第二十話:異世界での住居について話し合います。
インテリアとか、改めて考えてみると難しいですね。
食堂でお昼を食べた後、私は美雨たちと一緒に応接室に移動しました。初めてここに来た時に通された部屋ですね。多分。確信はないけれど、印象が似てます。幾つか、やって来る客人の応対について指導を受けながら待つことしばらく。9つ目の鐘が聞こえてきて、建築屋さんが来ました。ちょっと気難しそうな壮年の男性と、若い男の人と2人です。メイドさんに案内されて姿を表した彼らに、私達はソファから立って向かい入れます。
「ようこそ、いらっしゃいました。僕達は今期の英雄・聖女候補です。僕はハヤト・トヨサキといいます」
「ミウ・ハヤマです」
「ソウジ・モトマチです」
「わたしはアカリ・ヨシダといいます」
「ナルミ・カドワキです」
「私は、アレンとお呼びください」
一瞬迷って、結局あだ名を使います。それに彼らは一瞬で目の色を変えました。品定めした様な、そんな目。人の顔色を伺うような繊細な神経は持ってませんが、目の前でやられると気付くものですね。無遠慮な観察する視線に、ニコリと笑います。何とでも思ってください。私には然したるダメージではないわけですし。数秒にも満たない時間だったかもしれませんが、随分と長く感じました。
「お待たせして申し訳ございません」
口を開いたのは壮年の男性。軽く頭を下げました。
「ヴォイノフ建設商会、会長のロマン・ヴァン・ヴォイノフ。気軽にロマンとお呼びください」
「同じく、ユリアン・ボン・スハノフです」
壮年の男性に続いて、若い男の人も名乗ります。先に聞いていた名前なので、一回で覚えられました。ヴォイノフさんとスハノフさん。……何処の国の音だろう。ロシア? それとも北欧の方かな。
隼が座るように促して、対面します。ヴォイノフ建設商会は王族にも認められた商会で、光代さんたちの住んでる宿舎の建設も彼らが請け負ったとか。難しい注文の建物を、新しい技術を使って異邦人が納得できるレベルで作った。その功績が認められ、準男爵だったヴォイノフ家は陞爵されたとか。今は子爵だそうです。
「まず、ウチで作る建物の特徴について説明させてもらいます。ただの木造でも、レンガ造りでもない建物です」
自信満々にヴォイノフさんは言います。
「外壁と内壁で二重構造にしてあって、その間には特殊な建材を使っています。想像しにくいと思うが、一番近い言い方は泥ですかね。勿論、泥のまま使うなんてことは無く、乾けば家の強度をしっかち保てる強靭な壁になります」
「それってつまり、コンクリートってこと?」
「あー……、それがなんだかはわかんねぇが、似たようなものを知っていらっしゃる、と」
話の腰を折った美雨に、ヴォイノフさんは若干困った顔をしました。建築に使う素材がどうとか、その辺りは判らなくても家を建てるのに使う泥って言われたらコンクリート以外はないでしょう。こっちの世界でも類似品か、同じものが開発されているんですね。それとも、持ち込みかな?
「建築に使う泥ってコンクリートくらいだよね」
「ああ、たぶん。じゃあそのコンクリートがどういうものなのかは、よくわかんないけれど」
「コンクリートは砂や砂利を混ぜたものに、水と接着剤となる物質を混ぜ、冷やし固めたものだよ。確か」
私の説明に、へぇ、と美雨は興味なさそうな声を出します。某ブロック世界ゲームの動画を投稿している人がそんなことを言ってたと思います。アップデートでコンクリートと名前の付く建材が出てきて、それを使いながら簡単に解説してました。まぁ、専門的な話は全く分からないんですけれど。
「はぁ~……、よくご存じで」
どこか、嫌そうに。ヴォイノフさんは感心してる風にいいました。
「異邦は技術が進んでいるとは聞き及んでいますが、博識なのですね」
「専門とされている方からすれば、私の知識なんて粗末なものですよ」
この返しは嫌味だったでしょうか。それでも表情は崩さないからすごいですね。流石、商人なだけはある。
「おそらく、皆さんが思い描いているものとほとんど同じものでしょう。外壁と内壁の間にその素材……ウチではカークルと呼んでます、それを用いることで、部屋の気密性を高め、丈夫な家を建てることができます」
「コンクリート造りの家なら安心ね。隙間風とかの心配もしなくて良さそう」
「気に入っていただけたなら僥倖です。では、早速どのような住宅を希望されるかお伺いさせていただきます」
成美の言葉にヴォイノフさんは機嫌良さそうに頷きました。それに一番最初に口を開いたのはやっぱり美雨です。
「えっと、アパートみたいな感じがいいね、ってみんなで話してたんです。いくつか部屋がある集合住宅。6部屋なら2階建てかな。キッチンとリビング、あと、お風呂とかの設備があって、部屋は二つあったら嬉しいです」
「ふむ……。小さな家が複数まとめられた大きな建物、と考えるのが筋か?」
机の上に紙を広げると、ヴォイノフさんは早速そこに図案を書き始めました。まずは間取りから決めるようです。
「リビングとは別に部屋が二つ……。大きなリビングと小さい部屋が別にあるイメージでしょうか」
「元の世界では玄関から廊下があって、そこから各部屋に入れるようになってました」
首を捻る様子に宗士が横からアドバイスしました。なるほど、と頷いてすぐに図案が書き直されます。流石に手早い。すぐに見慣れた見取り図になりました。でもこれだと水回りがありませんし、玄関も上がりがないので土足になりますね。
「靴脱ぐスペースがないと」
「ああ、確かに。靴を脱ぐスペースを玄関に作って欲しいです」
「かしこまりました。すると……、部屋のサイズを少し小さくして、廊下の位置を調整しましょう」
「この壁際の空いたスペースがトイレっていう感じかしら。玄関先にあることが多いし」
「なるほど、なるほど。あと、風呂のスペースをご所望でしたね。ここに作りましょうか」
「脱衣所があると嬉しいわ」
「では風呂場のサイズはこれくらいでしょうか。ドアの位置はこのようにしましょう」
「妥当って感じだな」
「不動産屋さんでよく見る間取りって感じになったね」
「あ、そうだ。ウチ、ウォークインクローゼット欲しい。ほら、ドレスみたいな服、たくさんもらったじゃん?」
「確かに、しまっておける場所は必要ね」
「服をしまっておける、専用の部屋が欲しいです」
「それならこちらの部屋を寝室にして、それに直接つながる形で、このように作りましょうか」
「なら、この部分に、こっちの部屋の収納が欲しいです」
「かしこまりました、ではこの部分は開けておきましょう」
「あと、欲しい部屋とか必要な設備とかあったか?」
「玄関に余裕ありそうだから下足室とか?」
「下足室?」
「靴脱がないで入れるクローゼット的な」
「ああ、それはありだな。玄関にこう、間仕切りって入れられますか?」
「もちろん。他にご要望はございますか?」
ある程度整って、ヴォイノフさんは一旦区切りしました。それに私達は揃って考えます。一人暮らしでこれなら十分すぎるっていうか、むしろ余すくらいの家だなぁって思うので、私的には満足ですが。
「あたし、ロフトのある家に住んでみたかったのよね」
「ロフトって、何置くんだよ」
「推しグッズ詰め込みたかった」
「こっちの世界でそれは無理だろ……」
「わかってるわよ。でも、ロフトがあったら何かと便利じゃない? 収納増えるし」
「確かに。こっちの部屋を物置とかにするなら、物を置けるスペースは広い方がいいよね」
「アクセサリー関係とか、貴金属類とか、ロフトに展示室みたいな感じで置いたら素敵かも!」
「上層部だからパッと見で人目に付かないって考えると、それはありだな」
ロフトについて喋る美雨たちに、ヴォイノフさんは微妙な顔で黙っています。ロフトがなんだかわかってないみたいですね。えぇっと……、ロフトについても動画サイトにあった変わった間取り紹介動画でちらっと見たんだよな。……私の知識ってほとんどがあの動画サイトからだな……。
「床面積が直下の階の1/2未満、天井高が1.4m以下の上層階のことです。上り下りするための専用のはしごが取り付けられています。元は屋根裏を利用する為に考案された、とかなんとか……」
「ふむ……、2階建てではなく、部屋の中に階層を作るということか……?」
伝わったのか、伝わらなかったのか、微妙な反応ですね。でもイメージは何となくついたらしく、ヴォイノフさんは新しい紙に描き始めます。少し待てば、どうやら立体的な部屋のイメージ図みたいです。
「わっ、すごい」
「今の説明でちゃんと伝わるんだ」
描き上がったものを見れば、現代人なら誰もが想像するであろうロフトがある部屋です。彼のイメージでは部屋の出入り口の上に取り付けるみたいですね。確かに日光を取り入れるならその方がいいのかもしれません。こういうののセオリーがどうなっているかを知らないので、これが正解かどうかはわかりませんが。
「落下防止用に柵を取り付けるか、ここは完全に壁にしてしまうか、どちらがよろしいでしょうか」
「柵にしてください。下の階が見えた方がぽくていい」
