第二十一話:異世界の道具は魔法で動くらしいです。
魔法で色んな電化製品を扱えるなら、今、起きてる電気エネルギー問題って起きないで済むのかなぁ、なんて夢みたいなことを考えてしまいます。
まぁ、それはそれでなにかしら問題が起きたりもするんでしょうけれど……。
翌日。
今日も外部の商会を呼んで、商談があるそうです。午前中は魔道具を専門で取り扱っている商会。午後は衣服を専門で取り扱っている商会。ちなみに明日も予定が詰まっているそうです。聞いてないよ……。まぁ、国王陛下としてはみんなから話が通ってると思っていたのでしょう。情報伝達に関しては、私含めて全く信用ならないので、こういうことが稀によくあるんですよねぇ。気を付けよう。って、何回思った事か。
それはともかく。今日は予定があるからメイドさんたちに叩き起こされたみたいですね。眠たそうなみんなと一緒に朝食を食べて、昨日と同じ応接室にやって来ました。4つ目の鐘が鳴る頃に、商会の人が現れます。人の好さそうな笑みの老年の男性と、菫色の髪が美しい若い女性です。昨日と同じように私達が先に名乗ります。
「ご丁寧にありがとうございます。ワタシはウェルズ魔道具店、代表のゴドフリー・ヴァン・ウェルズといいます。こちらはコンチータ・ヴァン・ウェルズ。ワタシの孫娘です」
ウェルズ家の爵位は伯爵。良質な魔道具を作る才能に恵まれた一族だとか。自身の領地は持っていないようですが、他の領地で抱えている鉱山で取れる魔石を使って代々魔道具を作って来たとか。王都と辺境伯の領地四か所、合計五か所にウェルズ魔道具店の店舗があるそうです。その功績的に、領地持ちの侯爵くらいの爵位があってもいいそうですが、領地運営するよりも魔道具を作っていたいという無欲な方が当主に選ばれ続けたらしく。お陰で爵位は上がらないものの、王家が信頼する一族ということで良好な関係を築き続けた家だそうです。うーん、いるよね。好きなことだけずっとやってたい人。
その所為でしょうか、お2人とも私が家名を名乗らなかったのに何も反応しませんでした。差別心が薄いのか、単純に興味がないだけか。判断はできませんが、彼らは信用に値する気がします。
「今日は、皆様が離宮で生活するにあたって必要になるであろう魔道具についてご説明と、皆様がご利用したい魔道具について聞かせていただきます」
「はい、お願いします」
大分慣れた様子で隼が頷きました。見やすいように広げられた資料には、色んな魔道具が並んでいます。見た目は完全に、魔法で動く電化製品ですね。電源コードがない分、すっきりしてます。
「一つずつ説明いたしましょうか。それとも、既にご存じのものがございますか?」
「ほとんど見たことがあるものですね。電化製品は僕達の身近にあったものでしたので」
「なるほど、こういった道具が広く普及している世界というわけですか。異邦は本当に技術の進歩が速いですね」
全く気分を害した様子もなく、ゴドフリーさんは言います。それぞれの魔道具がどのような物なのかの説明は省くようです。知っているものについて教えられても私達も困るので、この対応はありがたいですね。
「では、こちらに揃えてある魔道具以外に、何かご所望の品がございますでしょうか。こちらの世界に存在していないものでも構いません。再現できそうなものであれば、誠心誠意、作らせていただきます」
丁寧に言ったゴドフリーさんの言葉に、私達は改めて資料を見下ろします。ランプ、キッチンコンロ、冷蔵庫、給湯器、ドライヤー、冷風機など、明らかに電化製品とわかるもの。そのほか、身を護る防犯グッズみたいなものや、細々としたアイテムが並んでいます。
「あと他に何か、必要だとしたら……。なんだ?」
「洗濯機はあった方がいいと思う」
「いや、こういうドレスとかスーツみたいな服は洗濯機じゃ洗えないでしょ……」
「普通の洋服みたいなのも揃えられるかもしれないだろ。そしたら、洗濯機があった方がよくないか?」
「そうね。洗濯機は必要だと思うわ」
まぁ、確かに三種の神器なんて言われてた電化製品の一つですからね。洗濯機がない家ってあんまり考えられないというか……。洋服が手に入るなら、確かに洗濯機はあった方がいいですね。着させてもらえるかはまた話が別ですが。
「僭越ながら、そのセンタクキという物についてお聞かせ願えますか?」
「あ、はい。服を自動で洗ってくれる電化製品です。えっと、箱の中に、筒みたいな入れ物があって、それが回ることで汚れを落とす、というか」
「ただぐるぐる回すんじゃなくて、不規則に左右に回すことで、手洗いしてるときみたいにするんです。洗剤で洗って、水で濯ぐ、までを自動で行ってくれます。物によっては、筒の中で風を回して乾燥まで行ってくれるものもありますが」
