穏やかな日々(2)
里帰りを思い立ってから、数日後。エレンはレオナルドの許可を得ると、家族と共にカルドに帰郷することにした。
「久々のカルドだな・・・村長たち、元気にしてるかな?」
エミルと共にエレンについてきたダンが、エレンに馬を寄せて声を上げた。
「おそらくは、今もご壮健だろう。昔から、病気とは無縁のお方だからな」
「しかし、マミヤさんが一緒じゃないのは、少し残念ですね・・・」
エミルの言葉に、ダンが悲しそうに表情を歪めた。
「ああ、まったくだ・・・!ほんの数日くらい、マミヤさんも休めばいいのに・・・!」
「責任感が強いのよ、マミヤさんは。兄さんだって、それは承知でしょ?」
「分かっている・・・!分かっては・・・いるのだが・・・!」
今回里帰りするにあたって、エレンはマミヤにも誘いの声をかけた。しかしマミヤは乳母として、アレックスの側を離れるわけにはいかないと、その誘いを断ったのだった。
「エレン・・・カルドって、どんな所?」
初めてカルドに赴くことになるサラが、少し緊張したように夫に問いかけた。
「心が安らぐ、落ち着いた場所だ。サラもリサも、きっと気に入ると思う」
「うん・・・楽しみね、リサ」
「うん!リサ、はやくカルドにいきたーい!!」
一行がカルドに到着したのは、その日の夕刻のことであった。事前に使者を出して来訪を告げていたためか、村長のジョセフを始めとした村人たちが、こぞってエレンたちを出迎えた。
「よく戻ってきたな、みんな」
「はい。久しぶりに、故郷の雰囲気に浸りたくなりました。妻と娘にも、ここを紹介したいと思いまして」
馬から降りたエレンが、サラとリサをジョセフに紹介した。
「側室のサラと、娘のリサです。・・・2人とも。こちらが村長のジョセフ殿だ」
「サラ・アルフォードです。よろしくお願いします」
「リサ・アルフォードです!!」
元気に自己紹介したリサの姿に、ジョセフが微笑みながら言った。
「おお、エレンもついに父親か。・・・あっ、宰相殿、って呼んだ方がいいか?」
「いえ、昔のエレンのままでお願いします。ここにいる時くらいは、宰相ではなく、エレン・アルフォードとして過ごしたいですから」
「分かった。ダン、カレン、お前らの家を掃除しといた。そこを宿として使ってくれ」
「ありがとうございます、村長!」
ジョセフの気づかいに、ダンはカレンと共に深く頭を下げて礼を言った。その日は久しぶりに村に戻ってきたエレンたちのために、村人のほとんどが参加する宴が開かれた。
「思えば、デインとカイルの墓参り以来だな・・・あれからもう、4年になるか」
エレンと酒を酌み交わしながら、ジョセフが遠い目をしながら言った。
「ええ・・・この村も、4年の間に復興が進みましたな」
「ああ、みんなで頑張ったんだ。デインとカイルも、向こうで喜んでくれてりゃいいが」
と、その時。2人の壮年の男女が、酒を持ってエレンに声をかけてきた。
「宰相様、ぜひ私たちのお酒も」
「あなたがたは・・・カイルの・・・!」
酒を持ってきたのは、カイルの両親だった。妻と共にエレンの言葉にうなずくと、カイルの父が酒を差し出した。
「ささ、宰相様・・・」
「おやめください。ここでは、私はエレンのままです。・・・カイルのこと、本当に、申し訳なく思っています」
「そんな・・・やめてください、宰相様!」
頭を深く下げたエレンに、カイルの母親が慌てたように言葉をかけた。
「あんな馬鹿息子でも、国の役に立って死ねたんです。宰相様のおかげで、今やあの子は国の英雄。きっと、あの世で喜んでることでしょう」
「あいつは、わしらの誇りです。将軍になるっていう夢は叶わなかったかもしれないが、国の英雄として名を残せた。あいつも、本望でございましょう」
夫婦の目は、涙でぬれていた。それでも2人は自分を責めず、息子のことを誇りに思っている。エレンは複雑な気持ちになりながらも、カイルの父が注いだ酒を一気に飲み干した。
「まあ、可愛い子だねぇ!どれ、おばちゃんが抱っこしてあげようかねえ」
「うん!!わー!!たかーい!!」
初めてきた場所にもかかわらず、リサはすっかりカルドになじんでいた。そんな娘を微笑みながら、サラは料理に舌鼓を打った。
「いい場所でしょう?ここだけは何も変わらない・・・・・・まるで、時間が止まったみたい」
サラの隣に腰かけると、カレンが穏やかな表情で言った。
「うん・・・ここに来て、よかった・・・」
「そうでしょ?ここでの暮らしは・・・確かに大変なこともあったけど、それでも、とても楽しかった。ここを出ると決めたことを後悔するわけじゃないけど・・・・・・やっぱり、私や兄さん、それにエレンとエミルの魂は、本当はここにあるのよね」
「カレンさん・・・」
と、その時であった。ダンがエミルと共に、カレンたちのもとに駆け寄ってきた。
「おーい、2人とも!祭の舞をやるそうだ!!」
「え?でも・・・今日は祭の時期じゃないでしょ?」
「エレンさんや僕たちが帰ってきた祝いに、特別にやってくれるそうです!お2人も、ぜひこちらに!!」
エレンたちの帰郷を祝い、特別に行われることになった祭りの舞。腕自慢の村人たちが楽器を演奏し、その曲に身を預けて村人たちが、思い思いに踊り出す。
「久しぶりだ・・・!まさかこれを、生きている間にまた見られるとは!」
楽しそうに踊る村人たちの姿に、エレンが思わず歓喜の声を上げた。
「お前たちが帰ってきてくれた、その心ばかりの礼だ。さ、お前も踊ってくるといい。今日は宰相殿じゃなく、エレン・アルフォードなんだろ?」
「はい!カレン、こっちだ!!」
「えっ、私も!?・・・もう、仕方ないわね!!」
エレンはカレンの手を取りながら、村人たちの踊りの輪に加わった。ダンとエミルもその後に続き、サラもぎこちない動きながらも、村人と共に踊り始めた。
城の生活では、決して得ることのできない幸せ。エレンたちはそれを全身で感じながら、声を上げて踊り続けるのだった。
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