「かしこまりました。では、この上層階をこちらの部屋に取り付けるということで」
「お願いします」
出来上がった間取り図は、ちょっと豪華な2LKって感じです。家賃高そう。元の世界だったら真っ先に候補から外れますね。
「では部屋についてはこれくらいで、我が商会では内装も同時に承っております。各個人の好みに合わせた家具を用意いたしますので、お一人ずつユリアンにご相談ください」
ヴォイノフさんがそう言うと、スハノフさんは姿勢を正しました。改めて頭を下げます。
「改めて、ヴォイノフ建設商会で家具の販売を任されています。ユリアン・ボン・スハノフです。気軽にユリアンとお呼びください」
人好きのする笑みを浮かべて、数冊の本を差し出してきました。どうやら、カタログみたいです。寝具、収納、椅子や机、その他の小物でそれぞれまとめたもののようです。人数分、とまではいきませんが、3冊ずつ用意してくれていますね。
「まずは、内装のイメージをしやすいよう、うちで取り扱った家具の一覧をご覧ください。ご自身が使いたいと思う形のものを新しくデザインいたします」
「完全オーダーメイド……」
「カタログがあるなら、その中から選ぶのでいいんだけれどなぁ」
「それじゃあ恰好つかないんだよ。私達は王族に並ぶ身分の人間になる訳だから、身の回りのものは他の誰とも違うもので揃えるの。それが流行になることもあるし」
「へぇ~」
よくわかってない顔で明香里は頷きます。まぁ、基本となる規格があって、それに従って作られた物の中から選ぶのが常の世界でしたからね。オーダーメイドなんて余程じゃない限りやったことなんてないのが普通でしたから。世界の違いがこういうところで出るのも面白い物ですね。
明香里と一緒に、机や椅子のカタログを覗き込みます。ソファや一人掛けの椅子、ゆらゆらゆれる椅子もありますね。流石に回転いすはないみたいです。まぁ、あったらびっくりなんですけれど。
机のレパートリーはそんなになくて、大きさと形が違うくらいしかありませんね。それに卓袱台みたいなものはありません。座椅子みたいなのもないですね。生活の基本が椅子に座る感じだから仕方ないでしょう。地べた生活、したいなぁ……。実家がこたつ机に座椅子だったから、できれば自宅はそれで行きたい。
「このソファ、素敵だね」
「うん、私も好きだな」
「これ部屋に置きたいな。低いガラステーブルに、レースのクロスかけて、その上にお花を飾るの。ゆったりスペースでのんびりテレビ見るとか」
「いいね。でもテレビないよ」
「そうだった……!」
冗談みたいなことを言いながら笑って、カタログを見て行きます。最初は美雨がスハノフさんに相談を始めるようです。時間かかるだろうなぁ。美雨はオシャレさんだから、こだわりも強いし。その分、私達も個人で悩みましょうか。いろんなカタログを見ながらイメージを膨らませていれば、隼に声をかけられました。どうやら、美雨、明香里、成美の3人は相談を終えたようです。こういうところでさりげなく譲ってくれるからポイント高いんですよね。
「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします」
「早速、どのようなイメージで作りましょうか」
見事に挨拶を無視されました。王家に認められてるんだからちょっとは隠せよ、差別心。
「そうですね、できれば自分の慣れ親しんだ生活様式がいいので、床に直接座れるような感じにしたいです。なのでリビングを覆えるくらいの広いカーペットがあると嬉しいです」
「…………。なるほど、では、机は低いものをご用意しましょう」
「あと私の世界には、座布団や座椅子というものがありまして、端的にいえば座る時に敷くクッションや、脚をなくし、代わりにカバーをかけた椅子です。それらを机と組みにして頂きたいです」
「足のない椅子……」
イメージし辛いということでしょうね。難しい顔をしながら、イメージ図を描いています。
「これをそのまま床に置くということでしょうか」
「ええ。床を傷付けないために、それに布や皮でカバーをかけて、ソファみたいにしてあったりもしますね」
「なるほど」
流行らないだろう、と思ってるのがよくわかります。それが流行るかどうかは商会の腕でしょうが。私は私の生活の為に欲しいものを言ってるだけですよ。
「あと、リビングとキッチンの間に棚が欲しいですね。胸元辺りまでの低めのもので、天板に防水などの加工がされていると嬉しいです」
「低めの棚、ですか。何を収納されるつもりで?」
