死の遊戯(3)
そして、ついにアレックスの誕生日――すなわち、狩りの当日がやって来た。
「これより、狩りを開始いたす。獲物の数と大きさを競い、目覚ましい成果を挙げられた方には、陛下から感状が下される」
会場である森に集まった貴族や将軍たちに、今回の狩りを取り仕切るサイラスが言葉をかけた。参加者たちは皆、我こそはその感状を手にせんと、鼻息荒く気勢を上げている。
「では、存分に腕前を示されよ!!」
「おお!!」
こうして、いよいよ狩りが始まった。国王夫妻とアレックス、そして彼の乳母のマミヤは、この日のために臨時に建てられた陣所の小屋で、狩りの成果を待つことになっている。2時間という制限時間の中で、どれだけ多くの、そして大きな獲物を手にできるかが、感状を手に入れる分かれ目である。
「トール、何としても我がバルデッタ家が、陛下からの感状を手に入れる。小物には構うな、大物を狙え」
「はっ、父上!」
ルシウスとトールは感状を手に入れるべく、大きな獲物を捜し始める。その一方で、ルシウスと同じく五将軍の1人であるランスは、弓を使って早くも3羽目の鳥を射抜いた。
「よし・・・次だ!」
「おお、さすがはランス殿。私も、負けてはいられませんな」
ベルトからやってきた将軍のノリスも、弓を使って1頭の鹿を仕留めた。多くの者が獲物を手に入れる中、群を抜いて目覚ましい活躍を見せている、1人の中年男性がいる。
「あの猪・・・わしの獲物じゃ!!」
逃げる猪の急所を、その男性は弓で正確に射抜いた。男性は従者に獲物を運ばせていたが、すでに猪を2頭、鹿を1頭、鳥と兎を合わせて10羽ほど仕留めている。
「おお、さすがはゴードン殿のご子息。武勇の腕、お父上に負けておらぬようじゃ」
貴族の1人として狩りに参加しているバナージが、男性の腕前に思わず感嘆の声を上げた。その男性の名は、ジェイク・ブレイ。昨年死去した五将軍の筆頭、ゴードン・ブレイの長子であり、今は彼の後を継いで将軍として働いている。
そんな中、エレンはカレンとダン、そして10人ほどの供を連れ、森の奥深くに進んでいった。3人は弓を構えて獲物を捜したが、これといってめぼしい獣や鳥は見当たらない。
「まずいな・・・このままでは、他の者に先を越される」
「もう少し、人が踏み入らなそうな所に行ってみたらどうかしら」
獲物を捕らえられず焦るエレンに、カレンがそう提案した。
「うむ、それがいい。もう少し、奥まで行ってみよう」
ダンが賛同の声を上げ、一行はさらに守りの奥深くに進んでいった。うっそうと木々が生い茂るその場所からは、獣や鳥の気配があちこちから感じられた。
「よし・・・カレン、ダン、ここを狩場にしよう。あれだけ大口をたたいてしまったのだ、獲物なしでは陛下に合わせる顔がない」
「・・・それは自業自得でしょ。とにかく、まずは獲物を見つけないと」
カレンの言葉にうなずくと、ダンは周囲に意識を集中した。だが、その時――
(なんだ・・・?この・・・見られているような感じは・・・?)
まるで、周囲から複数の目を向けられているような、そんな感覚をダンは覚えた。彼は静かにエレンのもとに向かうと、その耳元にささやきかけた。
「エレン、気をつけろ。誰かに、見られているような気がする」
「見られている・・・?それは、獣の気配ではないのか?」
「いや、違う。この感覚は・・・人に見られている時のものだ。誰かが・・・こちらをじっと見ているような・・・」
と、その時であった。ひゅんと風を切る音が響いたと思うと、1本の矢が勢いよく飛んできた。
「ぐあっ!!」
その矢は、エレンたちの供をしていた兵士の心臓を深々と貫いた。兵士が力なく倒れると同時に、木々の間から数本の矢が、エレンたちに向かって飛んできた。
「エレン、伏せろ!!」
「ああ!!皆気をつけろ!!何者かが狙っている!!」
ダンに促されて身を伏せると、エレンは周囲の者たちに叫びかけた。護衛の兵士たちは先ほどの矢の攻撃で、半数ほどが命を落としている。
「一体・・・何者だ?」
矢の攻撃が止み、エレンが恐る恐る立ち上がった、まさにその時。木々の間に隠れていた1人の男が、剣を手にエレンにとびかかってきた。
「宰相殿!お命頂戴!!」
男が叫びながら剣を振り上げた、次の瞬間。勢いよく飛んできた1本の矢が、男の喉を刺し貫いた。
「あぐっ!!」
倒れた男の背後には、弓を構えたカレンの姿があった。彼女は周囲を警戒しながら、エレンとダンのもとに駆け寄ってきた。
「エレン!兄さん!!」
「カレン!助かった!」
エレンも剣を抜いて周囲を警戒しながら、カレンのもとに駆け寄った。
「2人とも気をつけろ。先ほどの矢の量からして、相手はこいつだけじゃないぞ」
「そうね、兄さん。一体、何人いるのやら・・・」
その時、カレンの言葉を遮るように、複数の男たちがエレンたちに襲い掛かってきた。護衛の兵士たちが必死に防戦したが、相手はよほどの手練れと見えて、軽装にもかかわらず苦も無く兵士たちを倒していく。
「くっ・・・ダン!すぐに陣所に向かえ!!敵に襲われていると告げるのじゃ!!」
「しかし、お前は!?」
「エレンは私が守るわ!兄さん、早く行って!!」
追ってくる敵の1人を矢で射抜きながら、カレンがダンに叫びかけた。
「・・・分かった!2人とも、死ぬなよ!!」
ご覧いただきありがとうございます。
評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします




