死の遊戯(1)
ここからが、物語全体の第18章になります
レオナルド国王歴7年、秋。
母のない鳥は 巣を探して飛び回る
父のない犬は 肉を探して駆け回る
止まり木も水もない 子らの住む深い森
月にも日にも捨てられた 哀れな子らの仮の宿
アルフォード家ですやすやと眠る赤子のリサに、サラが子守唄を歌っていた。その様子を見ていたカレンが、そっと隣に立つエレンにささやきかけた。
「相変わらず、ちょっと不気味な歌ね・・・」
「ああ・・・だが、サラはこの歌が好きなのだ。きっと、おばあさまかお母上から、この歌を聞かされたのだろう」
そんな会話に気づいたのか、サラが視線を2人に向けた。彼女は微笑みを浮かべながら、2人に優しく言葉をかけた。
「リサのこと・・・見る?」
「ああ、見せてくれ」
サラはうなずくと体をどかし、エレンとカレンがリサの隣に来られるようにした。2人は穏やかに眠るリサの姿に、思わず小さな笑みを漏らした。
「可愛いわ・・・この子のこと、しっかり守っていかなきゃね」
「ああ。たとえこの身を犠牲にしても、この子は守る。必ず」
2人の言葉に、サラが微笑みながらうなずいた。彼女はリサを見つめながら、子守唄の続きを歌い出した。
母のない蝶は 蜜を探して飛び惑う
父のない猫は 魚を探して倒れ伏す
子らに生きよと説きながら 糧も与えぬ空と海
望みも運も尽き果てた 咎を負わぬ終の家
その頃。エルドラ城では、レオナルドとジェシカの国王夫妻が、もうすぐ1歳となる王子のアレックスの体を抱いていた。
「アレックスは可愛いのう。目に入れても痛くないとは、まさにこのことじゃ」
「まこと、その通りでございます。・・・マミヤ、あなたのおかげで、この子もすくすくと育ってくれました。礼を申します」
ジェシカがマミヤに頭を下げると、マミヤは慌てたように自身も頭を下げた。
「め・・・滅相もないことでございます、王妃様!」
「いや、この子もよく、そなたになついておる。実に良い乳母に恵まれたものじゃ」
「陛下まで・・・このマミヤ、光栄の極みでございます!」
と、その時。レオナルドの部屋に、彼の謀臣であるサイラス・カーンが入ってきた。
「陛下。サイラス・カーン、ただ今参りました」
「うむ。・・・ジェシカ、マミヤ、少し外してくれ。サイラスと2人きりで話がしたくてな」
「かしこまりました。・・・マミヤ、わたくしの部屋へ。子育てのコツなど、教えてくださいませ」
「そ、そのようなコツなどございませぬ!アレックス様が、とても良い子というだけのことでございますれば・・・!」
マミヤとジェシカが部屋を去ると、レオナルドは笑みを浮かべながらサイラスに言った。
「我が子というのは、実に可愛いものじゃ。父もこんな気持ちで、わしを育ててくれたのかのう」
「はっ。お父上は、陛下のご誕生を、大層お喜びになっておりました。その日のこと、昨日のように覚えております」
「うむ。・・・わしは、あの子の未来を守りたい。あの子に、この国の全てを託したい。・・・ゆえに」
レオナルドの目に、野心的な輝きが宿った。
「そろそろ・・・エレンを何とかせねばと思うのじゃ」
「はっ・・・つまり、殺せと?」
「さすがサイラス。一を聞いて十を知るとは、まさにそなたのためにある言葉よの」
「もったいないお言葉。しかし・・・よろしいのですか?宰相のことは、ずいぶんと目をかけておいででしたが・・・」
「うむ・・・あれを失うのは、いささか惜しい気がしないでもない。じゃがの、サイラス・・・アレックスがこの先、真にこの国の王として君臨するためには、どうしてもエレンの存在は邪魔なのじゃ。アルフォードの者にこれ以上、権力を持たせたくはない」
「・・・承知いたしました。では、数日のご猶予を」
「うむ。よい案を期待しておるぞ、サイラス」
それから、数日後。そんなレオナルドの思惑など知る由もなく、エレンはサラと共に、リサを連れてバルデッタ家を訪れていた。
「相変わらずいいな。さすが俺の孫、といったところか」
「ええ・・・舅殿に似て、きっと見目麗しく、賢い子に育ちましょう」
エレンの言葉に、話をそばで聞いていたトールがぷっと吹き出した。
「おいおい、おだてすぎだぞ、エレン。むしろ似ているというなら、叔父の俺に似てるんじゃないか?」
「あらあら。そういうところは、親子でそっくりですわね、お2人とも」
トールの妻のニコルが笑みを浮かべながら、穏やかな口調で舅と夫に告げた。彼女もすっかり、バルデッタ家の一員だなと、エレンとサラは同時に思った。
「時に宰相殿。お前さん、リサをアレックス様に嫁がせる気はないか?陛下からじかに提案されたんだろ?俺だったら、迷わずその話をお受けするけどな」
「舅殿。あれは戯れでございます。それに、リサの結婚相手を、私がどうこう言うつもりはありません。いずれこの子も、よき相手を見つけましょう。結婚は、その相手としてもらえればよいと思います」
「そうか・・・サラも同感か?」
父の質問に、サラは小さくうなずいて応えた。
「うーん・・・もったいない話だな。陛下のお子、つまり次期国王の妻となれば、お前さんはその父親だ。宰相なんて飛び越えて、首席顧問官として、ますます力を握れるものを」
「お言葉ですが、私は今のままで十分だと思っています。過ぎた力を持てば、人は変わってしまうもの。私は・・・力によって変わりたくはありませぬ」
怪物と呼ばれた父・ネルソンの姿を思い浮かべながら、エレンは自分を戒めるように言った。あの男のようにだけはなるまいと、この若き宰相は己に固く誓っている。
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