「ティーカップや、茶葉を保管する缶などを。あと、紅茶を淹れる為の道具などを収納しておきたいんです。キッチンカウンターが欲しいんですけれど、どうせならそこも収納にしてしまえば空間を活用できると思いましたので」
実家でそうなってたんですよね。元々本棚だったのをDIYして、キッチンカウンターに変身させたんですよ。これがまぁ、使い勝手がよくて。こっちの世界で個人の部屋があって、キッチンを付けてくれるなら自分でも料理できるわけじゃないですか。そしたら、やっぱりあの便利さは手放せないなと。できた料理を逃がしたりしておくのに非常に便利だった。それに基本が床に座っての生活だったから、収納位置が低くても湯呑とか取り出すのに全然問題なかったし。
「かしこまりました。他に何か、必要なものはございますか?」
「食器棚が必要かな。それ以外なら本棚が欲しいです。リビングと、洋室にそれぞれ一台ずつ。リビングに置くものはさほど大きくなく、洋室には大きめのものを。ひとまず、リビングに関しては以上で」
「では次に寝室ですね。ベッドは王家から指定されたものがございます。それをご使用いただく形になりますのでご了承ください」
他の皆にも言っていましたね。なんでベッドだけは王家の指定が入るんでしょうか……。まぁ、何か、私達には判らないしきたりとかあるんでしょう。月影の君がなにかやって、それから王家が指定するようになったとか? ……あり得そう。彼女の破天荒ぶりは方々に影響を与えたみたいですし。
「わかりました。ではそれ以外のものですね。クローゼットはウォークインがあるから……、ドレッサーですかね。あとベッドの脇にサイドボードが欲しいです」
「他には?」
「簡易的な机があれば嬉しいですね。軽くて、移動しやすいサイズのもの。それとその机に合わせた椅子も。こっちはちゃんと脚があるものをお願いします」
「かしこまりました」
実家の寝室はベッドと荷物を置く棚があるだけだったからなぁ……。クローゼットは弟が買い集めた変身ベルトがみっちり詰まってた。お陰で、着替えとかは全部別の部屋に集約されてたんですよね。今思うと可笑しいな?!
「寝室は以上ですか?」
「はい。洋室にはタンスが欲しいです。高さと形の少し違うものを2台。それから、小さめの棚が欲しいです2段か、3段の、積み上げられる形のものを。3つ程」
「タンス、は引き出しのみの棚のことでね。かしこまりました。他には?」
「……いえ、今のところはこれで大丈夫です」
カラーボックスは後で増やすのも難しくないでしょうし。ある程度生活になれたら、個人の資産も増えてくるでしょうし。家具はそれから増やすっていうのも手ですからね。スハノフさんにお礼を言って、隼に次を譲ります。
「キッチンカウンターとか思い付かなかった。ウチも欲しいかも」
「2人の相談が落ち着いたら改めてお願いしてみれば?」
「そうする」
「あ、わたしも。カーペットお願いするの忘れちゃったし」
「先に欲しい家具とか、メモしておけばよかったわね」
「確かに」
ひそひそとお喋りしながら待ちまして。隼と宗士も満足するようなインテリアをお願いできたみたいです。後から思い付いたものを追加でお願いして、スハノフさんとの打ち合わせはこれで終わりになりました。ヴォイノフさんはその間、何もしていなかったわけではないみたいです。外観のスケッチをしていたみたいですね。2階建ての建物で、各階に3部屋ずつ。コの字に組まれていて、中央部分に階段が備え付けられてるみたいです。外観も中々オシャレで、小さいお城と言われて納得してしまう感じです。
「わぁ、素敵!」
「おしゃれじゃない」
「わたしもすごく好き」
一斉に声を上げた女子達に、ヴォイノフさんは満足そうです。
「では、外観はこのように。部屋はこちらの間取りで、内装は皆さまからお伺いした家具を揃えさせていただきます」
「はい、お願いします」
隼が上機嫌に言って、商談は終わりました。まぁ、個人的には不安要素はいくつかあるんですけれど。それでも自宅となる家ができるというのは心が躍りますね。とても楽しみです。完成までは2週間程だそうです。普通、家を建てるのって半年とかかかると思うんですけれど、魔法を使いながら作業をするらしく、そのおかげでかなり工期が短縮できるそうです。乾かさなきゃならないとか、定着するまで待たなきゃいけないとかが、魔法で数時間もかからず終わらせることができるからでしょうか。魔法ってすごい。そういうわけで、私達は自宅を手に入れることになりました。




