側仕え(4)
エレンたちの城勤めが始まってから、10日ほどが経った。
相変わらず、エレンの『仕事』と言えば、国王レオナルドのゲームや世間話に付き合うことばかりであった。時折、何人かの側仕えの者たちを交えたゲームをすることもあったが、基本的には、エレンとレオナルドの1対1のゲームが主流だった。
しいて変わったことといえば、レオナルドから2人の側近を紹介されたことくらいであった。それは、側仕えを始めてから3日目のこと。自身のもとにやってきたエレンに、レオナルドは2人の側近を紹介した。
「この2人は、わしにとって最も近しい者たちよ。・・・ほれ、エレンに挨拶せよ」
「はっ。・・・ベイル・ストーンだ。陛下に、剣や槍、弓などの武術を指南していた者だ」
「サイラス・カーンと申す。陛下に学問や政について指南していた者じゃ」
2人はいずれも中年であったが、ベイルは精悍な顔立ちをしており、知的な雰囲気を醸し出すサイラスは、頭に白いものが混ざり始めている。ベイルが武を、サイラスが智を、それぞれレオナルドに伝授していたのだろうとエレンは思った。
「おいおい、この2人とも仲良くなってくれればよい。・・・さて、今日は何の遊びをしようかの、エレン」
――そして、現在。エレンは城での仕事を終えると、カレンとダンが暮らす長屋に足を運んだ。この日の朝、エレンはネルソンより、仕事を終えたらカレンたちを訪ねるように言われていた。それも、人目を避けるようにと言い含められて。
「来たな。誰にも、見られなかったであろうな?」
エレンを長屋の中に迎え入れると、ダンが確かめるように問いかけた。
「ああ・・・おそらく、誰にも見られていないはずだが・・・」
「おそらくじゃ困る。もし何かあった時、宰相殿に叱られるのは俺たちなんだぞ」
エレンをたしなめつつ、ダンは彼を仲間のもとに案内した。そこにはカレンだけでなく、別の部屋に住んでいるエミルとカイルの姿もあった。
「では、皆の近況を教えてくれ。・・・まずカイル、ランス将軍の稽古はどうだ?」
エレンが問いかけると、カイルが疲れ切った表情で答えた。
「いやはや、毎日大変だぜ・・・ランス将軍はいい人なんだけどさ、さすが叩き上げの将軍だけあって、稽古はものすごく厳しいんだ。ついて行けずに脱落する奴もいるけど、俺はまだ何とかしがみついてるよ」
「そうか・・・ではエミル、カール殿たちのもとでの修業はどうだ?」
「・・・はっきり言って、甘く見てましたよ。役人の皆様が携わる仕事は、僕の想像をはるかに超える、難しいものばかりでした。僕がカルドで学んでいたことなど、とてもちっぽけなものだったと思い知らされました・・・」
カイルと同じく疲弊した表情を浮かべながら、エミルが沈んだ声で言った。
「それでも、2人ともまだ喰らいついているではないか。それだけで、十分立派だと俺は思う」
「ああ、同感だ。ところで、エレンはどうなんだ?王様の側仕えだろ?色々大変なんじゃないか?」
ダンが尋ねると、エレンは少し言いにくそうに答えた。
「それがな・・・案外、そうでもない。俺は、陛下の身の回りのお世話をするものだと思っていたのだが、陛下はその役目はもう間に合っていると仰せでな。俺がしていることと言ったら、陛下のお遊びの相手をすることと、世間話に付き合うことくらいだ」
「は!?何だよそれ、そんな簡単な仕事なのか!?」
カイルが思わず大声を上げたが、そんな彼をダンが手で制した。
「いや、むしろかえって難しいかもしれないぞ。・・・エレン、お遊びに付き合うと言ったが、具体的にはどんな遊びをしてる?」
「主に、勝負事だ。サイコロを振って出目の数を競ったり、トランプの札の数を競ったり・・・・・・陛下は勝負事がお好きで、それも勝っても負けてもどちらでもいい、といった感じだ」
「勝っても負けても・・・・・・では陛下は、負けることすらも楽しんでおられるのですか?」
エミルが訝しそうに問いかけると、エレンは小さくうなずいた。
「ああ。結果はともかくとして、勝負そのものがお好きなのだと思う」
「ふーん・・・俺なんか、遊びとはいえ負けるのは、ものすごく嫌だけどな」
カイルがそう言うと、ダンが腕を組みながらゆっくりと口を開いた。
「ああ、ほとんどの人間はそうだ。・・・エレン、これはあくまで俺の意見だが、陛下はある意味では、危険なお方かもしれんぞ」
「危険・・・?」
エレンの問いかけに、ダンは重々しくうなずいた。
「ああ。エレン、お前さっき、陛下は勝負そのものがお好きだと言ったな?・・・それを、政や戦に当てはめて考えたら・・・どうだ?」
「・・・ことの結果はともかくとして、何かをするということ自体を、重視されていると?」
「ああ。ほとんどの人間は、成功することを目指して失敗を避ける。だが陛下の場合、成功しても失敗しても、どちらでも構わぬというお考えなのではないか?その結果振り回されるのは、俺たちのような下々の人間だ。・・・いや、俺たちだけではない。先の戦の大敗で、お前や親父さんたちも、かなり振り回されたはずだ」
「確かに・・・・・・そう言われてみれば、確かに危険なお方かもしれぬ」
「・・・陛下だけ、じゃないわ」
その時、これまでずっと黙っていたカレンが、重い口調で声を上げた。
「王妃様も、かなり危ない方よ・・・・・・私・・・もう・・・駄目かも・・・!」
そう言うや否や、カレンは長屋を飛び出していった。残された男たちは一瞬目を見合わせたが、すぐにエレンがカレンの後を追い始めた。
「カレン!・・・待て、カレン!」
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