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宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


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女たちの戦い(4)

季節が冬から春に移り、いよいよジェシカの出産が近づいてきた。国中が祝福の雰囲気に包まれる中で、1つの訃報が国中を駆け巡った。


先代国王によって見出され、国の柱石として活躍した五将軍の筆頭、ゴードン・ブレイが、68歳の生涯を終えた。


「陛下・・・この国のために生涯を捧げられたこと、このゴードン・・・まことに幸せでございました・・・」


息を引き取る数日前、見舞いにやって来たレオナルドに、ゴードンがベッドに横たわりながら言った。


「うむ・・・そなたの働き、わしは終生忘れぬぞ」

「ありがとうございまする・・・・・・もはや・・・思い残すこともありませぬ・・・・・・」


ゴードンの死後、その功績に報いるべく、大規模な国葬が執り行われた。彼の死によって、五将軍はランスとルシウスの2人が残るのみとなった。


そして同じ時期、アルフォード家でもある変化が起きた。長らくダリオと会う決心をつけられずにいたマリアが、ついに彼と会うことになった。


「ダリオ殿の心底、しっかりと見極めてまいります。下心が少しでも見えたなら、私はあの方とは二度と会いませんので」

「・・・分かりました。義姉上・・・どうかご武運を・・・」

「ふふっ。別に、戦に出るわけではないのですけどね」


こうして、マリアはダリオと対面した。その日の夜、帰宅したマリアはエレンを部屋に呼び出すと、正直な胸の内を彼に告げた。


「思った以上に、ダリオ殿はいい方でしたわ。考えが近い所があるのか、話も思った以上に弾んでしまって・・・」

「そうですか・・・・・・それは、何よりでございます」

「私・・・また近く、あの方と会うことになりましたわ。ルーカスは・・・私のことを、裏切者と思わないかしら・・・・・・」


物憂げな表情を浮かべた義姉に、エレンは微笑みかけながら言った。


「ルーカス兄上は、きっと義姉上の幸せを一番に考えるでしょう。いつまでも、自分に囚われていると思うことの方が、あの兄上には辛いでしょう。きっと・・・兄上も喜んでくださっているはずです」

「そうね・・・あの人は、優しい人だったから・・・・・・」


目元に浮かんだ涙を手の甲で拭いながら、マリアは意を決したように言った。


「私、ダリオ殿とお付き合いしてみますわ。もしかしたら・・・いずれは、結婚するかもしれません」

「その時は、心からお祝いいたします。リーフも、父親を持てて幸せでしょう」



やがて、季節が夏に移った頃。ついにジェシカが、レオナルドの第一子を出産した。


「おお・・・!これが・・・わしの息子・・・!」

「はい・・・陛下の・・・お子でございます・・・!」


ジェシカが産んだのは、元気な男の子であった。我が子の体を優しく抱く夫に、ジェシカが慈しむような笑みを向けた。


「陛下・・・王妃様・・・・・・まことに、おめでとうございます」


レオナルドとジェシカに、産まれてくる子の乳母に任命されたマミヤが、2人に深く頭を下げた。


「うむ・・・マミヤ、いよいよそなたの出番じゃ。この子のこと、よろしく頼むぞ」

「マミヤ・・・あなたも抱いてあげてください。この子は、あなたの子供でもあるのですから」

「もったいないお言葉でございます。では・・・ご無礼いたします」


レオナルドから赤子を受け取ると、マミヤはその体を優しく抱いた。生まれたばかりの新しい命が、腕の中で無邪気な微笑みを浮かべている。


「この子の名は・・・アレックスにしよう。わしに弟ができたら、父につけてほしかった名じゃ」

「アレックス・・・ええ・・・良い名前です・・・」


こうして、産まれてきた王子はアレックスと名付けられた。その誕生の報せは、すぐに国中を駆け巡った。


「陛下・・・アレックス様のご誕生、心よりお喜び申し上げます」


エレンはカールやニール、ディエゴといった文官たちを連れ、レオナルドに祝いの言葉を述べた。レオナルドは上機嫌で、エレンたちの祝いの言葉を受けた。


「うむ。・・・宰相よ、そなたも秋には、父親になろう。もしその子が女子(おなご)なら、アレックスと婚約させぬか?」


いきなりの発言に、エレンだけでなく、文官の全てが驚きの表情を浮かべた。エレンは何とか自分を落ち着けながら、レオナルドに言葉を返した。


「も・・・もったいないお言葉でございます。なれど・・・まだ、女子と決まったわけではありませぬ。どうか・・・今のところは、ご容赦を・・・」

「あはは。戯れじゃ、そんなにかしこまるな。男子(おのこ)でも一向に構わぬ。その時は、アレックスのよき友になってくれればよい」

「はっ・・・もったいなき、お言葉でございます」


それからほどなくして、エレンと文官たちは王のもとを後にした。エレンは執務室に戻ろうとしたが、その前に文官のバナージが姿を見せた。


「宰相殿。羨ましい限りですな。産まれてくるお子が男子でも女子でも、アレックス様にお近づきになれるのですから」


蛇のような目のこの男が、エレンは今も得意になれない。彼は何とか笑みを作ると、バナージに言葉を返した。


「あれは、陛下のお戯れでございます。私は、産まれてくる子をアレックス様に近づけようとは、今は考えておりませぬ」

「そうですか。いや・・・それはもったいない。宰相殿は陛下のお気に入り、そのお子となれば、きっとアレックス様にお近づきになれましょうに・・・・・・私なら、喜んで我が子を差し出しますがな」


笑い声を上げて去っていくバナージの背中を、エレンは無言で睨みつけた。子供を親の都合で利用する者ほど、彼が嫌う存在はない。

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