側仕え(7)
ここまでが、物語全体の第3章になります。ようやく戦記物っぽくなってきます
ギル・スティーク、謀反――この報せは、その日の内に城と城下を駆け巡った。
「ネルソン・アルフォードは、先のラダンでの戦の大敗の責を取らず、未だに宰相の位に留まり続けている。これこそ、アルフォード家が私心で国を動かし、利を貪っている紛れもない証。かの者を宰相の位から引きずり下ろすことこそ、この国を救うただ一つの道である」
これが、ギルが反乱において掲げた『大義』であった。それに共鳴した者たちがギルに加担し、その軍勢は、総勢7万ほどに膨れ上がった。
ギルの領地は、エルドラ城の南にある、バラモスという場所が本拠である。そのバラモスからエルドラ城までは、徒歩でも2週間あれば辿り着ける近さである。
早速、城では将軍や文官、有力貴族たちを集め、この反乱に対処するための緊急の会議が開かれた。その席で開口一番、文官筆頭であるイリアの父・バリーが、ネルソンを厳しく指弾した。
「此度のスティークの反乱は許されざることなれど、その原因を作ったのは、他でもない宰相殿じゃ。宰相殿、かくなる上は一刻も早くその職を辞し、身を慎まれてはいかがか」
「これは・・・ウォンデーヌ殿ともあろうお方が、ずいぶんと安易なことを仰るものですな」
バリーを鋭く睨みながら、ネルソンが自身の見解を述べた。
「確かに、先のラダンでの戦の大敗は、私に全ての責があります。なれど、職を辞すという安易な道が、責任を取る最善の方法とはどうしても思えませぬ。ゆえに私は、あえて宰相の職に留まり、この国を立て直すことで責任を果たしたいと思ったのです。スティークの行いは、まさに安易な考えに流された暴挙。ウォンデーヌ殿も、奴の反乱は許されざることと仰ったではありませぬか」
「確かにそう言ったが、あなた1人の身で反乱が収まるなら、安いものだと申し上げておるのじゃ!戦となれば、また多くの血が流されるのですぞ!」
「それはどうでございましょうな。アルフォード殿が職を辞したところで、スティークが反乱を収めるという確証はどこに?」
五将軍の代表として会議に参加していたルシウスが、冷ややかな目でバリーを見ながら問うた。するとそれに応えたのは、首席顧問官のジェームズだった。
「確かに、確証はない。だがスティークの要求は、宰相殿がその位から退くことじゃ。それで反乱が収まればよし、スティークが兵を収めぬようであれば、それこそ謀反人として討ち取ればよし。戦はやむを得ぬこととしても、まずはそれを回避する道を取るというのも、悪いことではないのではないか?」
「これは・・・首席顧問官のお言葉とも思えませぬ。武で要求を通そうとする者に対し、始めからへりくだっていてはいいように付け込まれまする」
冷徹にジェームズに言葉を返すと、ネルソンは会議を見守っていたレオナルド国王に視線を向けた。
「陛下・・・このような暴挙が許されては、もはや国は国としての形を為しませぬ。ここは・・・ギル・スティークを謀反人として討ち取り、この国の権威、そして暴挙には屈さぬという強い姿勢を見せるべきでございます」
レオナルドがどのような発言をするか。その場にいる全員が、固唾をのんでその言葉を待った。やがてレオナルドは顔を上げると、静かに、しかし威厳がこもった声で言った。
「わしは・・・宰相の言うことにこそ理があると思う。武を持って己が要求を通そうなど、この国の法を冒涜する愚行。わしは・・・このような暴挙には断じて屈さぬ。・・・この場にいる全員に命ずる。謀反人、ギル・スティークの首を、直ちにわが前に差し出すべし!」
この宣言に、その場にいた全員が深くこうべを垂れた。ネルソンは顔を上げると、すぐに他の参加者たちに号令した。
「方々!かくなる上は戦でございます。各々揃えられるだけの兵を揃え、謀反人を討ち取るのじゃ!!」
その言葉に、参加者のほとんどが声を上げて応えた。しかし、バリーとジェームズは不服そうな表情を浮かべ、その声に和することはなかった。
「そうですか・・・・・・戦は、避けられぬと・・・」
「うむ。こうなった以上、ギル・スティークは討ち取らねばならん。さもなくば、今後も奴のような者たちが次々と兵を挙げよう」
会議が終わってから、およそ1時間後。ネルソンの執務室に呼び出されたエレンは、父から戦になることを伝えられた。
「それで、総大将はどなたが?・・・もしや、父上が?」
「いや・・・わしが総大将になっては、反発する者もおろう。それに、スティークに勢いを与えかねん。よってわしは、城を守ることにする」
「はあ・・・では、どなたが総大将を?」
そう問いかけたエレンに、ネルソンが小さな笑みを向けながら言った。
「総大将は・・・お前だ、エレン」
「な・・・!私が・・・総大将・・・!?」
驚きのあまり、エレンは呼吸が止まるかと思った。そんな彼に、ネルソンは淡々と告げる。
「そうだ。わしの後を継ぐ以上、戦を避けて通ることはできぬ。これもよい経験だ、お前も戦というものを、身をもって学ぶといい」
「なれど・・・私はこれまで、戦に出たことがございませぬ!そんな私が・・・いきなり総大将など・・・!」
「案ずるな。ルシウスにランス、それに残る2人の五将軍もつけてやる。これで負けるようならば、お前には本当に武運がないことになる」
「妙な冗談はおやめくだされ。ますます、重荷になってまいりました・・・!」
頭を抱えるように言ったエレンの肩に、ネルソンが力強く手を置いた。
「大丈夫だ。お前ならできる。少なくとも、わしはそう信じておる」
「父上・・・」
「エレン・・・世の中には、避けられる戦と避けられぬ戦がある。アルフォードの家を守るため、此度の戦は、絶対に避けられん。わしは・・・この家の未来を、お前に託す」
ネルソンの目には、一切の嘘偽りもなかった。エレンはそれを確かに感じ取ると、重々しくうなずいて言った。
「分かりました・・・・・・総大将の任、謹んでお引き受けいたしまする!」
その言葉に、ネルソンが安堵したような笑みを浮かべた。エレンは背負った任の重さに潰されそうになりながらも、アルフォードの家を守る決意を新たにするのだった。
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