怒りの矛先(4)
ザメクが命からがら村を脱出した、その翌朝。ルシウスが率いる1万5千の軍勢が、エレンたちに合流した。
「遅くなったな、宰相殿」
「ルシウス殿・・・お待ちしておりました!」
エレンは笑みを浮かべながらルシウスを歓迎したが、ルシウスは硬い表情で言った。
「宰相殿、ザメクにずいぶん腹が立ったらしいな。総大将が単独で逃げる敵を追うというのは、あまり褒められた話じゃないな」
「申し訳ございません・・・・・・トールにも、同じようなことを言われました」
「ふっ、さすが俺の息子だ。よく言ったぞ、トール」
「はっ!」
エレンの隣に立っていたトールが、父の言葉に頭を下げて応えた。
「さて、ここからはザメクを追いかけなきゃいかんな。大体の位置はつかめてるのか?」
「いえ・・・なれど、ザメクが逃げる位置をある程度計算し、村や関所には急使を送っておきました。ザメクを討ち取った者には、褒美は望むまま出すと」
「なるほど。ということは、これはもはや競争だ。急いでザメクを追う。トール、俺の部隊に戻れ。宰相殿と奥方は、後ろからついてきてほしい」
「はっ。頼みます、ルシウス殿」
エレンの言葉にうなずくと、ルシウスは部下たちに叫びかけた。
「逆賊を追い、その首を挙げるぞ!!続け!!」
「おお!!」
ルシウスたちが本格的に、ザメクを追い始めた頃。彼の所領では、マイスによって扇動された領民たちが、大規模な反乱を起こしていた。
「兵を恐れるな!!ここは俺たちの土地!!俺たちの手で取り返すんだ!!」
武器を取った1万ばかりの領民が、ザメクが拠点とする城に攻めかかった。城を守る兵たちは最初は防戦に努めたが、命を惜しんだのか次々と役目を捨てて逃亡し、城は呆気なく陥落した。
「よし!!城を落としたぞ!!」
マイスが剣を高く掲げると、領民たちは武器を突き上げてそれに応えた。喜びの表情を浮かべるマイスに、友人のジェイルが呆然となりながら声をかける。
「まさか・・・こんな簡単に、城を落とせるなんてな・・・」
「それだけ、ザメク将軍への怒りが溜まってたんだ。しかし・・・問題はこれからだ。宰相殿がこの反乱を知ったら、どんな風に思われるか・・・」
まだザメクがエレンに追われていることを知らないマイスが、この先のことを考えて物憂げな表情を浮かべた。
「一応、城には使者を出した方がいいかもしれないな、マイス。ザメク将軍の暴政に耐えかね、やむなく反乱を起こした旨を、陛下か宰相殿に伝えるんだ」
「そうだな。よし、宰相殿に使者を出す!陛下よりも宰相殿の方が、俺たちの意見に耳を貸してくださろう。ザメク将軍の横暴を訴え、この反乱を認めてもらうんだ!」
それから、数時間後。エルドラ城に辿り着いたダンが、国王のレオナルドにカルドの一件と、エレンがザメクを逆賊として追い始めたことを報告した。
「そうか・・・ザメク・ルア、愚かなことをしたものよ・・・」
「宰相殿は、たとえお1人でもザメクを追いましょう。どうか、ザメク・ルアを逆賊として追うこと、お許しくださいませ」
「ふむ。・・・ジェシカは、どう思う?」
レオナルドが隣に立つ王妃に視線を向けると、彼女は自らの意見を口にした。
「ザメク殿は理不尽な理由で、罪のない民を手にかけました。これは許しがたい行為、宰相殿の怒りももっとも。ここはダン殿の言う通り、ザメク殿を逆賊として・・・うっ・・・陛下、失礼いたします・・・!」
その時、ジェシカが口を手で押さえながら、その場から走り去っていった。ダンとレオナルドはそれを呆然と見つめていたが、レオナルドがふと思いついたように声を上げた。
「ダンよ・・・ジェシカのあれは、もしや・・・」
「はっ・・・おめでたいこと・・・かもしれませぬ」
ダンのその言葉に、レオナルドは笑みを浮かべて身を乗り出した。
「そうか・・・そなたもそう思うか!よし。これは吉兆であるぞ。すぐに宰相に、ザメク・ルアを逆賊として討つよう伝えるのじゃ!」
「はっ!!」
状況が徐々に悪くなっていることを、ザメクは馬を走らせながら感じていた。しかしその彼でも、よもや所領で反乱が起き、城が落ちていることまでは知る由もない。
「もうすぐ船だ!急げ!!」
ザメクは城に向かう際に使用した港を目指し、軍を急がせた。軍からはさらに落伍者や脱走者が相次ぎ、8千500人ほどにまで減っている。
「頭領!あれを!!」
そんな彼に追い打ちをかけるように、後方から軍勢が迫ってきた。その軍勢はエレンからの急報を受け、ザメクを討つために兵を挙げた近隣の領主であった。
「ちっ・・・!後方の部隊で迎え撃て!!俺たちは急いで港を目指す!!」
ザメクは完全に、後方の部下たちを切り捨てるつもりだった。しかしここで、彼にとって誤算が起きた。
「も・・・もう限界だ!俺は抜けるぞ!!」
迎撃を命じた後方の部隊から、多くの脱走者が出た。兵たちはたちまち恐慌状態に陥り、戦わずして逃げる者が続出した。
「いたぞ!!一気に攻めかかれ!!」
さらに追い打ちをかけるように、追いついたルシウスの部隊がザメクの軍に攻撃を仕掛け始めた。この攻撃でザメクの軍は総崩れとなり、その混乱はザメクの周辺まで波及した。
「ひいい!もぅ終わりだ!!逃げろ!!」
ザメクの身を守る親衛隊からも、逃げる者が出始める有様であった。ザメクは声を張り上げて脱走者を防ごうとしたが、命惜しさに逃げる兵たちを止めることはできない。
「戻れ!!戻らなきゃ斬る!!・・・ちっ!船に乗れ!!急げ!!」
ザメクは残った部下たちを急き立て、港に駆け込んだ。不幸中の幸いか、港にはまだ、エレンの使者は届いていなかった。
「船を出せ!!出港だ!!」
ザメクは残った兵たちと共に船に乗り込むと、すぐに港を後にした。ルシウスはすぐに港に乗り込むと、ザメクが逃亡したことを知った。
「ちっ・・・逃がしたか」
一瞬苦い顔をしつつも、ルシウスはすぐに頭を切り替えた。
「できる限りの船を確保しろ!!ザメクの野郎を追いかけるぞ!!」
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