「なるほど、自動で洗濯を行う魔道具ですか。水の供給や排水方法はどのように?」
「供給については水道管から、ホースを取り付けて自動で入る様になってます。排水に関してもホースが取り付けられてる感じです」
「なるほど。タイミングを計って自動で水門が開くようにすればいいのか」
目の色が変わりました。自分の知らない道具について、興味が沸いて、作ってみたいとでも思っているのでしょう。隣でコンチータさんが一生懸命書き取りしてます。洗濯機のスケッチでもしているんでしょうか。
「だがそのタイミングを計るのが難しいな……。一定の時間が経ったことをどうにかして感知できるならいいが……」
「そう言えば、時計ってないんですか? 目覚まし時計とか欲しいんですけれど」
「……トケイ、でございますか?」
「あ、はい……。時間を計るための道具」
「これです。えっと、腕時計ですけれど」
宗士が思い出したように腕時計を外しました。シンプルなアナログ時計です。そういえば、宗士は毎日時計してたな。常に身に着けてたから、持ち込めたのでしょう。私もバッグに懐中時計付けてたんだよなぁ。アニメのキャラが持ってるのを再現したグッズだったけれど。
「見せて貰っても?」
「もちろん」
興味津々。ゴドフリーさんは宗士から時計を預かって、様々な方向から眺めます。
「おじい様に代わって、私から続きを案内させていただきます」
ゴドフリーさんが職務放棄したからか、呆れたようにコンチータさんが後を引き継ぎました。
「他に必要な魔道具や新しく欲しい魔道具などはございますか?」
「冷風機はあるみたいですけれど、暖房はないんですか? 部屋を暖める魔道具」
「この国は比較的温暖な気候で、年中で気温の変化はほとんどありません。夏には多少、気温は上がりますが、冬はコートが一枚必要になる程度にしか気温は下がりません。建物の中は室温が一定に保たれる魔法が張られるので、部屋を暖める魔道具は存在していませんね」
「へぇ、そんな便利な魔法があるんだ」
「なら冷風機も要らない気もするけれど……」
「一定に保つって言っても少しは影響するんじゃない?」
「なるほど……」
最高気温が30度なら冷房は欲しいですけれど、最低気温が20度くらいなら、暖房は要りませんしね。国の天候事情を考えると妥当なことでしょう。四季がはっきりしない国なんですね。ちょっと寂しいかも。
「他に何か思いつく? あたし、他は何も思い付かないけれど」
「わたしも」
「オレも他には思い付かないな。普段、意識して使ってたわけでもないしなぁ」
「確かに。電化製品って、無いと不便だけれどあると気にしないから意識に残らないよね」
「では、何か欲しいものがありましたら、都度ご連絡いただくということで。こちらもその都度対応させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
割とあっさり、柔軟な対応をしてくれますね。こういう時の対応の仕方がまた、人気の魔道具店の理由だったりするんでしょうかね。
「いやはや、失礼いたしました。ソウジ様、貴重な品をお貸し頂きありがとうございました」
「いえいえ、参考になったならよかったです」
満足したのか、ゴドフリーさんはちょっと気恥ずかしそうに時計を宗士に返しました。きっと分解して調べたかったんだろうなぁ、って思います。外から見ただけじゃ構造なんてわかりませんからね。
「今回はこちらの魔道具の納品と、センタクキの開発ということで間違いないでしょうか」
「はい、それで大丈夫です。あとで欲しいものが出てきたら連絡すると思います」
「かしこまりました。その時は誠心誠意、対応させていただきます。では、お一人ずつデザインについてご希望を聞かせていただきましょう」
ここからはまた個人の時間のようです。コンチータさんが取り合うのかと思ったら、ゴドフリーさんが聞くそうで。デザイン関係は女性が強いから連れて来たのかと思ってました。そうじゃなく、もしかしたら勉強のために連れてきたのかもしれませんね。
黙々と手を動かしているコンチータさん。洗濯機を開発するにあたって、今思い付くことを書き留めてるのかな。じっと手元を見ていれば気付いたように顔を上げました。ジロジロみられて嫌だったのか、と思ったらそういうわけではなさそうで。
「このようなイメージでしょうか」
あっさり描いていたものを見せてくれました。ラフ画のような絵に、いろんな走り書きがついています。水を引き入れるホースだとか、排水するための機構だとか、既に色々考えられています。その文字を目でざっと追えば、私達の知識の中にある洗濯機と然して変わらない物が出来上がりそうです。プロってすごい。
