側仕え(2)
エレンがレオナルドと対面を果たしていた、まさにその頃――
「もっと腰を入れろ!戦場では、誰も手加減などしてくれぬぞ!」
城の大きな庭に、1人の若者の声が響く。彼は五将軍の一員、ランス・カロット。その目の前では、何十人もの兵士見習いが剣の稽古に励んでおり、その中に、エレンの仲間であるカイルの姿もあった。
「はあっ、はあっ・・・これが・・・お城の稽古か・・・!」
カルドで自己流の稽古をしていたにすぎないカイルにとって、ランスの稽古は想像以上に過酷なものだった。しかし、負けてなるものか、絶対に将軍になるんだという強い思いが、カイルの疲れ切った体を奮い立たせる。
「・・・そなた、初めて見る顔だな。名はなんという?」
そんなカイルの奮闘ぶりに目を引かれたのか、彼のすぐそばを偶然通りかかったランスが声をかけてきた。
「はっ!カ・・・カイル・ブレントと申します!先日、カルドの村からやってまいりました!!」
頭からつま先までピンと張りつめさせながら、カイルが大声で言葉を返した。
「カルド・・・では、宰相殿とは同郷か」
「はい!宰相殿のことは、子供のころから知っておりまする!!」
「そうか・・・いい面構えだ。そなたの名、覚えておこう」
カイルに一瞬微笑みかけると、ランスはすぐさま鬼のような顔に戻り、見習いたちに大声を飛ばした。そんな彼を喜びとともに見送りながら、カイルは再び剣を振るい始めた。
「そなたが、宰相殿が仰っていた見習いか。私はカール・マリク。宰相殿のもとで、行政に関する仕事をしておる」
それと時を同じくして、エミルはネルソンに紹介された、カール・マリクと対面を果たしていた。国の要職を担う人物と会えたことで、エミルの胸は激しく高鳴っていた。
「はっ!わたくしは、エミル・サラザールと申します!若輩者ではございますが、カール様や皆様より、様々なことを学びとうございます!!」
「うむ。では、このお二方についても紹介しておこう」
そう言うと、カールは執務室にいた2人の役人をエミルに紹介した。
「まずは、ニール・フリント殿。主に、この国の財政に関わる仕事をしておられる」
「ニール・フリントじゃ。よろしく頼む」
カールより少し若い、中年間近のどこか気弱そうな男性が、エミルに笑顔で声をかけた。
「そして、ディエゴ・マッコイ殿。主に、司法に関する仕事をしておられる」
「ディエゴ・マッコイじゃ。・・・若いのに感心じゃな、役人になりたいとは」
白髪頭の老人であるディエゴが、感心したような表情で言った。エミルはカールとディエゴに順に頭を下げると、ディエゴの言葉に応えるように言った。
「わたくしは子供の頃より、物事の仕組みを考えるのが好きでございました。政も、いわばその延長線でございましょう」
「ほう・・・なかなか、口が達者な奴じゃな」
ディエゴの言葉に、ニールが思わず声を上げて笑った。カールはわずかに表情をほころばせたものの、すぐに隙のないまじめな表情に戻って言った。
「エミルとやら。我らの仕事は、決して生易しいものではない。先ほど、我らが主に取り組んでいる仕事を紹介したが、それ以外にも、教育や土木、そして宗教など、我らが携わるものは多岐にわたる。・・・その全てを、そなたの頭に叩き込めるか?」
「はっ・・・どこまでこの頭に収まるか、試してみとうございます!」
エミルがカールたちに力強く宣言した、まさにその頃。ダンの姿は、城の厩舎にあった。
「おい、聞いたか?首席顧問官様が、宰相殿を罷免すべしと国王様に上奏されたようじゃ」
「ああ、わしも聞いた。しかし陛下は、あくまで宰相殿を庇うおつもりだとか」
「陛下もお辛いであろうのう。身内からは宰相殿を切れと言われ、かといって宰相殿を切ってしまっては、この国のかじ取りはままならなくなるゆえな」
ネルソンの言葉通り、この厩舎では、様々な噂話を耳にした。兵士や武将、はたまた貴族や文官たちが、周りの目も気にせず好き放題に言葉を交わしている。まるで、厩舎で働く小者には、それらを聞かれても構わないとでも言わんばかりに。
(みな、不用心じゃな・・・・・・どこで誰が、耳をそばだてておるか分からぬというに・・・・・・)
今のところ、これと言ってめぼしい話はない。だが、いつそういう話が飛び込んでくるか分からない。ダンは馬の世話の仕事をしながら、注意深く聞き耳を立て続けた。
――そんな中、城の中で、ある動きがあった。
「所領に?」
執務室で書類を読んでいたネルソンが、書類から目を離してある人物に視線を向けた。その人物とは、ゴールとルーカスの葬儀でエレンに声をかけてきた、将軍のギル・スティークであった。
「はっ。先の敗戦がきっかけとなったのか、我が領内で騒がしい動きがあると、報せが参りました。直ちに所領に戻り、ことと次第によっては、兵を出して鎮圧したいと思っております」
「うむ・・・確かに、そういった動きがあってもおかしくはない。・・・だが惜しいな。そなたが今城にいてくれれば、わしも心強いのだが」
ネルソンがそう言うと、ギルはかしこまったように頭を下げた。
「そのように仰っていただけるとは、光栄の至り。なれど、我が領内で不穏な動きがあるとなれば、捨て置くことはできませぬ。・・・どうか、所領に戻ること、お許しくださりませ」
「・・・分かった。事が済み次第、すぐ城に戻ってまいれ。わしも今こんな立場じゃ、味方は1人でも多い方が良い」
「はっ。では、失礼いたします」
ネルソンに慇懃に頭を下げると、ギルは彼のもとを去っていった。ネルソンは小さくため息をつくと、再び書類の山に目を通し始めた。
ご覧いただきありがとうございます。
評価や感想をいただけると、本当に励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします




