側仕え(1)
ここからが、物語の『第3章』になります。舞台が本格的に城に移り、ちょっとずつではありますが、サスペンス要素が増していきます。
また、第2章の開幕と同時に、投稿時間を試験的に午後6時から午後0時に変更しましたが、しばらくこのままの投稿時間を続けたいと思います
レオナルド国王歴3年、春――
エレン・アルフォードは、国王であるレオナルドの側仕えとして、城に出仕することとなった。
「エレン・アルフォードでございます。本日より、この城でお世話になります」
城の入り口を守る衛兵2人に挨拶すると、2人も心得ていたように武器を下ろした。
「宰相殿から承っております。どうぞ中へ」
城門が重い音を立てて開き、エレンは城の中に足を踏み入れた。その瞬間、いくつもの刺すような視線が、自分に向けられていることを彼は察した。
(これも俺が、宰相の息子だからか・・・)
その視線を無視しながら、エレンは父の執務室に向かった。そこにはすでに出仕していたネルソンが、山と積まれた書類の1つに目を通していた。
「来たか。早速陛下に会いに行くぞ」
ネルソンに案内され、エレンは王のいる玉座の間に向かった。入り口を守る近衛兵たちに、ネルソンがエレンを示しながら声をかける。
「本日より、陛下の側仕えをすることとなった、エレン・アルフォードである」
「エレン・アルフォードでございます。お見知りおきを」
エレンが慇懃に頭を下げると、近衛兵たちは2人を通した。ネルソンの後に続いて玉座の間に入ったエレンは、立派な玉座に腰かける若い男性と、その隣に立つまだあどけない顔立ちの美少女の姿を目にした。
「国王陛下、王妃様、本日もご機嫌麗しゅう・・・」
「うむ。宰相よ、その若者はだれじゃ」
ネルソンの後ろでひざまずくエレンの姿を見ながら、若者――レオナルド国王が問いかけた。
「愚息の、エレンでございます。以前申し上げたとおり、本日より陛下のおそばに仕えさせていただきます。・・・エレン、ご挨拶せよ」
「はっ。・・・国王陛下、王妃様、お初にお目にかかります。ネルソン・アルフォードが三男、エレン・アルフォードでございます。以後、お見知りおきくださいませ」
目の前の高貴ないで立ちの若い男女に、エレンは深々と頭を下げた。王妃のシャーンはやや表情をゆがめていたが、レオナルドは小さな笑みを浮かべながらエレンに声をかけた。
「ほう・・・そなたが例の、宰相に嚙みついたという三男坊か。なかなか頼もしそうな面構えをしておるではないか。のう、シャーン」
「はっ・・・陛下がそのように仰るなら、わたくしもそう思うことといたします」
シャーンの口調には、微かだが棘が感じられた。エレンがそう思うと同時に、ネルソンがレオナルドに声をかけた。
「それでは、私はこれにて・・・」
「うむ。・・・下がってよいぞ、宰相よ」
ネルソンはかしこまって頭を下げると、玉座の間を後にした。彼の姿がすっかり見えなくなると、レオナルドが笑みを浮かべながらエレンに話しかけてきた。
「さて・・・エレンといったな。そなた、今年でいくつになる?」
「はっ・・・19歳でございます」
「19か。ならばシャーンと同い年ではないか。シャーン、そなたもぜひ、このエレンと仲良くしてやってくれ。同い年同士であれば、話が弾むこともあるかもしれん」
「お言葉ですが陛下、わたくしはアルフォードの家の者が嫌いでございます。・・・エレンと申したな?そなたもどうせ、アルフォードの家名を守るために、陛下に擦り寄ろうという魂胆であろう?」
シャーンのあどけない、だが鋭い目が、エレンの顔を冷たく睨み据えた。エレンは返す言葉に困りながらも、何とか声を絞り出した。
「さ・・・さすが王妃様にございます・・・・・・わたくしの・・・いえ、父の魂胆を、早くも見抜かれましたか」
「アルフォードの家の者に褒められたところで、嬉しくも何ともありませぬ。・・・陛下、申し訳ございませんが、一旦席を外させていただきます。アルフォードの家の者の顔など、見たくもございませぬゆえ」
レオナルドに小さく会釈すると、シャーンはドレスを翻してすたすたと去っていった。重い沈黙が玉座の間に流れる中、レオナルドが申し訳なさそうに口を開く。
「すまぬな。あれは嫁いだ時からああなのじゃ。父親の影響か、アルフォードの家の者を必要以上に毛嫌いしておる。・・・じゃが、わしは違う」
若き国王はそう言うと、引き込まれるような笑みを浮かべて続けた。
「わしは幼き頃より、そなたの父を頼りにしておる。わが父が、国を分断した内乱を収めることができたのも、ひとえにそなたの父のおかげじゃ。わしはアルフォードの家の者に、多大な恩を感じておる。・・・仲よくしようぞ、エレン」
「はっ・・・!このエレン、陛下のために、粉骨砕身いたしまする!」
こうして、エレンとレオナルドの初対面は、無事に終わることとなった。しかしその一方で、玉座の間を後にしたシャーンが、大股で彼女の部屋まで戻ってくる。
(あれが・・・王妃様・・・・・・)
小間使いとして出仕していたカレンは、すれ違った王妃の美しい姿に思わず見とれそうになった。しかし次の瞬間、シャーンの口から発せられた一言に、彼女ははっと我に返ることとなった。
「汚らわしい・・・アルフォードの一族め、陛下を篭絡せんとするか・・・!」
その声には、憤りや嘲り、そして侮蔑など、様々な負の感情が宿っていた。ここまでどす黒い声は聞いたことがないと、カレンは心の中でつぶやいた。
「陛下は渡さぬ・・・・・・陛下はわたくしのものじゃ・・・・・・わたくしと、その一族だけ見てくだされば、全て・・・万事うまくいくはずなのじゃ・・・・・・」
恍惚とした目でつぶやくシャーンの姿に、カレンは恐怖すら覚えて目をそむけた。一方のシャーンは、自身の言葉が小間使いに与えた恐怖など、部屋の隅に落ちている髪の毛ほども気にしていない。
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