城への帰還(5)
翌日。ゴールとルーカスの葬儀は、厳かに執り行われた。
先日屋敷に戻って来たばかりのエレンや仲間たちも、葬儀の準備を全力で手伝った。葬儀には将軍や文官など、名だたる国の要人が多数参列した。レオナルド国王とその妃のシャーンからも、それぞれ弔問の使者が派遣されてきた。
葬儀のさなか、マリアは常に涙を流しており、ミアも時折涙に濡れた目を拭っていた。しかし、ジャンヌは息子のアランの肩を抱きながら、涙を見せずに毅然とした表情を貫いていた。ネルソンも沈痛な面持ちこそ浮かべていたものの、その目から涙が流れることはなかった。
「この度は・・・心からお悔やみ申し上げる。ゴール殿もルーカス殿も、この国の未来を担う柱石だった。その2人がいなくなってしまったことは、本当に寂しく、大きな損失だ」
普段はくだけた話し方で接してくるルシウスも、この時ばかりは重々しい口調でエレンに声をかけてきた。その背中には息子のトールと、娘のサラの姿もある。
「お心遣い・・・痛み入ります。ルシウス殿にそう評価していただくこと、兄たちも誇りに思っておりましょう」
「エレン・・・本当に、親父さんの後を継ぐのか?・・・正直、俺はやめておいた方がいいと思うぞ」
文官と話をしているネルソンをちらりと見ながら、トールが小声でエレンに告げた。
「お前もきっと想像がついてるだろうが、今の城の雰囲気は最悪だ。親父さんを罷免すべしという声が、日増しに強くなってやがる。国王陛下は親父さんを庇ってらっしゃるが、王妃様のお父上・・・ジェームズ首席顧問官が、親父さんを宰相から降ろすべきだと、毎日のように進言してるとか」
「それは・・・やむを得ぬことであろう。父上も、今回ばかりはやりすぎた。宰相の職を解かれたとしても、それは仕方のないことだと思っている」
そうトールに応えたエレンに、ルシウスが表情をゆがめながら言った。
「一応、俺は親父殿を庇ってるぞ。しかし今回の戦、確かに無理があったかもしれねえ。五将軍の中からも、親父殿への批判の声が上がっている」
「五将軍からも・・・・・・それは・・・確かに由々しきことではありますな・・・・・・」
五将軍とは、13年前の内乱の際に先代国王に見出され、優れた働きを見せた5人の将軍のことである。ルシウスもその1人であるが、ネルソンは軍師として戦に参加していたため、この五将軍には含まれていない。
「文官筆頭のバリー殿も、公然と親父さんを批判してるからな。娘のイリア殿はともかくとして、あの一族も親父さんを敵視して・・・」
と、その時であった。トールの後ろに立っていたサラが、大きなあくびを1つついた。父親のルシウスが顔をしかめてたしなめる。
「こら、サラ。こういう場所であくびはよせ、はしたない」
「だって・・・お城の話・・・つまんない・・・」
「あっ・・・引き留めてしまって、申し訳ございません。では、他の弔問客の相手もありますので、私はこれで・・・」
エレンはルシウスたちとの話を切り上げると、彼らの前から去っていった。すると彼の元に、どこか暗い目をした1人の男が声をかけてきた。
「宰相殿のご子息ですな?お初にお目にかかります、ギル・スティークと申します」
「・・・!五将軍の、おひとりの・・・!」
その名前だけは、幼いころから何度も聞かされて知っていた。一介の兵士でありながら、優れた戦術眼で味方を勝利に導き続け、ついには将軍になった男。まさに『生ける伝説』である存在が、今自分の目の前にいる。
「あなたが、宰相殿やゴール殿と意見を戦わせ、戦を止めようとしたという話は、城でも語り草になっております。宰相殿のご子息とはいえ、その若さで己の意見をはっきりと口にできるとは、このギル・スティーク、感服いたしました」
「いえ・・・結局、戦を止めることはできませんでした。その結果がこの有様・・・・・・私には、何の力もないと思い知らされました・・・」
力なく呟いたエレンに、ギルが声をひそめて言葉をかけた。
「ここだけの話、私はお父上が今のまま、宰相の職に就き続けるのはどうかと思っております。此度の大敗、確かに宰相殿は戦場にはおられませんでしたが、それでも、戦を決めたのは宰相殿でございます」
(・・・なるほど。先ほどルシウス殿が仰っていたのは、こういうことか・・・)
ここは城ではなかったが、エレンは早速、城の洗礼を受けた気がした。五将軍の一員が、兄たちの葬儀の場で父を批判する。父への批判自体は構わなかったが、兄たちとの最後の別れの場で、そのような話をされるのは心外であった。
「恐れながら、そういったお話はまた別の機会に・・・・・・今はただ、兄たちを見送りたいと思っておりますゆえ・・・」
「・・・そうですな。私としたことが、場違いなことを申しました。お忘れくだされ」
エレンに軽く会釈すると、ギルは足早に去っていった。その後ろ姿を見つめながら、エレンは2人の兄に心の中で呼びかける。
(兄上たち・・・・・・私は、とんでもない所に戻ってきてしまったかもしれません・・・・・・なれど、私も覚悟は決めました・・・・・・ここから先、兄上たちには及ばずとも、私は私の戦い方をいたしまする・・・!)
その後、ゴールとルーカスの遺骸が入った棺が、2人の墓穴に納められた。これにてようやく葬儀は終わり、エレンは屋敷に戻って一息ついた。
「お兄様・・・戻ってきてくれて、本当にありがとう」
未だ喪服姿のミアがやってくると、エレンに感謝の言葉を述べた。
「ゴールお兄様もルーカスお兄様も、きっと喜んでくれてたわ」
「ああ・・・そうだと、いいのだがな・・・・・・」
それきり、2人の間に重い沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは、険しい表情を浮かべたミアであった。
「お兄様・・・本気で、お父様の後を、継ぐ気なの・・・?」
「もはや、それしか道はないのでな。・・・だが、私は父上の後こそ継ぐが、宰相という位にはこだわらぬ。大事なのは位ではなく、この家の未来だ。それさえ守れれば、兄上たちも褒めてくれよう」
「・・・そうかしら。宰相という位には、人を引きずり込む何かがあるって、そんな風に思えてきたの。・・・お兄様。お父様のように、その何かに引きずりこまれないで」
懇願するようなミアの言葉に、エレンは小さくうなずいて応えた。
「ああ・・・分かっている。私は・・・父上と同じ轍は踏まぬ」
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