女たちの戦い(3)
「そうか・・・!サラ・・・!よくやってくれた・・・!」
サラの懐妊。エレンは城から帰ってすぐ、サラとカレンからそれを知らされた。
「うん・・・私・・・嬉しい・・・」
「本当に・・・よくやってくれた・・・!この子のこと・・・家族で共に・・・守っていこう・・・!」
サラの腹を優しく撫でながら、エレンはカレンに視線を向けて言った。カレンは微かに表情を曇らせつつ、力強い言葉でエレンに応えた。
「そうね。あなたの初めての子供、私たちでしっかり守らないと」
その夜を、エレンはカレンと共に過ごした。カレンの体を抱きしめながら、エレンは彼女に問いかけた。
「正直に、答えてくれ。サラの懐妊・・・お前は、どう思った?」
その問いかけに、カレンは苦笑いしながら答えた。
「本音を言えば・・・ちょっと・・・悔しいかな。あんたの子供は、私が一番に産みたかった。先越されちゃったなって、そんな気持ちよ」
「カレン・・・」
エレンが気遣うような視線を向けると、カレンはにっこりと微笑みかけながら続けた。
「でも、サラさんを応援したいって気持ちも本当よ。産むのはあの人だけど、私だって、その子の母親になるんだから。さっきあんたが言ったように、産まれてくる子は、私たち家族で守らないと。だから私に、余計な気遣いは無用よ」
カレンのその言葉に、エレンは胸をなでおろした。
「カレン・・・ありがとう、本当に」
「何言ってるのよ。あんたが側室をもらった時から、こうなる覚悟だってしてたわよ」
エレンに笑いかけながら、カレンは自らの唇を夫の唇に重ねた。2人は相手の体を強く抱きしめながら、互いに激しく求め合った。
翌日。エレンは早速、周囲の人々にサラの懐妊を伝えた。
「そうか・・・そなたも、わしとあまり変わらぬ時期に、父親になるのじゃな」
サラの懐妊の報せを受けたレオナルドが、笑みを浮かべながらエレンに言った。
「はっ。王妃様は、今年の夏ごろに、ご出産の予定だとか・・・」
「そうじゃ。・・・それでな、エレン。ジェシカとも話し合ったのだが、産まれてくる子の乳母を、マミヤに頼みたいのじゃ」
「マ・・・マミヤ殿に!?」
予想外なレオナルドの言葉に、エレンは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「ああ。ジェシカも、マミヤのことをすっかり気に入ってしまってな。乳母にするならあのような者にと、ここ最近せっつかれておるのじゃ」
「左様でございましたか・・・・・・しかし、マミヤ殿は結婚なさっていたとはいえ、お子を産まれたことがありませぬ。果たして、乳母が務まるかどうか・・・」
「そうか・・・・・・いや、むしろ好都合かもしれぬ」
「・・・と、仰いますと・・・?」
含みのある言い方をしたレオナルドに、エレンは怪訝そうな表情で尋ねた。
「実はな、少しジェシカがわがままを言っておるのじゃ。産まれてくる子はできる限り、自らの手で育てたいと言っておっての。王の子は、乳母が育てるのが慣例だと言い聞かせておるのだが、あれもあれで、なかなか頑固でな」
「そうでしたか・・・・・・」
その時、エレンはレオナルドの考えが分かった気がした。彼の表情でそれを察したのか、レオナルドが小さな笑みを浮かべる。
「わしの言いたいことが分かったようじゃな、エレン。マミヤは、名目的に乳母ということにする。もちろん、名ばかりにするつもりはない。産まれてきた子が大きくなったら、マミヤにも、育てるのを手伝ってもらいたい。それでどうじゃ?」
「・・・分かりました。マミヤ殿には、私から・・・」
「いや、ジェシカが己の口から言いたいと聞かなくての。一応そなたの許可を得てからと思って、今は我慢させておる」
「私の許可など不要でございます。お2人がよろしいと思われるならば、私は反対いたしませぬ」
「そうか・・・!ではこの話、進めるぞ?」
「はっ。陛下と王妃様の御意のままに」
次にエレンは、サラの父親であるルシウスに報告した。ルシウスはその話を聞くなり、いつになく驚いたような表情を浮かべた。
「そうか・・・!サラが・・・お前さんの子を・・・!」
「はい。サラも、大層喜んでおります」
「そりゃそうだ。あいつにとって、長年の夢が1つ叶ったわけだからな。しかしそうなると、気になるのはどっちの子かということだ。男か女か・・・それによって、アルフォード家の今後が大きく変わるぞ」
「舅殿・・・私は別に、どちらが産まれようと構いませぬ。サラが、私の子を産んでくれる・・・・・・それだけで、十分幸せでございますれば」
「いや、女というものは男子を産んでこそだ。嫁いだ家の後継ぎを産んでこそ、嫁に出した甲斐があるというもの。さっそく、良い男子を産めるように、色々用意させよう」
「無用でございます。先ほど申し上げた通り、男であれ女であれ、子供ができるだけで十分でございます」
続いて、城で衛兵の仕事をしている、義弟のウェイドにこのことを伝えた。ウェイドはこの報せを、まるでわがことのように喜んでくれた。
「それは・・・おめでとうございます、義兄上!」
「ありがとうございます。このこと、ミアに伝えていただけないでしょうか?」
「もちろんでございます!産まれてくるのが甥であれ姪であれ、ミアもきっと喜びましょう!・・・もしもの時は、いつでも声をかけてくださいませ。私もミアも、できるだけのことはいたしますゆえ」
「かたじけない・・・!やはり・・・ミアは良いお方を夫に持った・・・!」
「そうですか。宰相殿も、父親に・・・」
エレンの話を聞いた側近のカールが、冷静な表情を崩さずにエレンに言った。
「はい。しかし・・・なんだか不思議な気持ちです。父上も・・・ゴール兄上が生まれると知ったときは、こんな気持ちだったのか・・・」
「しかし・・・よろしいのですか、宰相殿?」
カールの同僚で小心者のニールが、少し遠慮しながらエレンに問いかけた。
「お子を産まれるのは、側室のサラ殿なのでしょう?もしサラ殿が男の子をお産みになったら、正室のカレン殿の立場が・・・」
「これ、ニール殿」
年長の文官のディエゴがニールをたしなめたが、エレンは微笑みながら応えた。
「そのことならば、カレンも承知の上です。それに、私は子ができるだけで幸せなのです。そこに正室も側室もありませぬ。まして産まれてくる子が、男でも女でも構いませぬ」
「なるほど・・・宰相殿らしいですな」
エレンの言葉に、カールが微笑を浮かべながら言った。最後にエレンは厩舎で働くダンのもとを訪れ、サラの妊娠、そしてマミヤが国王夫妻の間に生まれる子の、乳母に選ばれるであろうことを告げた。
「そうか・・・乳母となれば、城暮らしになろうな・・・」
「ああ。今マミヤ殿は、お前とエミルの長屋に住んでいるのだったな?」
かつて、カレンとダン、エミルとカイルで、2軒ずつ長屋を使っていたカルドの仲間たち。しかし、カレンがエレンに嫁いでアルフォード家に移り、カイルがジャンヌの乱で戦死したこともあって、今はダンとエミルが1軒の長屋に住み、そこにマミヤが移り住んでいた。
「ああ・・・数ヶ月の間だったが、初恋の人と共に暮らせたのは、とても幸せであった・・・!」
目から涙を流しながら、ダンは声を震わせて言った。彼はすぐに涙を拭うと、エレンの目を見つめて言った。
「エレン・・・カレンのこと、よろしく頼むぞ。あれはからりとしてるように見えて、不満や不平を内に溜め込みがちなところがある。それが爆発しないように、うまいことやってくれ」
「・・・分かった。カレンのことは、十分気をつけよう」
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