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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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城への帰還(6)

葬儀の翌日。アルフォード家の空き部屋で寝泊まりしていたエレンの仲間たちが、ネルソンに呼び出された。


「そなたらの、城での仕事が決まった。まずはカイル」

「は・・・はい!」


緊張の面持ちで返事をしたカイルに、ネルソンは柔らかな笑みを浮かべて告げた。


「そなたは明日より兵士見習いとして、ランス・カロット将軍のもとに通え。そこで将軍より、武芸の稽古を受けるとよい」

「ランス・カロットって・・・・・・あの、五将軍の!?」


ランス・カロット。彼もまた、ルシウスやギルと同じ、五将軍の一員である。内乱当時は15歳の少年だったが、優れた武勇で数々の敵将の首を取り、19歳という若さで将軍に昇進したという、異能の才能の持ち主である。


「左様。ランス将軍の腕は確かだ。それに教え方もよい。そなたがどれだけ吸収できるか次第ではあるが、いずれは将軍も夢ではないぞ?」

「は・・・はい!俺、がんばります!!」


叫ぶように言ったカイルに満足そうにうなずくと、ネルソンはエミルに視線を向けた。


「それからエミル。そなたは明日より、文官のカール・マリクに師事せよ。そやつはわしの右腕だ、大いに学ぶことができよう」

「・・・その方は確か、この国の行政を取り仕切っておられるお方・・・!光栄でございます、宰相殿!」


エミルは喜びの表情を浮かべながら、ネルソンの意向に従うことを宣言した。


「ダン。そなたには、城の厩舎で働いてもらう。厩舎では、様々な話を耳にすることがあろう。有益と思う情報があれば、それをわしかエレンに伝えよ」

「はっ。常に耳をそば立てておきます」

「そしてカレン。そなたには、王妃様の小間使いを務めてもらう。王妃様は気難しいお方だが、そなたなら立派に仕事を務められよう。ダンと同じように、宮中での噂をよく聞き、役に立つと思う話があれば伝えよ」

「かしこまりました、宰相殿」


こうして、4人の城での仕事が決まった。ネルソンはさらに4人に、今寝泊まりしているアルフォード家の屋敷を出るように伝えた。


「城の近くの長屋を手配した。ダンとカレンで一部屋、エミルとカイルで一部屋使え。あまりこの屋敷には近寄るな、そなたらと我らの繋がりを悟られたくない」

「承知いたしました、宰相殿」


一同を代表して、最年長のダンが言葉を返した。ほどなく、4人は屋敷の部屋を引き払い、それぞれの荷物を手に長屋へと向かった。


「なるほど・・・要するに、カレンとダンは間者ですか」


4人が屋敷を去った後、ネルソンはエレンを呼び出して4人の今後の仕事を伝えた。渋い表情で問いかけた息子に、ネルソンは小さく笑いながら答えた。


「確かに綺麗な仕事ではないが、我らにとっては重要な役目だ。それにあの2人なら、我らに有益な情報を手に入れてくれよう。・・・あの2人を疑うか?」

「いえ・・・私も、あの2人のことは信じておりますゆえ」


エレンの言葉に小さくうなずくと、ネルソンは彼の目を見つめて言った。


「そして・・・お前の明日からの仕事を伝える。お前には・・・レオナルド様の側仕えを務めてもらう」

「はっ・・・陛下の・・・側仕え・・・?」


思いがけない父の言葉に、エレンは驚きを隠せない様子で声を上げた。


「いずれわしの後を継ぐからには、陛下の覚えがめでたい方が良い。・・・お前も知っておろう、今わしは城では一番の嫌われ者だ。文官筆頭のウォンデーヌは、わしへの批判を公然と叫んではばからぬ。首席顧問官のジェームズ殿も、わしを成り上がりと蔑んでおる。その娘御である王妃様も、陛下にわしの悪口を吹き込んでおられよう。・・・分かるな?今我らに必要なのは、陛下という後ろ盾だ」


ネルソンの言葉に、エレンは重々しくうなずいた。先日、兄の葬儀でトールから聞いた話では、レオナルド国王は父を庇っているという。今のアルフォード家にとって、これ以上に心強い味方はない。


「よいな?何としても陛下のお心を掴み、引き続き我らにお味方いただくように誘導するのじゃ。・・・もっとも、陛下は聡明なお方だ。下手な小細工は、かえって足元を見られることになりかねん。お前のままで行け。さすればきっと気に入られよう」

「はぁ・・・私などが、陛下のお心を掴むことができますでしょうか・・・」

「できる。わしはそう信じておる。・・・頼むぞエレン。今わしにとっては、お前が一番の頼りじゃ」


エレンの肩を叩きながら、ネルソンは激励の言葉をかけた。その言葉に宿った重さを全身で感じながら、エレンは自分が置かれた立場に思わず震えるのだった。



――そして、翌日。


エレンは新たな仕事のため、王城の入り口までやって来た。幼いころから、何度となく出入りした城。かつては日常の一部であったその城が、今まで以上に大きく、また不気味に感じられた。


――今我らに必要なのは、陛下という後ろ盾だ――


――今わしにとっては、お前が一番の頼りじゃ――


ネルソンにかけられた言葉が、エレンの胸を強く締め付けた。それでもエレンは顔を上げると、確かな決意と共に城への一歩を踏み出す。


(兄上たち・・・見ていてくださいませ。必ず・・・アルフォードの家を生き残らせて見せます・・・!)


一歩、また一歩と、エレンは城に近づいていく。――レオナルド国王歴3年。この日、エレンはエルドラの歴史を変える一歩を、着実に歩み始めていた。

ご覧いただきありがとうございます。


ここまでが、物語全体の第2章になります。次回から、物語の舞台は城へと移っていきます。


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