城への帰還(1)
ここから、物語全体の『第2話』になります。また、試験的に、投稿時間を午後0時に変更しました。しばらく、こちらの時間で投稿いたします
父のネルソンから家督の継承を宣言された、2日後のこと。エレンは馬を走らせながら、カルド村に急いでいた。
その背後から、エレンと同じように馬にまたがった1人の若者が、ぴったりとついてくる。彼はネルソンがエレンにつけた護衛――と言えば聞こえはいいが、実のところ、エレンが変な気を起こさないための監視役である。
2人は馬を走らせ続け、ようやくカルドまで辿り着いた。そんな2人を一番に出迎えたのは、狩りに出ようとしていたダンとカレンの兄妹であった。
「エレン!」
エレンの姿を見るなり、カレンが叫びながら駆け寄ってきた。エレンは馬の背から降りると、カレンの体を強く抱きしめた。
「カレン・・・」
「よかった・・・ねえ、何があったの?みんな、あなたの話題で持ちきりよ」
「うん・・・それについては、おいおい話す。ただ・・・今は、疲れてる・・・・・・」
「そ、そうか。とりあえずうちに来い!カレン、何か食う物を!」
こうして、ダンとカレンに半ば引きずられる形で、エレンは居候先の2人の家に戻った。そこでカレンが用意してくれたパンと野菜を食べ、水を何杯もおかわりすると、エレンは倒れ伏すように眠りに落ちた。
丸一日眠り続け、起きたのは翌日の昼過ぎであった。エレンは村長のジョセフのもとを訪ね、兄2人が戦死したこと、そしてアルフォードの家督を継承することになった旨を告げた。
「そうか・・・ゴールとルーカスがな・・・」
「はい・・・2人とも、まだまだ先がある命でした。本当に・・・残念です」
肩を落としながら言ったエレンに、ジョセフは努めて明るい表情で言葉をかけた。
「しかし、お前さんもよく、ネルソンの後を継ぐと決めたな。この村にとっちゃ誇らしいことだぞ、何せ宰相が2人も生まれたということになるからな」
「はあ・・・そこでなのですが、村長殿に相談があるのです」
「おお、何でも言え。できる限りのことは、協力するからな」
エレンはそんなジョセフを頼もしく思うと同時に、これから口にすることに対する申し訳なさで、表情をより一層暗くした。
「実は・・・父から命じられたことがあります。この村から何人か、頼りになる者を城に連れて来いと」
――それは、エレンが城下に戻る準備をするため、カルドに帰ろうとしていた時のこと。屋敷で出立の支度をしていたエレンに、ネルソンが声をかけてきた。
「ここに戻ってくるときは、カルドの村人の中から数名、頼りになる者を連れて来い。その者たちが、お前にとっては心強い味方となるはずだ」
「はっ・・・分かりました」
エレンも、それに関しては異存はなかった。これから城で仕事をするにあたって、父とは違う味方が欲しい。そう感じていたところであった。
「そうか・・・確かに、味方は多いに越したことはないが・・・」
「はい・・・この村の若者を連れて行ってしまうことは、大変申し訳なく思っております・・・」
心から申し訳なさそうに、エレンはジョセフに声をかけた。しばらく重い沈黙が流れたが、ジョセフが意を決したように声を上げた。
「分かった。これもお前さんのためだ。好きな連中を連れて行ってくれ」
「・・・!ありがとうございます、村長殿!」
「ただし、その連中にはお前さんから声をかけてくれ。俺から声をかけるというのは、筋が違う気がするからな」
その夜。エレンはダンとカレンの家に、村人の中でも特に親しい者たちを集めた。家にやってきたのは、カイル、エミル、デイン、マミヤの4人。エレンはダンとカレンを含めた6人に、エルドラ軍がラダンで敗北したことと、兄2人が戦死したこと。そして、自身がアルフォードの家督を継承することになったことなどを、包み隠さずすべて伝えた。
「嘘・・・だろ・・・?負けたのか、うちの国は・・・?」
誰よりも兵士にあこがれていたカイルが、呆然としながら声を上げた。
