死の遊戯(5)
ウェイドに助けられてから、数十分後。エレンとカレンはウェイドたちに守られ、陣所への帰還を果たした。
「宰相!無事で何よりじゃ、ここで皆と共に心配しておった!!」
エレンの顔を見るなり、レオナルドは喜色満面といった表情で駆け寄ってきた。エレンは小さく頭を下げつつ、精いっぱいの笑みを浮かべて応えた。
「義弟を始めとする衛兵たちが、間一髪のところで助けてくれました。陛下・・・王妃様・・・ご心配をおかけし、申し訳ございませぬ・・・!」
「いいえ、あなたが無事で、心から安堵いたしました。アレックス、宰相殿が戻られましたよ」
ジェシカがアレックスに声をかけると、マミヤがその顔をエレンの方に向けた。アレックスは未だにおびえたような表情を浮かべ、エレンをじっと見つめている。
「一体、その曲者とやらは何者だったのじゃ?アレックスの誕生日を祝う狩りに、このようなことをしおって・・・!」
「本人たちの話では、ギル・スティークとザメク・ルアの遺臣だと・・・・・・もっとも、彼らは皆、すでにこの世におりませぬゆえ、それが本当かどうかは分かりませんが・・・」
「スティークとルアの遺臣か・・・・・・なるほど。あり得ぬ話ではないな」
サイラスが険しい顔で、エレンの言葉に応えるように言った。彼は内心、策が失敗に終わったことに悔しさと憤りを感じていたが、同時に刺客が全員死んだことに満足もしていた。
「とにかく、狩りは中止じゃ。急ぎ城に戻り、このこと、皆でよく話し合わねばならぬ。・・・ベイル」
「はっ」
サイラスと同じくレオナルドの側近であるベイルが、王の呼びかけにかしこまったように頭を下げた。
「そなた、一足先に城に戻れ。残っている文官たちに、緊急会議を開くと告げるのじゃ」
「承知いたしました。では・・・」
こうして狩りは中止となり、一行は直ちに城に戻った。エレンが城に入るなり、側近の文官であるカールとディエゴ、そしてニールが、安堵したように駆け寄ってきた。
「宰相殿、仔細はベイル殿から聞きました。よくぞご無事で・・・!」
カールの言葉に、エレンは何とか笑みを浮かべて応えた。
「ええ・・・ウェイド殿に、救われました。とにかく、これから緊急会議です。おそらくは、この件の背後を探るものかと・・・」
「うむ。わしもそう思うぞ、宰相殿。この一件、単なる仇討ちなどではあるまい」
最年長の文官であるディエゴが、何かを感じ取っているかのように言った。
「しかし、だとしたら、誰が首謀者なのでしょう?まさか宰相殿を・・・それも、アレックス様の誕生日を祝う狩りの場で・・・」
ニールの言葉に小さくうなずくと、エレンは表情を引き締めて言った。
「いずれにせよ、事の真相を突き止めねばなりませぬ。お三方も、お力をお貸しくだされ」
「ええ・・・もちろんです」
エレンの言葉に、カールが毅然とした表情で応えた。それからほどなくして、レオナルドも出席の上で緊急会議が開かれた。
「皆も聞いての通り、狩りの場で、宰相が曲者に狙われた。宰相の話では、そやつらはギル・スティーク、およびザメク・ルアの遺臣を名乗ったというが、すでに曲者は全員この世におらず、それを確かめるすべはない」
レオナルドの言葉に、出席者たちの中からざわめきが起こった。彼らに鋭い視線を向けながら、レオナルドはよく通る声で言った。
「意見のある者は、率直に申すがよい。何か・・・この一件に裏を感じる者はおるか?」
その問いかけに、エレンの舅であるルシウスが真っ先に声を上げた。
「恐れながら、これは紛れもなく、宰相殿を邪魔と感じた者が仕組んだ、暗殺未遂でございます。ギルとザメクの遺臣などと言っておったそうですが、おそらくそれは、世の同情と納得を得るための芝居でございましょう」
ルシウスの言葉に、サイラスの表情が曇った。エレンの父・ネルソンの盟友であったこの男なら、もしかしたら見破るかもしれないと思ってはいた。だが、彼にはまだ余裕があった。刺客が全員死んでいる以上、もはや真相に辿り着けるはずもない。
「わたくしも、そのように考えております。陛下、ここは徹底的に詳細を調べ上げ、黒幕を探し出さねば」
カールもルシウスの言葉に同調し、強い口調でレオナルドに言った。レオナルドはそれにうなずきつつ、少し弱気な表情で言った。
「しかし・・・どうやって黒幕を探し出す?下手人はもう全員死んでおる。今更、その背後を確かめることなど・・・」
レオナルドの言葉に、サイラスが小さな笑みを浮かべた――その時であった。
「そういえば・・・狩りの数日前に、いささか怪しい者たちの姿を、城下で目にいたしました」
そう声を上げたのは、エレンに会うたびに嫌味を彼にぶつけている、若き文官のバナージであった。
「怪しい者?・・・バナージよ。詳しく話せ」
レオナルドが先を促すと、バナージは小さく頭を下げてから続けた。
「はっ。・・・あれは、狩りの3日ほど前でございました。城下にはいささか不似合いな雰囲気の者たちが、10人ばかりいたのです。その者たちは・・・サイラス殿、あなたの屋敷に入っていきました」
その言葉に、サイラスの顔から血の気が引いた。
「な・・・何を仰る!?」
「バナージ・・・それは本当か?」
レオナルドの問いかけに、バナージは得意げにうなずいて言った。
「間違いありませぬ。その怪しい者たちは、確かにサイラス殿の屋敷に入りました」
部屋の空気は、完全に凍り付いていた。体を小刻みに震わせるサイラスに、レオナルドが厳しい視線を向けて問い詰める。
「サイラスよ・・・よもや・・・よもやそなたが、宰相の暗殺を謀ったのか?」
「陛下・・・それは・・・」
「言い訳無用!!無実であるなら釈明してみせよ、サイラス!!」
――その瞬間、サイラスは嫌でも悟らされた。自分は見捨てられたのだ。エレンの暗殺に失敗した以上、自分はもはや、この若き王には不要になったのだ、と。
「・・・うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
サイラスは叫び声を上げて立ち上がると、懐に忍ばせていた短剣を抜き、レオナルドに向かって勢いよく駆けだした。出席者たちが驚いて立ち上がる中、彼はレオナルドに向けて短剣を突き出そうとした。しかし――
「うぐっ!!」
背後から突き出された1本の剣が、サイラスの腹を深く貫いた。その剣を手にしていたのは、偶然サイラスの近くに腰かけていた、ジェイク・ブレイであった。
「まさか・・・サイラス・・・殿が・・・」
倒れ伏したサイラスの遺骸を見ながら、エレンが消え入りそうな声で呟いた。――この後、サイラスの一族はことごとく処刑され、後の世に『サイラス・カーンの乱』と呼ばれることになる事件は、こうして幕を閉じることとなった。
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