怒りの矛先(6)
ここまでが、物語全体の第16章になります
エレンがジェイルと港で出会った、翌日のこと。ザメクの船団が、所領であるガルナダの港に到着した。
「船から降りたら、すぐに戦の支度だ!!あの小僧、目にもの見せてやるぜ・・・!」
もはやザメクの頭には、エレンへの恨みしかなかった。彼の不運は、この時己を取り巻く状況全てが、自身を破滅に追い込むものであることに気づいていないことであった。
「頭領!様子が変ですぜ!!」
ザメクの船に乗っていた兵士の1人が、大声でザメクに叫びかけた。
「ああ!?一体どうしたってんだ!?」
甲板に上がって港の様子を目にしたザメクが、目の前の光景に思わず言葉を失った。港は蜂起した領民たちで埋め尽くされており、彼らの手には、火矢をつがえた弓が握られている。
「ザメク・ルア!!貴様はもはや、このガルナダの主にあらず!!我らガルナダの民は、貴様の傍若無人ぶりに耐えかね、こうして立ち上がったのだ!!」
領民たちを率いるマイスが、大声でザメクの船団に叫びかけた。彼の手にも、火矢をつがえた弓が握られている。
「我らの怒り、その身をもって知るがいい!!放て!!」
マイスの号令を合図に、領民たちが一斉に火矢を放った。木でできている船に無数の火矢が突き刺さり、たちまちのうちに炎上していく。
「うわあああああああああ!!助けてくれえええええええええっ!!」
火だるまになって叫ぶ兵士たちが、次々と海に飛び込んでいく。ザメクはこの状況を呆然と見つめていたが、次第にその目に怒りの炎が宿り始める。
「くそっ・・・雑魚風情が、調子に乗っていきがりやがって!!」
ザメクは剣を引き抜くと、背後に立つ部下たちに大声で命じた。
「何ぼさっとしてやがる!?さっさと船を港に着けろ!!あいつらを皆殺しにしてやるんだ!!」
しかし、部下たちはザメクの命令に従おうとしなかった。彼らはザメクを睨みつけると、次々と腰の剣を抜いた。
「て・・・てめえら・・・?」
「頭領・・・あんたもう終わりだよ」
「せめて最後くらい、俺たちの役に立ってくだせえ、頭領!」
「くっ・・・てめえらああああああああっ!!」
ザメクは必死に奮闘したが、数に勝る部下たちに取り囲まれ、ついにその首を取られた。――こうして、一代の英雄、ザメク・ルアが起こした乱は、あまりにも呆気ない幕切れを迎えたのだった。
エレンたちがガルナダに辿り着いたのは、ザメクが討ち取られた翌日のことであった。
「そなたがマイスか。よく理不尽に屈さず、民と共に立ち上がってくれた。心から、感謝する」
エレンが深々と頭を下げると、マイスは皮肉を込めた笑みを浮かべて言った。
「まあ、本当は反乱は良くないんですけどね。けどまあ、今回はされてもしょうがない奴が、この地を治めてたってことで・・・」
「こらマイス!宰相殿に対して、無礼であろう!」
慌てて親友をたしなめるジェイルに対し、エレンは申し訳なさそうな表情で告げた。
「いや・・・マイスの言う通りだ。本来なら、民が苦境に耐えかねて立ち上がるようなことは、決してあってはならぬ。今後、新しい領主がこの地を治めることになろう。その領主には、そなたらが再び立ち上がることが二度とないよう、善政に努めさせる」
「頼みますよ?俺たちとそう変わらない齢の、宰相殿」
「だからマイス!!お前はなぜそうも無礼なことを!!」
後日行われた論功行賞の結果、ガルナダの地は、ジャンヌの乱が起きた際にエレンの危機に駆けつけた、ノリス・クレイ将軍の飛び地の領地となった。本領のベルトでも、名君として慕われたノリスの手腕が遺憾なく発揮され、ガルナダの民が反乱を起こすことは、エルドラの歴史上ついになかった。
ジャンヌの乱と、ザメクの乱。2つの反乱の後始末が全て終わると、エレンはカレンとダン、そして同郷の文官見習いであるエミルを連れて、再びカルドを訪れた。
「デイン殿・・・カイル・・・・・・やっと・・・やっと全て終わったと、伝えることができまする・・・・・・」
一行は、隣り合って建てられたデインとカイルの墓に花を供え、2人の冥福を心より祈った。本当は妹のミアも連れてきたかったのだが、実の姉や兄のように慕っていたジャンヌとカイル、そしてデインの相次ぐ死が相当こたえたのか、近頃は食事もろくに取らずに塞ぎ込んでいるという。エレンはミアを夫のウェイドに託し、こうして同郷の者たちと共にデインとカイルの墓参りに来たのだった。
「みんなも、来てくれたのね。ありがとう・・・2人のために」
2つの花束を手にしたマミヤが、エレンたちの前に姿を見せた。彼女の姿を見たエミルが、目を潤ませながら言葉を返す。
「マミヤさん・・・ええ。2人とも、家族のような存在でしたから」
「そうね・・・私たち、もう1つの家族のように、親しかったものね・・・・・・」
エミルの言葉に小さくうなずくと、マミヤは2人の墓に1つずつ花束を置いた。そして目を伏せて祈りを捧げると、エレンに視線を向けて言った。
「エレン・・・もし迷惑じゃなかったら、私を・・・お城で働かせてくれない?」
「え?・・・城で!?」
マミヤが初恋の人であるダンが、思わず素っ頓狂な声を上げた。
「ええ・・・私の畑も、ザメク将軍の部下に荒らされてしまって・・・・・・村長様が言うには、もうやり直せないだろうって・・・」
「そうですか・・・・・・それで、お城で?」
カレンが問いかけると、マミヤは小さくうなずいて続けた。
「ええ、どんなことだってするわ。お願いエレン。私を・・・お城に連れて行って」
「・・・分かりました。マミヤ殿なら、大歓迎でございます」
エレンの言葉にマミヤのみならず、他の者たちも小さな笑みを浮かべた。その3日後、マミヤを加えたカルド出身の一行が、エルドラ城に帰り着いた。
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