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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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初陣(4)

本格的な合戦場面になってきます。やっと戦記物らしくなってきました・・・

エレンたちが城を出立してから、1週間が経った。


道中すれ違った人々の中には、軍勢に手を振ったり歓声を送る者もいた。エレンはそれに手を振って応えつつ、これが戦でなければ、と何度も思った。


(まことに、これは戦なのか・・・・・・未だに、実感がわかぬ・・・・・・)


先鋒のバルデッタ隊は、本隊のはるか先を進んでいる。その後ろに、海賊上がりのザメクが率いるルア隊が続き、エレンが率いる本隊はその背後に位置している。彼らの後ろには、カイルも所属しているランスの部隊と、ゴードンが率いるブレイ隊が続く形となっている。


ギルの本拠であるバラモスまでは、どんなに急いでもあと5日はかかる見通しだ。次第に近づいているとはいえ、戦はまだ先のこと。そう思っていたエレンだったが・・・


「申し上げます!バラモスと王領の境界にある砦を、スティークの軍勢が攻撃しております!!」

「何!?」


息を切らして駆け寄ってきた伝令の兵士の言葉に、エレンの周囲の空気が凍り付いた。ジャンヌが馬を寄せながら、馬上から兵士に問いかける。


「して、戦況は?」

「3つの砦のうち、すでに1つが陥落!残る2つは必死に防戦しておりますが、このままでは陥落も時間の問題でございます!!」


その報告に、エレンが苦虫を噛み潰したような表情でつぶやいた。


「まずい・・・砦がすべて落とされれば、敵軍が王領になだれ込んでくる・・・!」

「エレン殿、軍を急がせよ。王領とバラモスの境界であれば、全力で走れば1日で着く」


ジャンヌの言葉にうなずくと、エレンは馬上から大きな声で叫んだ。


「全軍、進軍速度を上げよ!王領とバラモスの境界の砦を救う!!」


その指示を受け、全軍が一斉に移動速度を上げた。騎馬の者は馬を急き立て、徒歩の者は力の限り走り続け、敵に襲われている砦を目指す。



「急げ!!本隊から引き離されるな!!」


本隊の後ろにつくランスが、馬を駆りながら部下たちに叫びかけた。徒歩で従軍していたカイルが、大きく息をつきながら走り続ける。


「はあっ、はあっ・・・!くっそ・・・!このままじゃ戦の前にばてちまう!!」


その言葉通り、過酷な進軍について行けず、何人もの兵士が脱落していった。中には馬の脚が折れ、投げ出されて重傷を負う者や、運悪く命を落とす者もいた。


それでも、15万の軍勢は砦を救うため、全速力で行軍を続けた。その結果、ジャンヌの言葉通り、翌日には先鋒部隊が砦に到着した。


「これは・・・すでに2つ砦が落とされてるな・・・」


先鋒大将として軍を率いるルシウスが、2つの砦に翻るスティークの旗印を見ながら、苦々しい表情で言った。そんな彼のもとに、この戦が初陣である息子のトールが馬を寄せる。


「父上、いかがなさいますか!?」

「知れたこと。残る1つの砦を救う。トール、いよいよ実戦だぞ」

「はっ!覚悟はできております!!」


笑みを向けながら言った息子に、ルシウスも小さな笑みを返した。彼は腰の剣を抜くと、部下の将兵に叫びかけた。


「かかれ!!最後の砦を守るぞ!!」


その声に応えるように、先鋒部隊の将兵が一斉に砦に進軍した。砦を攻撃していたスティークの軍勢が、直ちに応戦を開始する。


「チッ、もう始まってやがるな・・・!ルア隊、先鋒部隊に続け!!」


続いて到着したザメクも、ルシウスの部隊に負けじと進軍を開始する。しかし、強行軍ゆえに疲れ切った討伐軍の指揮は低く、スティークの軍勢に押され気味になっている。


「退くな!手柄の上げ所はここぞ!」


ルシウスは必死に部下たちに叫びかけたが、スティークの軍勢を突破することはできなかった。そこにザメクの部隊も加勢したが、スティークの軍勢は討伐軍を押し包むような隊形を取り、容易に突破を許さない。


「間もなく、最後の砦も落ちよう。あそこさえ落とせば、一気に王領になだれ込める」


奪った砦の1つを本陣としたギルが、笑みを浮かべながら言った。一方、エレンたち本隊もようやく戦場に到着したが、その頃にはルシウスとザメクの部隊は完全に劣勢となっており、救うはずの砦に辿り着くどころか、敗走寸前の状態に陥っていた。


