側仕え(3)
さて、ここで視点をエレンに戻そう。
「陛下・・・私は一体、何をすればよろしいのでしょうか?」
単刀直入に問いかけたエレンに、レオナルドは少し悩むような表情を浮かべた。
「そうじゃな・・・はっきり言えば、身の回りの世話をする者は間に合っておる。この城の者たちはみな貪欲でな、己が次男や三男を側仕えさせ、少しでもわしの目に留まろうと必死なのじゃ」
「はあ・・・我が父も、同じようなものでございますな・・・」
「ふふ、正直でよろしい。・・・では、ゲームをしようではないか」
「ゲーム・・・?」
戸惑ったような声を上げるエレンの目の前で、レオナルドはパンパンと手を叩いた。すると数人の側仕えの者たちが、テーブルと2人分の椅子、そして4つのサイコロを持ってきた。
「ルールを説明する。まずは席に腰かけよ」
レオナルドに言われるがまま、エレンはテーブルの端に置かれた椅子の1つに腰かけた。もう1つの椅子にはレオナルドが腰かけ、2人は向かい合う形となった。
「やることは簡単じゃ。まず両者が同時にサイコロを振る。そして次に、出目が小さかった者がもう一度サイコロを振り、その後にもう片方が再度サイコロを振る。出た目の合計が大きかった方が勝ちじゃ」
「なるほど・・・・・・分かりました。謹んでお受けいたします」
レオナルドは満足そうな微笑みを浮かべると、サイコロを1つ手に取った。エレンもサイコロを1つ手に取り、両者が同時にテーブルに投げる。
「ほう・・・5か。よい目を出したではないか」
「恐れ入ります。・・・では陛下、サイコロをお振りくだされ」
レオナルドが振ったサイコロは、2を示していた。彼は2個目のサイコロを振り、それは5の目を出して止まった。
「2と5、わしの点は合わせて7じゃ。・・・さあエレン、そなたの番じゃ。3より上を出せば、そなたの勝ちぞ」
「はっ。では・・・!」
エレンは2個目のサイコロを手に取り、それをテーブルに放り投げた。やがて動きを止めたサイコロは、1の目を示していた。
「合わせて6・・・此度はわしの勝ちじゃ」
「はっ。・・・おめでとうございます、陛下」
「何、まだまだ始まったばかりぞ。それ、サイコロを振れ」
レオナルドに促され、エレンは再びサイコロを手に取った。レオナルドもエレンと同時にサイコロを振り、今度はレオナルドが5、エレンが4の目を出した。
「さあ、二度目のサイコロを振れ。目の差は1しかないゆえ、逆転の見込みは十分あろうぞ」
「はっ。・・・では・・・!」
エレンが振った2個目のサイコロは、6の目を出して止まった。それを見て、レオナルドが目を輝かせながら言った。
「ほう・・・!ここで6の目を出されたか!ははは、逆転は難しそうじゃ」
「いえ、サイコロの目は振らねば分かりませぬ。・・・では陛下、お振りくだされ」
レオナルドが振った2個目のサイコロは、3の目を出して止まった。合計の数字はエレンが10、レオナルドが8となり、今回の勝負はエレンの勝ちとなった。
「そなたの勝ちじゃ。なかなかやるではないか」
「恐れ入ります。・・・陛下は、このゲームがお好きなのですか?」
「そうじゃな。トランプやチェスをすることもあるが、一番気に入っているのはサイコロじゃ。何やら深いものを感じての・・・・・・まるで、人生の縮図のような」
「人生の・・・縮図・・・?」
疑問の声を上げたエレンに、レオナルドが微笑みかけながら言った。
「左様。先ほどそなたも言ったではないか。サイコロの目は、振ってみなければわからぬと。人生もそうじゃ、何が起こるかは、その時になってみなければ分からん。わしも2年前、父であった先代の王を急な病で亡くし、今のそなたと同じ齢で王位を継いだ。父はまだ50を過ぎたばかり、まだまだ長生きなさると思っておったが・・・・・・いやはや。人の運命など、どうなるか分かったものではないな」
ため息交じりにそう言ったかと思うと、レオナルドは茶化すような表情でエレンに告げた。
「実はな、そなたの父ともたまに、このゲームをやるのじゃ。しかしそなたの父との勝負はつまらぬ。なぜなら向こうが、わざと負けてばかりなのでな」
「父とも、この遊びをなさるのですか?」
「まあ、あやつも多忙じゃ。月に一度できるかできぬか、といったところではあるがの。・・・ネルソンに伝えてくれ。次に遊ぶときは、わざと負けるようなことはするなと」
「はっ。・・・しかと、父に申し伝えます」
エレンが深く頭を下げると、レオナルドは満足そうな笑みを浮かべて言った。
「頼んだぞ。ゲームというのは、勝ってばかりではつまらぬゆえな。勝つ時もあれば、負ける時もある。これこそが、勝負の醍醐味じゃ」
「私も、そのように思います。勝つばかりの勝負など、あまり面白くありませぬ。人生に良いことも悪いこともあるように、勝負事にも、勝つ時と負ける時がございます。だからこそ、ゲームというものは面白い」
「ふむ・・・気が合うな。ますます気に入ったぞ、そなたのことを」
くすぐられるような笑みを浮かべながら、レオナルドがエレンにそう告げた。エレンは小さく頭を下げると、再びサイコロを手に取るのだった。
「そうか・・・ゲームと世間話で、1日が終わったと・・・」
その夜。屋敷に戻ったエレンはネルソンに、側仕えの1日目の様子を伝えた。
「はい・・・それから、陛下から父上に伝言がございます。・・・サイコロ遊びで、わざと負けるようなことはするな、と」
「・・・わざと負ける?わしがか?」
意外そうな表情を浮かべる父に、エレンは思わず呆気に取られて尋ねた。
「父上は・・・わざと陛下に負けておられたのでは?」
「馬鹿なことを申すな。遊びとはいえ、勝負に手を抜く奴がどこにおる?」
「・・・ではつまり、本気で挑んで負けてらっしゃるのですか?」
「当たり前だ。まして陛下が相手ぞ、何ゆえ手を抜けようか。・・・しかし、陛下がそのようにお考えとはな・・・・・・次にゲームに誘われたら、せめて一度は勝てるようにせねば・・・」
いつになくうろたえる父の姿に、エレンは思わず笑みを浮かべた。――こうして、城勤めの1日目は、無事終わりを迎えたのだった。
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