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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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女たちの戦い(5)

やがて、季節は秋へと移っていった。


サラの腹は大きくなり、間もなく出産を迎える状態になっている。エレンはウェイドに頼み込み、妹のミアをサラの手伝いのため、一時的にアルフォード家に戻してもらうことにした。


「お兄様・・・あの時は、ごめんなさい」


アルフォード家に戻った最初の日、ミアはエレンを責めたことを彼に謝罪した。


「私・・・自分を、抑えきれなくて・・・・・・誰かのせいにしないと、自分が・・・壊れちゃいそうで・・・」

「いいんだ。お前の言うことも、間違ってはいない。私がこの家に戻ってこなければ、ジャンヌ義姉上もアランも・・・カイルもデイン殿も、死んでいなかったかもしれん」


エレンがそう言うと、ミアは小さく首を横に振った。


「お兄様は、お兄様にできる精一杯のことをしたのよ。だから、そんな風に思わないで。私ももう、あんなことは二度と思わないから」




それから、数日後。カレンは産まれてくる子のためにと、服を編み始めていた。そんな彼女のもとに、重い腹に手を置きながらサラがやって来た。


「サラさん・・・あまり、動かない方が・・・」

「ねえ、カレンさん」


カレンの言葉を遮ると、サラは不安そうな表情で問いかけた。


「正直に答えて。・・・私のこと・・・嫌い?」

「え・・・?」


思わず声を上げたカレンに、サラは暗い表情のまま言った。


「だって・・・本当は、あなただけがエレンの奥さんだった。そこに、私が横入りした。エレンと過ごす時間も、半分になって・・・・・・私の方が、先に赤ちゃんができちゃった。そんな私を・・・・・・憎いって、嫌いだって、そう思ってる・・・?」


その問いかけに、カレンは小さな笑みを浮かべながら答えた。


「確かに・・・最初は、そういう風に思ったかもしれません。エレンをあなたに取られたって思ったし、あなたが先に身ごもった時だって、正直言って悔しかった。・・・でも、エレンが言ったじゃないですか。私たちは、1つの家族だって。正室も側室も関係ない。私もあなたも、このアルフォード家の一員なんです。だから私は・・・・・・家族であるあなたを、嫌いとか、憎いとは思っていません」

「カレンさん・・・」


サラの両手を優しく取りながら、カレンは微笑みを向けて続けた。


「私は、家族を大切にしたいんです。あなたのことも・・・産まれてくる子供のことも」


カレンの言葉に、サラの目から涙がにじんだ。するとそんな2人のやり取りを見ていたのか、ミアがはじけるような笑顔でサラに言葉をかけた。


「カレンお姉ちゃんの言う通りよ。この家に住んでる人は、みんな1つの家族なの。お義姉様だって、その一員よ」

「ミア・・・カレンさん・・・!」


サラの言葉にミアとカレンがうなずいた、その時であった。


「うっ・・・おなかが・・・痛い・・・!」


腹を押さえてうずくまったサラを見て、カレンとミアの表情が一変した。


「ミア、サラさんをベッドまで!」

「うん!」


2人はサラに肩を貸すと、彼女を部屋のベッドまで案内した。すると物騒な雰囲気を感じ取ったのか、マリアもリーフと共に部屋に駆け込んできた。


「皆さん・・・もしかして・・・!」

「ええ、陣痛です!お義姉様、お湯を持ってきてください!!」

「は、はい!!」


カレンの指示で、マリアがお湯を取りに駆け出す。ミアがリーフを落ち着かせる中、サラの体を走る痛みはさらに激しさを増していった。


「痛い!!痛いよおおおおおおおおおっ!!だめ!!私もう・・・だめ!!」


両目から大粒の涙を流すサラに、カレンは必死に叫びかけた。


「しっかりして!!あなた母親になるのよ!!だったら・・・この程度の痛み、耐えなさい!!本当なら、私が代わりに産んであげたいくらいなんだから!!」

「カ・・・カレンお姉ちゃん・・・」

「だけど、それは絶対にできないの!あなたが・・・あなたが生まれてくる子供のために、耐えるしかないの!!お願いだから、がんばって!!あなたとエレンの・・・大事な子供なんだから!!」


カレンも涙を流しながら、必死にサラに訴えかけた。その言葉が響いたのか、サラはそれきり、一切の弱音を吐かなかった。


そしてついに、サラは子供を出産した。その報せはすぐに、城のエレンのもとに届けられた。


「そうか・・・サラが!」

「おめでとうございます、宰相殿。どうか・・・お屋敷にお戻りくだされ。後の仕事は、私たちがやっておきますゆえ」


カールの言葉に、エレンは大きく頭を下げた。


「かたじけない・・・かたじけのうございます、カール殿!!」


エレンはすぐにアルフォードの屋敷に戻り、産まれたばかりの我が子を抱いた。腕の中ですやすやと眠っていたのは、可愛らしい女の子であった。


「よくやった・・・!よくやったぞ・・・サラ・・・!」

「うん・・・私たち・・・頑張った・・・」


カレンとミア、そしてマリアに視線を向けながら、サラが弱々しい笑みをエレンに向けた。彼女の言いたいことを察すると、エレンはそこにいる全員に深く頭を下げた。


「みんな・・・本当に、ありがとう!!」

「別に、大したことはしてないわよ。・・・エレン、サラさん、この子の名前は?」


カレンが気恥しそうな笑みを浮かべて問いかけると、サラがゆっくりと口を開いた。


「リサ・・・・・・私の・・・おばあさまの名前・・・」

「リサか・・・うむ。よい名だ」


エレンはその名前を噛み締めると、手の中の赤子をカレンに差し出した。


「カレン・・・お前も、抱いてやってくれ。この子にとって、お前はもう1人の母親なんだ」


その言葉に、カレンは戸惑ったようにサラを見た。彼女が微笑みを浮かべてうなずいたのを確かめると、カレンはゆっくりとうなずき、エレンからリサの体を受け取った。


「わあ・・・可愛い・・・!」


腕の中で眠る赤子に、カレンは表情をほころばせた。たとえ自分の子ではなくとも、彼女は今、心から幸せであった。

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