女たちの戦い(2)
「そう・・・ミアが、そんなことを・・・」
ミアとウェイドの家を訪れた、その日の夜。夕食の席でエレンの話を聞いたカレンが、心配そうに声を上げた。
「ああ・・・だが、それも無理はないと思う。父上が亡くなってから立て続けに、親しかった人を何人も亡くした。元々ミアは、家族や知り合いをとても大切にする奴だった。そんなミアにとって、今の状況はあまりにも・・・辛すぎるんだ」
「可哀想・・・」
エレンの言葉を聞いたサラが、ぽつりと同情するように言った。
「ああ、可哀想だ。だが、ウェイド殿もいる。きっと、あいつは立ち直れる。何か、きっかけさえあれば・・・」
「あまり急ぐことはありませんわ。ミアさんの心は、ミアさんだけのもの。私たちは、それが治っていくのを、じっと待つしかできません」
息子のリーフの食事を手伝いながら、義姉のマリアが声を上げた。やがて夕食が終わると、エレンはマリアの部屋を訪ねた。
「実は・・・ある方から、手紙を預かりました。・・・ダリオ・モンティ殿を、覚えておいでですか?」
ダリオ・モンティ。その名を聞いた途端、マリアの表情はさっと暗くなった。
「ええ・・・忘れるはずもありません。あの方が・・・もっとしっかりルーカスを守ってくれていれば・・・!」
「過ぎたことは、仕方ありませぬ。そのダリオ殿から、義姉上に渡してほしいと・・・」
エレンはダリオから預かった手紙を、恐る恐るマリアに差し出した。マリアはそれを受け取って目を通したが、彼女の表情には、徐々に怒りの色が宿り始めた。
「こんな・・・こんな話、受けられるはずがありません!!なぜ・・・なぜ私が、あの方と会わねばならないのですか!!」
「・・・その手紙にも書かれている通り、ダリオ殿は、義姉上のことがお好きなのです。ルーカス兄上が生きていた時から、密かに想いを募らせていたとか・・・」
話は、数時間前までさかのぼる。
「なるほど・・・つまり、これは恋文。ダリオ殿は、義姉上を妻に迎えたいと・・・」
帰宅途中にダリオに呼び止められ、彼から受け取った手紙に目を通したエレンが、確かめるようにダリオに言った。
「はい・・・このようなことを、宰相殿に言うのも何なのですが・・・・・・ルーカス殿が生きておられた時から、私はマリア殿を慕っておりました。なれど、よき友であり、主君であるルーカス殿の妻になられるのならと、私は自分を納得させました。しかし・・・」
「確かに、今の義姉上は独り身でございます。それに、近頃は息子のリーフに父親がいないことを、よく嘆くようになっています。・・・分かりました。私から、義姉上に話してみましょう」
「本当でございますか!?・・・ありがとうございます、宰相殿!!」
がばっと頭を下げたダリオに、エレンは釘をさすように言った。
「なれど、義姉上のルーカス兄上への気持ちは、今も相当強うございます。決して・・・ダリオ殿に会わせると約束はできませぬ」
「ええ、それでも構いませぬ。何もせず思いをくすぶらせるより、まずは動いてみなければと思った次第。どうか・・・よろしくお願いいたします!」
「義姉上・・・ルーカス兄上が亡くなって、もう2年が経ちました。それに、リーフに父親がいないことが、前々から不憫だと仰っていたではありませんか。差し出がましいとは思いますが、これは1つの機会なのではと、私は思います。ダリオ殿に・・・お会いしてみてはいかがでしょう?」
エレンの言葉に、マリアは額に手を置いて考えるそぶりを見せた。しばらく沈黙が流れた後、マリアは重々しく言葉を発した。
「分かりました・・・なれど、まだ気持ちが固まり切っておりませぬ。いつダリオ殿にお会いするかは、私が決めとうございます。それでよいですか?」
「もちろんです。全て、義姉上にお任せいたします」
それから数ヶ月経ち、レオナルド国王歴は6年目に突入した。
マリアは依然として、ダリオに会おうとするそぶりは見せない。だが、それでいいとエレンは思っている。決めるのは、他でもないマリア自身だ。そこに自分が、あれこれと口を出す必要はない。
妹のミアは、夫のウェイドの献身的な支えのおかげか、少しずつ元気を取り戻しているらしい。しかし、エレンが顔を見せてはまた錯乱してしまうかもしれないとのことで、当面家には来ないでほしいと、ウェイドから伝えられた。
「ウェイド殿・・・ミアに良くしてくださり、本当にありがとうございます」
城でミアの事情を聞いたエレンが、ウェイドに深々と頭を下げた。
「か・・・顔をお上げください!!妻を支えるのは、夫の役目です。それに、ミアにはあの、弾けるような笑顔でいてほしいのです。その笑顔を取り戻せるためなら、私はなんだっていたします」
「ありがたい・・・・・・ミアは、本当に良い方を夫に持つことができました」
そんな中、アルフォード家にも転機が訪れた。それは、ある日の昼下がり。少しでもエレンのためになればと、サラがカレンから編み物を習っていた。
「うーん・・・うまく、できない・・・」
「サラさん、焦りは禁物です。ゆっくりでも、確実に編み込むことが大切ですから」
カルドの村でよく編み物をしていたカレンとは対照的に、身の回りのことは他の人物がやっていたサラは、編み物をすること自体が初めてであった。それでも何とかカレンに追いつきたいと、サラは必死に手を動かした。だが、その時――
「うっ・・・!ううぅぅっ・・・!」
「サ・・・サラさん!?」
突然サラがその場にうずくまると、勢いよく嘔吐した。荒い息をつくサラの肩に、カレンが優しく手を置いた。
「大丈夫、サラさん!?」
「う・・・うん・・・・・・でも・・・これって・・・もしかして・・・・・・」
サラの言葉に、カレンは胸がチクリと痛むのを感じた。それでも彼女は必死に自分を励まし、精いっぱいの笑みをサラに向けた。
「ええ・・・きっとそう・・・・・・おめでとう・・・サラさん・・・!」
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