不忠の男(3)
城でも、ランスを討つための戦の準備が、着々と進んでいる。
「宰相殿。今度の戦は、俺に任せてくれ」
エレンの舅でもある将軍のルシウスが、今回の戦で総大将になることを願い出た。
「お前さんは、あいつと戦うのは本意じゃないだろ?それにランスは、俺以外の最後の五将軍だ。かつての仲間として、あいつの最期を飾ってやりたい」
「・・・分かりました。舅殿・・・感謝いたします」
エレンが認めたことで、討伐軍の総大将はルシウスが務めることとなった。慌ただしく出陣準備が進む中、トールが大きくなった妻の腹を撫でた。
「父上は、無事帰ってくるからな。母上と共に、ここを守ってくれよ」
「旦那様・・・ご武運を、お祈りしております」
妻のニコルの言葉に、トールは強くうなずいた。エレンの妹婿であるウェイドも、所領のヤヌイで戦の準備を整えた。
「では・・・行ってくる、ミア」
「ウェイド・・・絶対、生きて帰ってきてね。絶対よ!」
目を潤ませて言った妻の体を、ウェイドは強く抱きしめた。こうして城に集まった討伐軍は、総勢8万ほどになった。
「舅殿。おそらく、私の腹心であったニール殿が、ノルドの地に逃れております。その者は、生かして捕えてくだされ」
「分かった。まあ、首を長くして待っててくれ」
余裕のある口調でエレンに言葉を返すと、ルシウスは兵たちのもとに向かい、馬にまたがって剣を掲げた。
「いざ!出陣ぞ!!」
「おお!!」
ルシウスの号令一下、討伐軍は城を出立した。一方の反乱軍もエルドラ城を目指し、猛然と進軍を続ける。
やがて両軍は、ノルドから数十キロ離れた距離にある、ランゴという高原で対峙することとなった。布陣を終え、両軍が対峙するなか、ルシウスが味方の諸将に告げた。
「戦の前に、ランスと最後に話をしたい。・・・少しだけ、時間をくれ」
「父上、それは危険では?」
トールは父を制止しようとしたが、ウェイドはルシウスの言葉にうなずいた。
「分かりました。ルシウス殿、お気をつけて」
「うむ。では、行ってくる」
ルシウスはわずかな護衛と共に、ランスの陣に向かって馬を進ませた。トールは割り切れない表情で、ウェイドに思わず声を上げた。
「ウェイド殿・・・なぜ行かせた?」
「ランス様は、まじめなお方です。おそらく、話をしたいというルシウス殿に、危害を加えることはないでしょう」
ウェイドの読み通り、ランスはルシウスとの対話に応じる姿勢を見せた。彼も数人の護衛を連れ、馬に乗ってルシウスの前に進み出た。
「ランス!お前さんともあろう者が、こんなことをするとはな」
ルシウスの言葉に、ランスは酢を飲んだような表情を浮かべた。
「私とて、本意ではございませぬ。なれど・・・陛下の余りに無茶なご命令、これを受け入れることはどうしてもできませんでした。ゆえに・・・反乱の兵を起こしました。私は・・・不忠者でございます」
「それだけか?お前さんの義理の兄のニール・・・ノルドの城にいるんだろ?」
その問いかけに、ランスは素直に驚いたような表情を浮かべた。それを見て、ルシウスが確信したように声を上げる。
「図星か・・・さては、お前さんを焚きつけたのもニールだろ?」
「なぜ・・・なぜそれをご存じで?」
「ふっ。お前さん、本当にまじめだな。そこはどんなに苦しくても、否定したりごまかすところだぞ?」
ルシウスの言葉に、ランスは苦笑いしながら応えた。
「はは・・・それもそうですな・・・・・・宰相殿は、もうそのことにお気づきで?」
「ああ。宰相殿から言われてるんだ。もしニールがノルドにいるなら、生かしたまま連れてこいと」
「そうですか・・・ならばなおさら、負けるわけにはまいりませんな。ニール殿は、我が妻の兄上。私が負けることで、ニール殿に危害が及ぶようなことは、あってはなりませぬゆえ」
改めて決意を固めたランスに、ルシウスは最後にもう一度だけ問いかけた。
「どうあっても、兵は引かぬか」
「それは・・・無理な相談でございます。私はもはや、この国を裏切りました。不忠者は不忠者らしく、戦って最期を迎えたいと存じます」
「・・・そうか。分かった。なら俺も、これ以上言うことはない」
ランスの決意を正面から受け止めると、ルシウスは鋭い目をランスに向けた。
「では・・・望みどおりにしてやる。それが俺の・・・せめてもの手向けだ」
「お気持ち・・・ありがたく受け取ります。堂々と・・・戦いましょうぞ」
ランスの言葉に笑みを浮かべると、ルシウスは馬の向きを変え、本陣へと戻った。一方のランスも微笑を浮かべながら、ルシウスの背中を見送った。
「父上!よくご無事で・・・!」
ルシウスが本陣に戻るなり、トールが安堵の表情で出迎えてきた。ルシウスは馬から降りると、複雑な表情を浮かべてトールに告げた。
「ランスは・・・相変わらず馬鹿がつくほどまじめな男だ。そんな奴を討たなきゃならん状況を作った奴らを、俺は死ぬまで恨み続けるぞ」
「父上・・・」
「トール。お前に任せたい仕事がある」
そう言うと、ルシウスは息子の肩に手を置いて続けた。
「この戦の結果を左右する、重大な仕事だ。見事成し遂げて、俺の後継ぎにふさわしいと証明してみせろ」
父の言葉に、トールは覚悟を固めて大きくうなずいた。
「はい!父上!!」
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