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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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捨て身の談判(2)

ベルト城を見つめながら、エレンは必死に考えている。


(いかにして、城の兵士や民衆を傷つけず、ノリス殿を降伏させるか・・・)


使者を繰り返し送るという手は使えない。すでに一度開城を断られている以上、下手に使者を追加で送ることは逆効果になるだろう。


(かといって、城を攻めては味方に被害が出かねぬ・・・)


形だけでも包囲を強めるか、とも思ったが、城の周囲を流れる川が問題となる。舟もない以上、この川を徒歩で渡るのは危険すぎる。敵に犠牲を出さないと誓った以上、味方に犠牲を出すわけにもいかない。敵も味方も、たった1人の死者も出さず、ベルト城を降伏させる。


(無理は百も承知・・・だがそれでも・・・!)


為さねばならない、とエレンは思った。あの地元民たちは、心からノリスを慕っていた。彼らの思いに応えるためにも、ノリスを必ず救い出す。それが今、己の為すべきことであろう。


「また難しいこと考えてるんだろ、エレン」


聞こえてきた声に我に返ると、エレンは声のした方へ振り向いた。そこにはいつの間にやって来たのか、ダンとカレンの兄妹の姿があった。


「ああ・・・難しいことだ。あの城を・・・敵も味方も1人も死なさず、落とすことができないものか・・・」

「敵も味方もって・・・そんなことできるわけないでしょ!?」

「そう・・・皆そう考える。だが俺は、そのできるわけがないことをやってみたい。ベルトの民のため・・・ノリス殿のため・・・それに、この戦で俺についてきてくれたみんなのため、あの城を無血で落としたいのだ・・・!」

「なるほど・・・さては、さっきの軍議で何かあったな?」


エレンはダンとカレンに、先ほどの地元民の悲痛な訴えを話した。事の流れを理解すると、2人もエレンに協力したいと申し出た。


「スティーク将軍も、あくどい手を使ったもんだ。・・・いいぜエレン、俺はお前に力を貸す。無血で城を落とすなんて、そんな面白い話に乗らないわけにはいかないからな」

「私も手伝うわ、エレン。ここの人たちが、ノリス様を心から慕ってるってことは分かった。だったらなおのこと、こんな戦でノリス様を死なせちゃいけないわ」

「ありがとう、2人とも・・・実は今、1つ考えついたことがある」


エレンはそう言ったものの、すぐに渋い表情になって頭をかきむしった。


「とはいえ、こんな案を義姉上たちの前で出すわけにはいかぬ。出した途端にあの方々から、矢のように反発が飛んでこよう」

「・・・それでも、総大将はお前だぞ、エレン」


悩む幼馴染の背を押すように、ダンが励ましの言葉をかけた。


「人が他人の決断に口出しするのはな、その決断に迷いがあるからだ。けどな・・・迷いのない決断を、他人が変えることはできない。だからまずはお前が、絶対に迷わない姿勢を示すことだ。そうすりゃみんな、内心はどうであれ、お前の決断を受け入れるはずだ」

「ダン・・・」

「兄さんの言う通りよ。あんたがここで迷ってちゃ、なおさらみんな納得しないわよ?だったらここはしゃんとして、何と言われても絶対に自分の意思を貫き通すの。そうすればきっと、ジャンヌ様やルシウス様達も、分かってくださるわ」

「カレン・・・」


2人の言葉が、何よりの励ましになった。エレンは決意に満ちた笑みを浮かべると、2人に深く頭を下げた。


「ありがとう・・・!2人のおかげで、進むべき道が見えた気がする!」

「おお、それでいいんだ!・・・それで、どうする気だ?」

「うむ・・・まずは、軍議の席で義姉上たちを納得させねばならぬ。至難の業だが・・・ここを越えられねば、先には進めぬ」


もはや、エレンに迷いはなかった。彼は改めて軍議を開くと、そこで諸将に自らの考えを告げた。


「それは・・・認められぬ、エレン殿!あまりにも・・・あまりにも危険すぎる!!」

「それは、総大将がすることとは思えねえな。いくらお前さんに全ての決定権があるとはいえ、こっちもはいそうですかと受け流すわけにはいかねえんだ」


案の定、ジャンヌとルシウス、そして他の武将からも、反対の意見が相次いだ。しかし覚悟を決めたエレンは、一切自身の意思を曲げようとしない。


「皆様の心配は、重々承知です。なれど・・・このような戦で、ノリス殿のような立派なお方を死なすわけにはまいりませぬ。どうか・・・やらせてくだされ・・・!」

「けどよぉ・・・それをよりにもよって、おめえがやる必要はねえだろうが!!」

「ザメク殿の仰る通りです。そのお役目、私が引き受けます!」


ランスがそう折衷案を出したが、エレンは小さく首を横に振った。


「お気持ちには、感謝いたします。なれど・・・これは私がやるからこそ、意味があるのです。そうでなければ、ノリス殿に・・・いえ、あの城に籠る全ての者たちに、所詮その程度の気持ちかと見透かされましょう。どうか・・・私にやらせてくださいませ!!」


諸将の目をまっすぐ見つめて言うと、エレンは深々と頭を下げた。すると、ここまで軍議を黙って聞いていたゴードンが、ゆっくりと口を開いた。


「そのお覚悟は・・・本物のようじゃな、エレン殿」


エレンは顔を上げてゴードンに視線を向けると、強い決意がこもった顔でうなずいた。


「ええ・・・私は、本気です」

「・・・ならば、わしらがどうこう言うことでもあるまい。総大将は、ほかならぬエレン殿じゃ。我らは、そのご決断に従うのみじゃ」

「ゴードン殿・・・!」


エレンの言葉に、ゴードンが笑みを浮かべて応えた。ジャンヌたちも事ここに至り、もはやエレンを止めようとはしなかった。


「方々・・・1日、私に時間をくだされ!必ず・・・ベルトを無血で落としてみせます!」

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