。中には一度壊した舟を、地元民が急遽修理した物もあった。
エレンは地元民の協力のもと、集まった舟にぎっしりと荷物を詰め込んだ。そしてその日の夜、舟が一斉にベルト城に向かって進み始めた。
「エレン殿・・・どうか、無事で・・・!」
ジャンヌが心配そうに見つめる中、舟は徐々に城へと近づいて行った。そしてついに城の見張りが、近づいてくる舟の群れに気づいた。
「ノリス様!舟でございます!」
見張りの報告を受け、ノリスが見張り櫓の上に立って川を凝視した。舟をこいでいるのはいずれも地元民で、どの舟にも荷がぎっしりと詰まれている。
「あれは・・・一体、何の真似だ?」
ノリスが舟の群れの真意を測りかね、困惑した様子でつぶやく。すると、先頭の舟に乗っていた若者が、大声で城に向かって叫びかけた。
「ベルト城の方々!私は、エレン・アルフォードでございます!!ノリス・クレイ殿、そして城の皆様に、どうしても差し上げたい物がございます!!どうか、中に入れてくだされ!!」
「な・・・!エレン・アルフォードといえば、敵の総大将ではないか・・・!」
敵の総大将が2人の男女を連れ、舟の群れを率いて近づいてくる。それだけでも驚きであったが、さらにノリスを驚かせたのは、エレンとそのそばの2人の男女が、いずれも鎧をつけていないことであった。
「いかがいたしまする?敵総大将がのこのこやって来たからには、弓で射抜いてくれましょうか?」
「よせ。丸腰の者を討ったとなれば、末代までの笑いものじゃ。・・・あの者たちを、中に入れよ」
舟から叫びかけるエレンには、殺気がまるで感じられなかった。ノリスは逸る城兵をなだめつつ、エレンと舟の群れを城に入れることを許した。
「とりあえず、最初の関門は突破だな」
城門をくぐると、ダンがエレンに微笑みかけた。カレンも緊張で表情をこわばらせつつも、何とか笑みを浮かべている。
「まだまだこれからだ。・・・さあ皆様!荷を下ろしてくださいませ!!今日は方々にとって、とてもめでたい日になりまする!!」
エレンの言葉に、舟をこいできた地元民が一斉に荷を下ろし始めた。すべての荷を下ろし終えると、エレンは一同に叫びかけた。
「さあ、参りましょうぞ!ノリス殿たちに、これらの品を届けるのです!!」
「おお!!」
エレンの言葉に、地元民たちが一斉に声を上げて応えた。一行は城の入り口まで進んだが、そこで無数の兵士が剣や槍、弓を突きつけてきた。
「ひいっ・・・!」
荷を運んできた者たちの中から、悲鳴のような声が上がる。カレンも不安そうにエレンを見つめたが、エレンは弾けるような笑顔で城兵に叫びかけた。
「方々!今日は祝いの日でございます!これらの品は、ノリス・クレイ殿、そして今日まで籠城を続けられてきた、皆様への贈り物でございます!!どうか、お納めくだされ!!」
武器を構える城兵たちの間に、明らかに動揺の色が走った。城の中で成り行きを見守る兵や民たちも、困惑したように視線を交わし合っている。
それからほどなくして、城の主であるノリス・クレイが、護衛の兵士とともに姿を現した。エレンは深々と頭を下げ、カレンとダンもそれに続く。3人の背後の領民たちは、ノリスの姿を見るなりひざまずいた。
「国王軍の総大将、エレン・アルフォード殿とお見受けする。一体、何用あってこの城に参られた?」
「いかにも、国王軍の総大将、エレン・アルフォードでございます。先ほど申し上げた通り、ノリス殿や城の方々に、祝いの品々を持って参りました。どうか、お検め下され」
全く邪気を感じられないエレンの様子に、ますますノリスは城兵は困惑した。ノリスが背後に控えていた兵に目を向けると、兵は領民が運んできた荷物を開けた。
「酒でございます。それに・・・肴も・・・!」
ノリスが首を小さく振ると、彼の周りの兵士たちが残りの荷を開け始めた。どの荷物にも、酒と肴がぎっしりと詰め込まれている。
「これは・・・何のお戯れでございますかな?アルフォード殿」
「戯れではございませぬ。本日は、ノリス殿が領民や兵の方々と共に、ギル殿の支配から脱する祝いの日。それを、この城の全員で祝いたいと思い、こうして運んで参った次第」
その言葉に、ノリスの顔色がさっと変わった。彼は作り笑いを浮かべつつ、エレンに言葉を投げかけた。
「それはつまり・・・そちらに裏切れ、ということでございますか?」
「言葉は悪うございますが、その通りでございます。ノリス殿が、ギル殿の暴政のもとで耐え忍んでこられたことは、領民の方々から聞きました。そのような日々は、もう終わりにいたしましょう」
「ふふ・・・甘いお方よ。もしここで、そなたを討てとわしが命じたら・・・いかがなさる?」
その言葉を合図に、城兵たちがエレンたちに向け、再び武器を突きつけた。一触即発の緊迫した空気が、ベルト城を包み込み始めた。
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