「ああ・・・信じたくないかもしれないが、我が国の惨敗だ。アルフォードの家も、ゴール兄上とルーカス兄上を失い、俺が家督を継がざるを得なくなった。そこで、みんなに相談がある。・・・俺と共に、城に来てくれる者はいないだろうか」
「城に・・・?つまり、この村を離れて、ってことか?」
確かめるように尋ねたダンに、エレンは重々しくうなずいた。
「ああ。父上の後を継ぐとはいっても、俺はあの人のことを、心から信頼する気にはなれない。つまり、半ばこの身一つで、城に戻るということになる。・・・そんな時、味方が1人でもいてくれれば、この上なく心強い」
そこで一旦言葉を切ると、エレンは改めて仲間たちの顔を見渡して続けた。
「もちろん、強制する気はない。この村を離れるというのは、みんなにとっても重い決断だ。よく考えたうえで、それぞれ答えを出してほしい。俺は2日後には、この村を発たねばならぬ。それまでに、ついて行ってもよいという者は、俺に声をかけてくれ。村長殿の許可は、すでにもらっている」
あとは、彼らが決めることだ、とエレンは思った。この場は一旦解散にしようと思ったその時、カイルがエレンに言葉をかけた。
「お・・・俺は行くぞ、エレン!城で仕事ができるってことは・・・兵士になれるかもしれないってことだろ!?」
「カイル・・・」
「エレン、俺の夢、知ってるだろ?俺は兵士になって、戦場で手柄を上げて、いずれはこの国の将軍になりたいんだ!これは、その夢を叶えるまたとない機会!エレン、俺を連れてってくれ!頼む!!」
拝むように頼み込んできたカイルに、エレンの方が少し慌てた。するとカイルに続くように、エミルが落ち着いた口調で言った。
「僕も・・・城に行きたいと思います。昔から、この国の役人になりたいと思っておりました。それが実現するかは分かりませんが、役人のどなたかの弟子になって、勉強させていただければと思っています」
「エミル・・・そうか。ありがとう!」
エレンはエミルに礼を述べると、カイルにも感謝の言葉を告げた。
「カイル、お前にも礼を言う。ついてきてくれるなら、これほど心強いことはない」
「おお!お前のことは、俺がしっかり守ってやるからさ!」
弾けるようなカイルの笑顔につられて、エレンも思わず笑みを漏らした。こうして2人同行を願い出たが、全ての者がそれに続いたわけではない。
「すまんがエレン、俺は行けん。俺には、この村でやらねばならんことが、たくさんあるからな」
「デイン殿・・・」
「ごめんなさいエレン、私も行くことはできないわ。私もデインと同じように、ここでの暮らしを守らないといけないから」
「マミヤ殿・・・いえ、お2人には、お2人の暮らしがあります。話を聞いてくださり、心から感謝いたします」
エレンが深々と頭を下げると、デインとマミヤは申し訳なさそうな表情で去っていった。エレンは2人を見送ると、ダンとカレンに視線を向けた。
「2人は・・・どうする?」
「どうするって言われても・・・・・・エレン、お前は俺たちにどうしてほしい?」
ダンの問いかけに、エレンはすぐに返事ができなかった。しかし彼は意を決すると、ダンの問いに答えを返した。
「・・・本音を言えば、2人には城に来てほしい。2人は俺にとって、もう1つの家族のような存在だ。・・・だが、2人にもここでの暮らしがある。それを守りたいというのなら、俺はそれに反対するつもりはない」
「・・・本当に、それでいいの?」
と、その時であった。今まで一言も発しなかったカレンが、様々な感情が宿った声でエレンに問うた。
「本当に・・・あんたはそれでいいの?」
「カレン・・・?」
エレンが彼女の名を呼んだ次の瞬間、カレンは目に涙を浮かべながらその場から走り去っていった。エレンは突然の事態に驚きながらも、すぐに彼女の後を追い始めた。
「カレン・・・カレン!」
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