「まずい・・・このままじゃ、先鋒と第二陣が全滅するぞ!」


ダンの言葉が、エレンの心をさらに焦らせた。どのような指示を出せばよいか分からず、彼が頭を抱えそうになった、その時――


「エレン殿、ここは私に任されよ。あれしきの軍勢であれば、追い払うのにそう時間はかかるまい」


ジャンヌが自信満々といった表情で、エレンに声をかけてきた。彼女の言葉を頼もしく思いつつも、エレンは本当にそれができるのか、にわかには信じられなかった。


「しかし、敵は勢いに乗っております。ここは、後続の部隊を待って・・・」

「いや、それでは間に合わぬ。味方を救うためには、今すぐに動かねばならぬ。・・・エレン殿、ご命令を。それさえもらえれば、必ず敵を撃退してみせる!」


ジャンヌの目は、すでに勝利を確信しているようであった。エレンは瞬時迷ったものの、すぐに決断を下してジャンヌに言った。


「分かりました。義姉上、頼みます!」


エレンの言葉に、ジャンヌは笑みを浮かべて力強くうなずいた。彼女は腰の剣を引き抜くと、それを高く掲げて周囲の兵士たちに呼びかけた。


「手柄を挙げたい者は、この私についてまいれ!!エルドラの女神の加護が、そなたたちを守ろうぞ!!」


その言葉に励まされたのか、多くの将兵がジャンヌのもとに集まってきた。彼女は乗っていた白馬を走らせながら、部隊の先頭に立って剣を振り上げ、壊滅寸前の友軍に迫っていく。


「あれは・・・ジャンヌ殿か!?」

「チッ・・・始めやがったぜ、エルドラの女神さんが・・・!」


馬を走らせるジャンヌの姿にルシウスが驚き、ザメクが苦笑いを浮かべた。ジャンヌはさらに馬を走らせ、ついに両軍の兵士がぶつかる戦場に辿り着いた。


「我こそはエルドラの女神、ジャンヌ・アルフォードである!!命が惜しい者はどけ!!功を上げんとする者は、我が首取って手柄とせよ!!」


戦場全体に轟き渡るその声に、スティークの軍勢がどよめきを見せた。ジャンヌは一気に馬を走らせ、近くにいた敵の騎馬兵の首を剣の一振りで斬り落とすと、さらに襲い掛かってきた騎馬兵の攻撃を払いのけ、これまたいともたやすく首を斬り落とした。


「おお・・・エルドラの・・・女神様じゃ!!」

「女神様が・・・女神様が加勢してくださったぞ!!」


ジャンヌの登場に、敗色濃厚だった討伐軍は一気に息を吹き返した。一方のスティーク軍は一気に士気が低下し、中には命惜しさに我先にと逃げ出す者たちもいた。


「馬鹿な・・・エルドラの女神殿は、夫の喪に服しているのではなかったのか・・・!?」


優れた戦術家であるギルにとっても、ジャンヌの参戦は全くの想定外であった。討伐軍はあっという間に勢いを盛り返し、立ちはだかるスティークの軍勢を突破すると、最後の砦の救出に成功した。


「す・・・すごい・・・」

「これが・・・義姉上の戦か・・・!」


戦いを見つめていたカレンとエレンが、呆然となりながら声を上げた。だが、戦はまだ終わりではなかった。スティーク軍の敗残兵が本陣である砦と、奪ったもう1つの砦に逃げ込み始めた。


「戦とは勢いぞ!皆、続け!!」


ジャンヌが剣を掲げて号令を下すと、スティークの本陣ではない方の砦に馬を進め始めた。勢いに乗った討伐軍はその後に続き、敗残兵を収容していた砦に勢いよくなだれ込んだ。


しばらく、両軍の喚声が戦場に響いていた。だがそれも物の数分でやみ、ほどなく砦の頂上に、ジャンヌが姿を現した。彼女が手にする剣の先には、敵の首が突き刺さっている。


「砦の守将、このジャンヌ・アルフォードが討ち取った!!この砦はたった今より、我ら国王軍のものぞ!!」


敵将の首が刺さった剣を掲げながら、ジャンヌは力強く宣言した。味方の兵士たちがそれに応えるように、一斉に歓声を上げ始める。


「これは・・・もはや、我らの出番はございませぬ・・・」


ようやく本隊に追いついたランスが、呆気にとられた表情で呟いた。エレンもカレンも、そしてダンも、あまりにも鮮やかなジャンヌの戦ぶりに、完全に言葉を失っていた。



ともあれ、砦を巡る攻防は、ひとまずは討伐軍の勝利に終わった。ギルは本陣とした砦に全軍を集め、そこに立てこもる姿勢を見せた。

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