城への帰還(3)
エレンがカルドを出立するまでの間に、彼について行くと決めた者たちは、それぞれの大切な人に別れを告げることとなった。
「本当に大丈夫なんか!?あんたは昔っからそそっかしくておっちょこちょいで!そんなんでお城の兵隊になれると本気で思っとるんか!?」
息子が城で兵士になると告げた瞬間、カイルの母親は血相を変えて引き留めようとした。
「大丈夫だ母ちゃん!俺は必ず戦で手柄を上げて、将軍になってこの村に戻ってくる!そうすれば母ちゃんも父ちゃんも、お城でぜいたくな暮らしができるんだ!」
「その前にあんたが死んだら元も子もないじゃないか!・・・お前さんも何とか言ってやってよ!この子に兵隊なんて無理に決まっとる!」
カイルの母親は夫に泣きついたが、彼は覚悟を決めた目で息子を見据えた。
「カイル・・・お前本気じゃな?」
「お・・・おお!本気じゃ!」
「絶対に・・・将軍になって戻ってくるんじゃな!?」
「おお!絶対に、手柄上げて将軍に成り上がって戻ってくるわ!!」
「よし!!ならわしは何も言わん!!」
「お前さん!!」
・・・とまあ、こんな一幕があるかと思えば。時を同じくして、エミルは唯一の肉親である父親に、城で働きたい旨を告げていた。
「なれるかどうかは分かりませんが、お城で政を学んでみたいのです。・・・父上、僕の最後のわがままです。どうか・・・お許しください」
深々と頭を下げたエミルの嘆願に、父親はしばらくの沈黙の後に応えた。
「学ぶことは・・・こことは桁違いだぞ」
「はい・・・分かっております」
「今までは、好きなことを学べた。お城ではそうはいかん」
「はい・・・嫌なことも、たくさん学びましょう・・・・・・それでも・・・それでも僕は、ここでは学べないことを、この目で見て、この耳で聞いて、この頭に納めとうございます!」
その言葉に、父親は小さな笑みを浮かべて応えた。
「ならば・・・わしはもう止めん。好きなだけ・・・やってみろ・・・!」
「・・・!はい・・・ありがとうございます、父上!!」
・・・とまあ、こんな一幕もあったり。そして、妹以外の身内がいないダンは、マミヤのもとを訪ねていた。
「そう・・・あなたとカレンは、お城に行くのね」
傘づくりの内職をしながら、マミヤがダンに言葉をかけた。
「は、はい・・・・・・その・・・カレンの言葉にほだされた、といいますか・・・・・・いや!エレンのことを、放っておけなくなったといいますか・・・・・・」
いつになく、ダンの口調はしどろもどろだった。彼についてきてくれと頼まれたエレンが、同じくついてきたカレンに思わず尋ねる。
「一体どうしたんだ?いつものダンらしくないが・・・」
「・・・なんとなく、察しがつかない?」
「・・・いや。全く何も分からぬ・・・」
顔を真っ赤にしながら、言わずともよい言葉をぺらぺらと喋り続けるダンの姿に、エレンは文字通り首をかしげた。
「はあ・・・好きなのよ、マミヤさんのこと。兄さんにとって、マミヤさんは初恋の人なの」
「え!?そ、そうだったのか!?いたっ!!」
思わず大声を上げたエレンの頭を、カレンが容赦なく平手で叩いた。エレンの悲鳴で一瞬場の空気が凍ったが、ダンはすぐにマミヤの方へ向き直った。
「マミヤさん・・・俺は・・・俺はもう二度と、この村には帰ってこないかもしれません。だから・・・だからその前に一度、マミヤさんの顔を・・・見ておきたかった・・・!」
声を震わせて言ったダンの目から、一筋の涙が伝った。彼はこみ上げてくる感情を抑えきれず、声を上げて泣き始めた。
「マミヤさん!今日だけ・・・今だけはこの言葉を許してください!!・・・なぜあなたは・・・他の人の妻になってしまったのか・・・!なぜ・・・新しい恋を始めようとしないのか・・・!」
「・・・無茶苦茶だな、言ってることが・・・」
ダンの様子に本気で引きながら、エレンがカレンに言葉をかけた。
「兄さんも、本当は分かってるのよ。・・・マミヤさんの心は、亡くなった旦那さんにしか向いていないって。もう会えないかもしれないから、ここで全部ぶちまけてるの」
「はあ・・・そういうものか・・・」
「・・・あんた、いつか誰かに刺されるわよ」
そんな2人の目の前で、ダンはうずくまりながら大声で泣き続けた。するとそんな彼の気持ちが届いたのか、マミヤがダンの頭を優しくなでた。
「ごめんなさいね・・・・・・私には、永遠の愛を誓った人がいるの。だから・・・あなたの気持ちに応えたら、その人を裏切ることになってしまうわ」
「うう・・・分かっています・・・!分かっては・・・いるのですが・・・!」
涙に濡れた顔を上げたダンの頬に、マミヤは微笑みながらそっと触れた。
「その気持ちだけは、確かに受け取りました。・・・これならば、あの人も見逃してくれるでしょう」
「うう・・・!マミヤさん・・・!」
「ダン。お城勤めは、きっと大変なものになります。でも忘れないで。あなたには、帰ってくる場所があるということを。・・・嫌になったら、いつでも帰ってきなさい。愚痴を聞くことぐらいは、私にもできますから」
「マミヤさん・・・マミヤさあああああああん!!」
ダンの目から再び、大粒の涙がこぼれ始めた。マミヤは慈しむような笑みを浮かべながら、その頭を優しくなでるのだった。
――そして、出立の朝。エレンとその仲間たちを見送るために、多くの村人が駆けつけてきた。
「カイル、戦で手柄を立てるのもいいが、大事なのは生きることだ。まずは・・・生き残れ」
デインの言葉に、カイルは大きくうなずいた。
「おおよ!死んだら、何もかも台無しだからな!!」
デインが満足そうに笑みを浮かべながらうなずくと、今度はマミヤが一同に声をかけた。
「みんな、エレンをよろしくね。あなたたち一人ひとりの力が、きっとエレンの大きな助けになるはずだから」
「はい・・・必ず、エレンさんの力になってみせます」
「俺も!俺もエレンの力になります!マミヤさん、どうか見守っててください!!」
エミルとダンの言葉に、マミヤが目元に涙を浮かべながらうなずいた。最後に村長であるジョセフが、エレンたちに言葉をかける。
「みんな・・・お城でも、精一杯頑張るんだぞ。・・・俺は、お前たち5人のことを、この村の誇りに思ってるからな・・・!」
「はい・・・!ありがとうございます、村長様!」
カレンの言葉に、ジョセフが力強くうなずいた。護衛の兵士がエレンにうなずきかけると、彼は強い決意と共にジョセフや村人たちの顔を見回した。
「それでは・・・行ってまいります!」
エレンの言葉を合図に、ついに一行はカルドを出立した。志と共に去っていく若者たちの姿を、ジョセフを始めとした村人たちは、最後まで笑顔で見送るのだった。
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