死の遊戯(2)
「狩り、でございますか?」
その日。レオナルドの前に呼び出されたエレンは、ある催しを開く相談をされることとなった。
「左様。これはサイラスの提案でな。間もなく、我が子・アレックスが1歳の誕生日を迎える。それに合わせ、国中の貴族や将軍を集め、大規模な狩りを行いたい。その様子をアレックスやジェシカと見て、大いに楽しみたいのじゃ。・・・どうであろう?」
「それは・・・実に良いお考えと存じます。陛下と王妃様、そしてアレックス様がご臨席となれば、皆獲物の数や大きさを競いましょう。さすがサイラス殿、私には到底、そのようなことは思い浮かびませぬ」
エレンの言葉に、レオナルドとサイラスが笑顔で視線を交わしてうなずき合った。
「では、この件は進めるぞ。サイラス、手配を頼む」
「承知いたしました、陛下」
こうして、エレンの公認を受けた狩りの準備が、正式に始まることとなった。無論これは、ただアレックスの誕生日を祝うためだけの狩りではない。その狩りに乗じ、エレンを暗殺する・・・これが、サイラスが立てた計画であった。
「陛下。宰相の暗殺には、腕利きの手練れを10人用意いたしました。その者たちが、確実に宰相の命を獲ってくれましょう」
「そうか。さすがサイラス、手が早いのう」
「その者たちには、ギル・スティーク、およびザメク・ルアの旧臣という肩書を与えました。かつて宰相が鎮圧した乱の残党が、討たれた主の敵討ちのために立ち上がる・・・これならば、世の者どもも納得いたしましょう」
「なるほど・・・敵討ちか」
「左様。そしてその者どもには、宰相の暗殺の成否を問わず、ことが終わり次第自害するよう命じてあります。これならば、たとえ討ち損じたとしても、敵討ちを果たせず自害した、と繕うことができまする」
サイラスの説明に、レオナルドが満足そうな笑みを浮かべた。
「何から何まで抜かりないの。それでこそ、我が謀臣じゃ」
「あとは、狩りの当日を迎えるだけでございます。・・・しかし、よろしいのですか?」
物憂げな表情になりながら、サイラスがレオナルドに確認するように問いかけた。
「アレックス様のお誕生日を、血で染めることになってしまいますが・・・」
「構わぬ。エレンが生きておっては、どの道アレックスの邪魔になる。ならば・・・失敗覚悟で、ここで動いた方が良い」
「承知いたしました。では、ことを進めまする」
「うむ。頼んだぞ」
「狩り、かぁ・・・なんだか、カルドにいた頃を思い出すわね」
その日の夜。夕食の席で、エレンは狩りの話をカレンとサラに告げた。
「カレンさん・・・狩りに出てたの・・・?」
「ええ。私の家は、両親がすぐに亡くなってしまって、兄と2人で過ごしていたんです。なので、狩りにも出なきゃいけなくて・・・・・・でもそのおかげで、弓の腕は上達したんですよ。エレンや兄に負けないくらいに・・・そうよね、エレン?」
「ああ。私などより、カレンの方がずっと弓が上手い。何度、窮地を救ってもらったか分からぬ」
「すごい・・・・・・カレンさん、エレンと一緒に、その狩り・・・出てみたら?」
「わ・・・私が!?」
サラの思いがけない提案に、カレンは思わず口に含んでいた食事を吹き出しそうになった。
「そ・・・それは無理です!無理無理!!今回の狩りは、貴族や将軍の皆様が参加するんです。そこに私が入るなんて・・・」
「いや・・・むしろ、カレンが参加してくれた方が盛り上がるかもしれん」
「ちょっと、エレンまで・・・」
「いや、私は本気で言っている。ジャンヌ義姉上の反乱の時、カレンはその弓の腕で、味方の勝利に貢献してくれた。民や兵の中には、お前を義姉上に次ぐ、第二のエルドラの女神と呼ぶ者もいる。そのお前が参加したら、きっと盛り上がるぞ」
エレンの言葉に、カレンは気恥ずかしそうに顔を赤くした。
「そ、そうかな・・・・・・でも、私女だし・・・・・・」
「だからこそだ。早速、サイラス殿に相談してみる。きっと、良い返事がもらえよう」
「ちょっと・・・・・・駄目ね、こりゃ。もう前のめりになっちゃってるし・・・・・・」
「なるほど。そなたの奥方をな」
翌日。エレンは早速、カレンを狩りに参加させたい旨をサイラスに告げた。
「いかがでございましょう?妻の弓の腕は、私が保証いたします。第二のエルドラの女神が参加すれば、狩りもますます盛り上がりましょう」
「ふむ・・・・・・よかろう。そなたの奥方の腕に、期待している」
「はっ!ありがとうございます、サイラス殿!」
こうして、カレンも狩りに参加することになった。その話はすぐに城中に広まり、やがてジェシカを通じてマミヤの耳にも入ることとなった。
「え!?カレンも狩りに!?」
「ええ、どうやらそのようですわ。聞くところによると、カレンさんは弓がお得意だとか。これは、ますます楽しみになってきましたわ。ねえ、アレックス?」
母の問いかけに応えるように、アレックスはマミヤの腕の中で無邪気に笑った。この場にいる者は皆、この狩りの裏で恐ろしい陰謀が進んでいることなど、つゆほども気づいていない。
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