初陣(6)
ここまでが、物語全体の第4話になります
一旦軍議を解散させてから、2日が経った。
この日、再び軍議が行われる予定となっている。エレンが頭を悩ませる中、彼の陣に客人があった。
「エレン!総大将殿の役目はどうだ?」
「トール!ルシウス殿から聞いたぞ。あの過酷な戦いで、傷一つ負わなかったとか」
「ま、運よくな。・・・いつになく重い顔してやがるな。さては、この後の軍議のことか?」
努めて明るい表情で問いかけたトールに、エレンが硬い表情で小さくうなずいた。
「ああ・・・私はやはり、まだ19の若造だ。それにこれが初陣で、右も左も分からぬ状態だ。総大将を引き受けたことに後悔はないが、思った以上に重い役目だ」
「だからこそ、親父さんは余計にその役目を経験させたかったんだろ。お前にその気はないかもしれんが、親父さんはお前に宰相の位を譲る気だ。人を率いる経験なくして、宰相なんて務まらないからな」
「まったく・・・父上も重荷を背負わせてくれるものだ」
エレンが苦笑いしながら言った、まさにその時。伝令の兵士がエレンのもとに駆け寄り、大声で報告した。
「申し上げます!城からの輜重隊が到着しました!」
「お、来た来た!エレン、戦の要は何といっても補給だ。これがあるからこそ、兵士も将軍も存分に戦えるってもんだ」
自身も初陣であるにもかかわらず、トールが先輩風を吹かせるように言った。一方のエレンは、伝令からの報告を受け、何かを考えこむようにうつむいた。
「輜重隊・・・補給・・・」
「ん?どうした、エレン?」
トールが問いかけた、次の瞬間。エレンはぱっと顔をほころばせ、誰に言うともなく叫んだ。
「これだ!」
そして、数時間後。再び開かれた軍議の席で、エレンは諸将を見渡して言った。
「この2日間、ずっと考えておりました。どうすれば、味方の損害を減らしつつ、より短期間で敵を倒せるかと。・・・まだ未熟ではありますが、その答えが出たかもしれません」
「ほお・・・で、その答えとやらは?」
ルシウスが問いかけると、エレンは小さな笑みを浮かべて言った。
「輜重隊を、囮として使います」
「何・・・?輜重隊を・・・?」
エレンの言葉の意図を掴みかね、ジャンヌが表情を険しくして問いかけた。
「先ほど、城からの輜重隊が到着したことは、方々もご存じの通り。届いた補給物資を、拠点である2つの砦にも輸送せねばなりません。・・・この輸送部隊を、囮として使います」
砦と本陣の地図に石を置きながら、エレンは作戦を説明した。
「前線の砦に、輸送部隊を送ります。守りは最小限とし、なるべく敵陣に近い道を通らせるのです。部隊には、敵の伏兵を用心してのことと言い含めればよろしいでしょう」
「敵陣に近い道・・・まさか、輸送部隊を襲わせるつもりですか?」
ランスの問いに、エレンは力強くうなずいた。
「ギル殿は聡いお方、始めは何かの罠かと疑うでしょう。しかし、物資が大事なのは、あちらも同じ。むしろ、より物資が必要なのはあちら側のはずです。物資という餌に釣られた将兵を抑えるのは、おそらく至難の業。ギル殿もやむなく、輸送部隊を襲うことを許すでしょう」
「確かにな。ただでさえ、向こうはこっちに包囲されて、物資の補給もままならねえはずだ」
ザメクの言葉にうなずきながら、エレンはさらに説明を続けた。
「奪った物資を、敵は必ず砦に運び込むはず。その時こそ・・・」
そこで一旦言葉を切ると、エレンが含みのある笑みを諸将に向けた。
「方々の出番でございます・・・!」
翌朝、まだ日が昇り始めない、未明のこと。討伐軍の本陣から、2つの砦に向けて輸送隊が出発した。
「将軍、敵の輸送部隊を発見いたしました!」
ギルの軍勢が、たいまつを持った兵に囲まれる輸送部隊の動きを掴んだ。ギルは砦の櫓に上り、2つに分かれた輸送部隊の動きをじっくりと観察した。
「妙だな・・・何ゆえ、わざわざ我が陣の近くを通る・・・?」
「おそらくは、こちらの伏兵を警戒してのことかと。しかし将軍、今が好機にございます。あの輸送部隊を襲い、物資をこちらのものといたしましょうぞ」
「うむ・・・確かに、物資は喉から手が出るほど欲しいが・・・・・・」
配下の武将の言葉に、ギルはしばらく考え込んだ。やがて彼は結論を出すと、配下の将兵に告げた。
「輸送部隊を襲え。物資を奪い、速やかに運び込むのじゃ」
「はっ!!」
早速、砦の門が開いて2つの部隊が出撃し、輸送部隊に襲い掛かった。最小限の警護しかいない輸送部隊が敵うはずもなく、物資を捨てて散り散りとなって敗走する。
「ははは!造作もないのお!」
逃げていく輸送部隊を見ながら、ギルの配下の武将が嘲笑った。2つの部隊が奪った物資を、本陣の砦に運び込み始めた――その時であった。
「今ぞ、かかれ!!」
夜陰に紛れ、敵陣近くに伏せていたジャンヌが、剣を振り上げながら叫んだ。すると各所に隠れていた討伐軍の将兵が次々と姿を現し、敵の砦に殺到し始めた。
「手柄を女神殿だけに取られるな!!我らも続け!!」
「カロット隊も続け!!功名を上げる機会は今ぞ!!」
先の戦には間に合わなかったゴードンとランスが、ジャンヌに負けじと大声を張り上げる。ランスの部隊に所属するカイルも、剣を振るって必死に戦った。
「はあっ!おりゃああああっ!!」
カイルのその意気に押されたのか、彼と戦っていた敵兵は次々と逃げていった。さらにだめ押しと言わんばかりに、ルシウスとザメクの軍勢が突っ込んでくる。
「押しつぶせ!ギル・スティークの首を取る好機ぞ!!」
「命が惜しいならさっさと失せろ!!このザメク・ルア、容赦はしねえぜ!!」
もはや、戦いの趨勢は見えていた。ギルは側近の将兵に守られ、急いで馬に飛び乗った。
「よもや、あの小倅がここまでやるとは・・・!退け!!砦を捨て、バラモスに戻る!!」
総大将のギルが撤退したことで、配下の軍勢も総崩れとなってバラモスに逃れていった。この戦の勝利により、討伐軍は全ての砦を奪回することに成功した。
「皆よくやった!!我らの勝利ぞ!!」
エレンが眼前に集った将兵たちを労うと、一斉に鬨の声が上がった。安堵したように微笑むエレンに、その隣に立つカレンとダンが声をかける。
「やったわね、エレン」
「だが、まだ終わりじゃない。分かってるだろ?」
「ああ・・・ギル殿の首を取る。それまで、戦は終わりではない」
自らを戒めるようにそう言うと、エレンは目の前の将兵たちに号令した。
「これより我らは、バラモスに向かう!!謀反人ギル・スティークの首、必ずや上げるのだ!!」
「おお!!」
エレンの言葉に大声で応えると、諸将や兵士たちが手にした武器を高く掲げた。翌日、討伐軍は砦に守りの兵を残し、バラモスへと進軍を始めたのだった。
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