不忠の男(2)
ランスが城下を去ったことは、すぐにダンからエレンたちに報告された。
「何!?ランス殿が!?」
「ああ。それも、屋敷には誰の姿もない。ランス殿の家族も、護衛の兵も、全て屋敷から出て行ったらしい」
ダンの言葉に、エレンはカールと顔を見合わせた。
「もしかしたら、ニール殿はランス殿の屋敷に逃げ込んでいたのかもしれません。あの2人は義理の兄弟、その縁を頼って助けを求めたとしたら・・・」
「ニール殿も、ランス殿と共に城下を去った・・・と?」
エレンの言葉に、カールは苦々しそうにうなずいた。
「その可能性は、高いと言わざるを得ませんな」
「エレン、どうする?」
ダンの問いかけに、エレンは表情を引き締めて答えた。
「まずは、陛下にこのことを知らせる。その上で、今後の対応を練りたい」
エレンは早速、レオナルドのもとを訪ねた。レオナルドは、新しい王妃であるモニカと談笑中だったが、エレンが来たと知るとすぐモニカを下がらせ、エレンと2人きりになった。
「陛下・・・一大事でございます。ランス・カロット殿が、一族や兵士たちを連れ、城下から去った模様!!」
「何?ランスが?」
「はっ。そしてもう1つ・・・文官のニール・フリント殿に、国の金を横領した疑いがかかっております。ニール殿の一族は捕らえましたが、ニール殿本人は行方をくらませております。おそらく、義理の弟であるランス殿のもとに逃げ込み、共に城下を去ったものかと・・・」
エレンの言葉に、レオナルドは小さくため息をついた。
「・・・そうか。ランスめ、そこまでしおったか・・・」
「・・・陛下。ランス殿の行動に、何か、思い当たる節があるのでございますか?」
エレンがそう尋ねると、レオナルドは表情を歪めて答えた。
「そなたも知っておろう?あの者の領地であるノルドに、新たな金山が見つかったことを」
「それは・・・存じておりますが・・・」
「その金山を、わしはどうしても欲しいのじゃ。ゆえに、所領を譲ってくれと、あやつに頼んだのであるが・・・」
レオナルドの言葉に、エレンは頭を殴られたような衝撃を覚えた。
「そのような・・・そのようなことを仰ったのですか!?」
「ああ。だが、それの何がおかしい?わしはこの国の王じゃ。どこを欲しがり、我がものにしようと、文句を言われる筋合いなどない」
「それは・・・なれど所領とは、それを与えられた者にとっては命も同然でございます!それをいきなり差し出せと言われ、素直にはいと言う者がおりましょうか!?」
エレンの言葉に、レオナルドは怒ったような表情を浮かべた。
「所領とは治める者のものではない、国のものじゃ!ならばそれを返せと言われたら、素直に返すのが臣下の務めではないか?しかもわしはあの者に、代わりとして王領の土地を譲るとまで言ったのじゃ!なのにあやつは金が惜しいばかりに、それを断りおったのじゃ!!」
「金などなくとも、断られていたでありましょう!!陛下には、所領を持つ者の苦しみが、お分かりにならないのですか!?」
「ならばそなたには分かるというのか!?そなたとて、宰相の職に就いている以上、所領は持っていないであろうが!?」
もはや、どこまで行っても平行線だ、とエレンは思った。きっとレオナルドもそう思っているだろうと、彼は心の中で確信した。
「宰相よ・・・わしはただ、アレックスの未来を守りたいのじゃ。そのためには、少しでも力が欲しい。新たな金山は、その力の源になる。だからこそ、国の直轄にしたいと、そう思っただけなのじゃ」
「陛下のお気持ちは・・・痛いほどわかりまする・・・・・・なれど・・・此度のことは、あまりにも乱暴でございましょう。ランス殿が城下を去った理由・・・はっきりと、分かりました」
エレンはそう口にすると、鋭い目でレオナルドを見据えて言った。
「いずれ・・・戦が起こりましょう。なれどその戦は、ランス殿が起こしたものにあらず・・・・・・陛下が起こしたものにございます!!」
エレンは深く頭を下げると、レオナルドのもとを後にした。部屋を出たエレンに、壁にもたれかかっていたルシウスが声をかける。
「ずいぶんと、陛下と揉めたようだな・・・あそこまで意見を戦わせたのは、初めてのことじゃないか?」
「ええ・・・此度ばかりは、陛下に賛同できませぬ。とはいえ・・・・・・ランス殿を、お救いすることもできませぬ」
エレンは一瞬悲しそうに目を伏せたが、すぐに覚悟を決めた目をルシウスに向けた。
「舅殿・・・戦の支度を、しておいてくだされ」
「分かった。他の将軍には、俺から声をかける。しかし・・・胸糞が悪い戦になりそうだ」
吐き捨てるようにそう言うと、ルシウスは去って行った。エレンは硬い表情のまま、執務室へと戻り始めた。
それから、およそ2週間後。ノルドに戻ったランスは、1万5千の兵と共に反乱を起こした。
「暴君レオナルドの理不尽な命に、断じて屈することはできぬ。我らは暴君を討ち果たし、この国に安寧をもたらさん」
それがランスの、そして反乱軍の大義名分となった。集まった将兵を城のバルコニーから眺めながら、ニールがランスに声をかけた。
「いよいよだな、ランス殿」
「はい・・・厳しい戦になりましょうが、私は最後まで、私の道を貫きまする」
ランスは剣を引き抜くと、それを天に掲げて号令した。
「行くぞ!目指すはエルドラ城だ!!」
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