↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/129

死の遊戯(1)

ここからが、物語全体の第18章になります

レオナルド国王歴7年、秋。


母のない鳥は 巣を探して飛び回る 

父のない犬は 肉を探して駆け回る 

止まり木も水もない 子らの住む深い森 

月にも日にも捨てられた 哀れな子らの仮の宿


アルフォード家ですやすやと眠る赤子のリサに、サラが子守唄を歌っていた。その様子を見ていたカレンが、そっと隣に立つエレンにささやきかけた。


「相変わらず、ちょっと不気味な歌ね・・・」

「ああ・・・だが、サラはこの歌が好きなのだ。きっと、おばあさまかお母上から、この歌を聞かされたのだろう」


そんな会話に気づいたのか、サラが視線を2人に向けた。彼女は微笑みを浮かべながら、2人に優しく言葉をかけた。


「リサのこと・・・見る?」

「ああ、見せてくれ」


サラはうなずくと体をどかし、エレンとカレンがリサの隣に来られるようにした。2人は穏やかに眠るリサの姿に、思わず小さな笑みを漏らした。


「可愛いわ・・・この子のこと、しっかり守っていかなきゃね」

「ああ。たとえこの身を犠牲にしても、この子は守る。必ず」


2人の言葉に、サラが微笑みながらうなずいた。彼女はリサを見つめながら、子守唄の続きを歌い出した。


母のない蝶は 蜜を探して飛び惑う 

父のない猫は 魚(うお)を探して倒れ伏す 

子らに生きよと説きながら 糧も与えぬ空と海 

望みも運も尽き果てた 咎を負わぬ終の家



その頃。エルドラ城では、レオナルドとジェシカの国王夫妻が、もうすぐ1歳となる王子のアレックスの体を抱いていた。


「アレックスは可愛いのう。目に入れても痛くないとは、まさにこのことじゃ」

「まこと、その通りでございます。・・・マミヤ、あなたのおかげで、この子もすくすくと育ってくれました。礼を申します」


ジェシカがマミヤに頭を下げると、マミヤは慌てたように自身も頭を下げた。


「め・・・滅相もないことでございます、王妃様!」

「いや、この子もよく、そなたになついておる。実に良い乳母に恵まれたものじゃ」

「陛下まで・・・このマミヤ、光栄の極みでございます!」


と、その時。レオナルドの部屋に、彼の謀臣であるサイラス・カーンが入ってきた。


「陛下。サイラス・カーン、ただ今参りました」

「うむ。・・・ジェシカ、マミヤ、少し外してくれ。サイラスと2人きりで話がしたくてな」

「かしこまりました。・・・マミヤ、わたくしの部屋へ。子育てのコツなど、教えてくださいませ」

「そ、そのようなコツなどございませぬ!アレックス様が、とても良い子というだけのことでございますれば・・・!」


マミヤとジェシカが部屋を去ると、レオナルドは笑みを浮かべながらサイラスに言った。


「我が子というのは、実に可愛いものじゃ。父もこんな気持ちで、わしを育ててくれたのかのう」

「はっ。お父上は、陛下のご誕生を、大層お喜びになっておりました。その日のこと、昨日のように覚えております」

「うむ。・・・わしは、あの子の未来を守りたい。あの子に、この国の全てを託したい。・・・ゆえに」


レオナルドの目に、野心的な輝きが宿った。


「そろそろ・・・エレンを何とかせねばと思うのじゃ」

「はっ・・・つまり、殺せと?」

「さすがサイラス。一を聞いて十を知るとは、まさにそなたのためにある言葉よの」

「もったいないお言葉。しかし・・・よろしいのですか?宰相のことは、ずいぶんと目をかけておいででしたが・・・」

「うむ・・・あれを失うのは、いささか惜しい気がしないでもない。じゃがの、サイラス・・・アレックスがこの先、真にこの国の王として君臨するためには、どうしてもエレンの存在は邪魔なのじゃ。アルフォードの者にこれ以上、権力を持たせたくはない」

「・・・承知いたしました。では、数日のご猶予を」

「うむ。よい案を期待しておるぞ、サイラス」



それから、数日後。そんなレオナルドの思惑など知る由もなく、エレンはサラと共に、リサを連れてバルデッタ家を訪れていた。


「相変わらずいいな。さすが俺の孫、といったところか」

「ええ・・・舅殿に似て、きっと見目麗しく、賢い子に育ちましょう」


エレンの言葉に、話をそばで聞いていたトールがぷっと吹き出した。


「おいおい、おだてすぎだぞ、エレン。むしろ似ているというなら、叔父の俺に似てるんじゃないか?」

「あらあら。そういうところは、親子でそっくりですわね、お2人とも」


トールの妻のニコルが笑みを浮かべながら、穏やかな口調で舅と夫に告げた。彼女もすっかり、バルデッタ家の一員だなと、エレンとサラは同時に思った。


「時に宰相殿。お前さん、リサをアレックス様に嫁がせる気はないか?陛下からじかに提案されたんだろ?俺だったら、迷わずその話をお受けするけどな」

「舅殿。あれは戯れでございます。それに、リサの結婚相手を、私がどうこう言うつもりはありません。いずれこの子も、よき相手を見つけましょう。結婚は、その相手としてもらえればよいと思います」

「そうか・・・サラも同感か?」


父の質問に、サラは小さくうなずいて応えた。


「うーん・・・もったいない話だな。陛下のお子、つまり次期国王の妻となれば、お前さんはその父親だ。宰相なんて飛び越えて、首席顧問官として、ますます力を握れるものを」

「お言葉ですが、私は今のままで十分だと思っています。過ぎた力を持てば、人は変わってしまうもの。私は・・・力によって変わりたくはありませぬ」


怪物と呼ばれた父・ネルソンの姿を思い浮かべながら、エレンは自分を戒めるように言った。あの男のようにだけはなるまいと、この若き宰相は己に固く誓っている。

ご覧いただきありがとうございます。

評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。