↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/125

穏やかな日々(5)

突如として倒れたジェシカは、すぐに城付きの医師の診察を受けることとなった。


「おそらく、頭の中の出血でございましょう。恐れながら、助かる見込みはほぼありませぬ」


医師の言葉に、レオナルドの表情は暗くなった。


「そうか・・・・・・わしは・・・またしても妻を失うのか・・・・・・」

「ちちうえ・・・・・・」


落胆の表情を浮かべるレオナルドに、アレックスがか細く声をかけた。その背中を、マミヤがそっと抱きしめて言った。


「アレックス様、お母上はきっと・・・きっと目を覚まされます。さあ・・・こちらへ」


今は、レオナルドとジェシカを2人きりにした方がいい。そう判断すると、マミヤはアレックスを連れ、部屋を後にした。



「え!?王妃様が!?」


その日の夜。帰宅したエレンはカレンとさらに、ジェシカが倒れたことを告げた。


「ああ。医師の話によると、助かる見込みはほぼないとか・・・」

「そんな・・・アレックス様、まだ・・・4歳なのに・・・・・・」

「・・・可哀想」


突如として母が倒れたアレックスに、カレンもサラも同情した。


「もちろん、まだ助からないと決まったわけではない。しかし・・・その可能性は、低いだろうな」

「そうなったら・・・マミヤさん、どうなるの?」


カレンの問いかけに、エレンはこれまでの慣例を踏まえて言った。


「王妃様が亡くなられたとしても、アレックス様の乳母であるマミヤ殿は、引き続きアレックス様をお育てすることになろう。乳母の役目は、王妃様が亡くなったとて終わりはせぬ」

「そう・・・なら、せめてもの救いね。マミヤさん、アレックス様をお育てすることに、並々ならぬ力を注いでるみたいだし・・・」

「ああ。まるで、実のお子のように、アレックス様に接しておられる。前のご主人との間に、子供が生まれなかったというのもあるのだろうな」

「じゃあ・・・もし王妃様が亡くなったら、マミヤさんが、王子様のお母さんになるの?」


どこか子供のような表情で問いかけたサラに、エレンは小さく首を横に振って答えた。


「そういうわけでないが、立場としては近いものになる。王妃様が亡くなれば、文字通りの母親代わりとして、アレックス様に接することとなろう」


そうエレンが口にすると、カレンがマミヤを案じるように言った。


「マミヤさん、頑張りすぎて、無理をしなきゃいいけど・・・・・・あの人は芯が強いから、かえって心配になるのよね・・・・・・」


それは、エレンも同感であった。マミヤに片思いしているダンは、もっと彼女のことが心配であろう。


(この先・・・王妃様が身罷ったとしても、何も起きなければよいのだが・・・・・・)



ジェシカが倒れて、数日後。この日、城勤めが休みのエレンのもとを、ある人物が訪ねてきた。


「こんにちは、皆さん。新年おめでとう・・・とは、少し言いづらい雰囲気だけど」

「マリア義姉上!それに・・・リーフも!!」

「はい!おひさしゅうございます、おじうえ!!」


ルーカスの副官であったダリオ・モンティのもとに嫁いだ義姉のマリアが、今年6歳になる息子のリーフを連れ、アルフォード家に久々に顔を見せた。


「リサの顔を見たくなってね。・・・あら、リサ!こんにちは」

「はい!こんにちは!!」


今年4歳になるリサが、全く物怖じせずマリアに挨拶した。彼女は程なくリーフと遊び始め、エレンはカレン、そしてサラと共に、マリアと同じテーブルを囲んだ。


「王妃様の件、夫から聞きました。大分・・・お悪いようですね」


深刻な表情で言ったマリアに、エレンは小さくうなずいた。


「ええ・・・医師の話では、あと何日持つか分からぬと・・・」

「まあ・・・アレックス様も、お気の毒に・・・」

「まったくもって、その通りでございます。なれど、義姉上もご存じの通り、私の同郷の者が乳母を務めております。その者がいれば、きっとアレックス様は、立派にお育ちになりましょう」

「あなたが言うのなら、そうなのでしょうね。・・・けれど、親がいない子供の気持ちは、想像するだけで辛くなります。私もリーフに、辛い思いをさせてしまったから・・・」


無邪気な笑みを浮かべてリサと遊ぶリーフを見ながら、マリアは物憂げな表情で言った。どこか重い空気が流れる中、カレンが思い切ってマリアに尋ねてみた。


「マリア様、ダリオ様との暮らしはどうですか?」

「ええ!あの人ったら、私とリーフにずいぶん気を遣うのよ。きっと、ルーカスへの負い目が少なからずあるのね。そんなことを気にする人じゃないって、何度も言っているんだけど」

「それだけ、ダリオ殿が誠実なお方ということでございましょう。義姉上、よきお方と巡り会えましたな」

「ええ、本当に。あなたが背中を押してくれたおかげです、エレン殿」


マリアが明るい茶色の瞳で、エレンの目を見つめて言った。その一方で、サラはリサとリーフが遊ぶ姿を、微笑みながら見つめている。


「あの子の目・・・綺麗・・・」

「ありがとう、サラさん。リーフという名前は、あの緑の目からつけたのですよ」


それからしばらくして、マリアはリーフと共に去っていった。エレンが久方ぶりにかつての家族との時間を楽しんだ一方で、城ではとうとう、大きな別れの時が訪れようとしていた。

ご覧いただきありがとうございます。

評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。