死の遊戯(6)
ここまでが、物語全体の第18章、そして、『第2部』の最後になります
「恐ろしいことじゃ・・・よもやサイラスが、そなたの暗殺を企もうなどとはな・・・」
サイラスの一族を処刑し、その所領をことごとく没収してから、数日が経った頃。エレンと共にサイコロで遊びながら、レオナルドはエレンに謝罪した。
「すまぬ・・・あれの近くにおりながら、その叛意に気づかなかった。王として、恥ずかしい限りじゃ」
「いえ・・・それだけ、サイラス殿が本心を隠すのが、巧かったということでございましょう」
エレンが振ったサイコロは、レオナルドよりも小さな目が出た。サイコロを再び手に取りながら、エレンはレオナルドにあることを願い出た。
「陛下・・・実は、お許しいただきたいことがございます。サイラス殿の所領であったヤヌイの地、どうか・・・我が妹婿、ウェイド・レスト殿に、お譲りいただけないでしょうか?」
「ウェイド・・・?おお、あの時の衛兵か」
「左様。ウェイド殿がいなければ、私も妻も、間違いなく死んでいました。その礼として、ウェイド殿を衛兵から将軍に格上げさせたいのです。そしてその所領として、治める者がいなくなったヤヌイを与えたいと、思っております」
「ふむ・・・よかろう。ウェイドなる者、それに値する働きをした。貴族の中には、そなたが身内を贔屓してると見る者もおろうが、わしはあの者の活躍を高く評価しておる。妹婿に、早速この話をしてやるとよい」
レオナルドが微笑みながらそう言うと、エレンは喜びながら頭を深く下げた。
「はっ!かたじけのうございます、陛下!!」
「わ・・・私が、ヤヌイの領主に!?」
数分後。エレンはウェイドとミアの家を訪ねると、早速2人にウェイドの昇格、そしてヤヌイを与える旨をげた。
「ええ。陛下も、お認めくださいました」
「それって・・・すごいじゃない、ウェイド!大出世よ!!」
素直に喜ぶミアとは対照的に、ウェイドは困惑したように大声を上げた。
「いや、お受けできませぬ!!私は、衛兵の仕事が性に合っております!その私が、所領を持つ将軍になるなど・・・!」
「ウェイド殿は、私とカレンの命を救ってくれました。これは、そのささやかな礼でございます。それに・・・ウェイド殿が将軍になることは、私にとっても得な話なのです。どうか・・・私を助けると思って、この話、受け入れてくだされ」
エレンが深々と頭を下げると、ウェイドはミアと視線を交わしてから口を開いた。
「義兄上がそこまで仰るなら・・・・・・分かりました!そのお話、謹んでお受けいたします!!」
「ありがとう、お兄様!!」
こうして、ウェイドは将軍、及びヤヌイの領主への就任を受け入れた。数日後、彼とミアはヤヌイに向かう前に、アルフォードの屋敷に立ち寄った。
「カレンお姉ちゃん・・・サラお義姉様・・・お兄様のこと、これからもよろしくね!」
「ええ・・・あなたも頑張ってね、ミア・・・!」
別れを惜しむように、ミアとカレンは強く抱き合った。こうしてウェイドとミアはヤヌイに赴き、かつてサイラスが主であった城に入った。
「すごい・・・これ、夢じゃないわよね・・・?」
「ああ、現実だ。私は・・・本当に城持ちの領主になったのだ!」
喜びの声を上げながら、ウェイドはミアの体を強く抱きしめた。ミアも夫の体を抱き返すと、城のバルコニーに視線を向けて言った。
「ねえウェイド、このバルコニー、私たちの花でいっぱいにしましょう」
「ああ。この城も、この地も、花がいっぱいに咲きほこれる、美しい場所にしよう!!」
「素敵・・・!私も手伝うわ、ウェイド!!」
「此度は・・・助かったぞ、バナージ」
その夜。レオナルドはバナージと2人きりになると、彼に感謝の言葉を述べた。
「いいえ・・・陛下のお役に立てたなら、光栄でございます。しかし陛下もお人が悪い・・・暗殺の成否にかかわらず、最初からサイラス殿を捨てるおつもりだったとは・・・」
バナージの言葉に、レオナルドが悪びれもせず笑みを浮かべた。
「あれも、父が生きていたころは、なかなか面白い男であった。しかしここ最近は、ただわしの側にいるだけになってしまっての。まるで置物のようだったわ」
レオナルドの言葉に、バナージが声を上げて笑った。
「置物・・・それは言い得て妙でございますな。使う用が無くなった物をいつまでも置いておく・・・これ以上の無駄はありませぬ」
「そなたもそう思うか?ゆえに、そなたに声をかけたのじゃ。そして、そなたはわしの期待に応えてくれた・・・使える男と認めようぞ、バナージ」
「恐縮でございます。・・・では、私の力が入用な時は、いつでもお呼びくださいませ」
「うむ。今後も期待しておるぞ、バナージ」
バナージは小さく頭を下げると、レオナルドのもとを去っていった。レオナルドは手の中のサイコロをいじりながら、かつてのエレンとの会話を思い出した。
――ゲームというのは、勝ってばかりではつまらぬゆえな。勝つ時もあれば、負ける時もある。これこそが、勝負の醍醐味じゃ――
――私も、そのように思います。勝つばかりの勝負など、あまり面白くありませぬ。人生に良いことも悪いこともあるように、勝負事にも、勝つ時と負ける時がございます。だからこそ、ゲームというものは面白い――
「エレン・・・此度はそなたの勝ちじゃ。しかし・・・次もそなたが勝つとは限らぬ。そなたとの遊びは・・・まこと・・・面白いのぉ・・・・・・!」
一方。エレンはカレンの部屋の窓から、丸い月をじっと見つめていた。
(本当に、サイラス殿が黒幕だったのか・・・・・・あるいは・・・サイラス殿すら、駒の1つにすぎなかったのだとしたら・・・・・・)
その時、エレンの脳裏に、ある疑念がよぎった。
(よもや・・・まことの・・・黒幕は・・・・・・!)
しかし、エレンはその先を考えないことにした。いくらなんでも、不敬である。この国の主を疑うことなど、宰相としてあってはならない。
(そうだ・・・いくらなんでも、陛下がそのようなことをなさるはずが・・・)
――陛下の場合、成功しても失敗しても、どちらでも構わぬというお考えなのではないか?その結果振り回されるのは、俺たちのような下々の人間だ――
エレンの頭に、ある言葉が蘇った。それは、レオナルドの側仕えを始めたばかりの頃、ダンからかけられた言葉であった。
(もし・・・そうならば・・・・・・陛下はまだ・・・遊ぶおつもりであろうか・・・・・・?)
美しくも淡い月の光が、エレンの顔を静かに照らす。彼の胸に、決して消すことのできない疑念が、楔のように打ち込まれた。
ご覧いただきありがとうございます。
ここまでご覧いただいた皆様には、心から感謝申し上げます。
次回から始まる『第3部』も、ぜひご覧いただければ幸いです