「そうですね。中の水が飛び散らないように上部には蓋があって、作動中は間違えて開けて終わないように鍵がかかる仕様になってました」
「なるほど……。これは中の振動を感知して作動する仕様にすればよさそうですね。他に、何か機能がついていたりしましたか?」
「そうですね、上面のこの、手前の部分にボタンがありました。洗濯する衣類の量によって使う水も洗剤も違うので、それを指定するものとか、どれくらいの長さ水で濯ぐか、とかそいうのを細かく指定できましたね」
「……皆さまの世界の道具は、随分と細やかな操作が可能なのですね」
「そうですね。記録媒体の発展によるものですかね。膨大なデータを記録できる媒体の開発によって、電化製品の質や機能が向上しましたから」
「記録媒体……。そっか、効果や効用を指定する魔法陣と実際に動かすための動力部を切り離せば、その分指定の魔法陣を書き込める……!」
パァ、とコンチータさんは顔を明るくします。間違いなく、好きなことには全力出せるタイプの子ですね。余計なことしてないで、自分が使える時間の全部を魔道具作りに充てたいっていう。
「魔道具作りが好きなんですね」
「はい、とても!」
素直な賛辞に、コンチータさんは一番の笑みを浮かべて答えました。眩しい笑顔。これでもかとおじい様譲りのエメラルドの瞳を輝かせています。魔法の研究をしてるときのリリーと同じ表情です。
「特に異邦の方が知る道具は全て興味深いものばかりで……! こちらの魔道具はほとんどがおじい様が今の英雄様や聖女様からお話を伺って作り出したものなんです。その構造も、発想もどれも素晴らしくて、私は幼心に瞬時に心を奪われてしまいました。その内、おじい様みたいに異邦の方が知る魔道具をこの手で作ってみたい。再現して、実際に使って頂いて、喜んでいただきたいというのが私の夢で、その為に今日もおじい様にわがままを言って同行させていただいたのです!」
「そうなんですね」
オタク特有の早口! 本当に好きなんだなぁ。隣で成美が「熱量がヤバイ」と呟いてるのが聞こえました。推しの話してる時の君の大概だよ。
「コンチータ、異邦の方を困らせるんじゃないぞ」
「あっ! も、申しわけございません! 私ったらつい……」
「いいんですよ。好きなことを好きなように語ってる人、私は好きですから。むしろもっとお話を聞きたいくらい」
「……あ、ありがとうございます」
「なんとも寛大なお言葉、流石、次期聖女候補であらせられるお方だ。では、アレン様が最後になりますが、魔道具の意匠についてご意見をお伺いさせていただきます」
やんわりと仕事の話に戻されました。っていうか、もう最後なんですね。コンチータさんとお話するのが楽しくて聞き逃してました。
「形を大きく変えることはできませんが、色や大きさについて、ご希望はありますか?」
「そうですね。キッチン関係のものについては、こちらにある通りのものでお願いします。冷蔵庫は標準的な背丈のものを。冷凍庫は存在していないんですか?」
「それは、一体どのようなものでしょうか?」
「ああ、ないのか……。物を凍らせておくための箱ですね。冷蔵庫よりも、内部温度がずっと低いものです。氷を保存できるくらいに」
「ふむ、そういった魔道具は存在していませんね。新たに開発致しましょう。氷を保存しようという発想は有りませんでしたな」
「そうなんですね。ああ、冷蔵保存できるなら、大抵のものは問題ないからか……」
氷も、さほど使わないのでしょう。氷が絶対に必要になるような料理とかもないわけですし。でも冷凍庫は欲しいんですよね。冷蔵より長めに保存できますし。それがあれば氷菓ができるかもしれませんしね。アイスクリームとかシャーベットとか食べたいよ。
「では、開発ができ次第、ご連絡差し上げます」
「はい、お願いします。では今回は冷蔵庫だけ、標準的な物をお願いします」
「かしこまりました。キッチン用品について、他に何かございますか?」
「ミキサーもフードプロセッサーも使わないし、炊飯器は時計ができないとどうにもならないかな……。はい、大丈夫です。必要になった時にお願いしたいと思います」
「では、そのように……。とても気になるので、必要になる日があれば嬉しゅうございます」
「あはは、はい。そうですね」
余計な事を言ったらしいです。流石、魔道具作り一直線の一族の長だけはありますね。隣のコンチータさんも興味津々な目をしています。うん、いつかね。洗濯機と冷凍庫についての目途が立ったらかな。
「キッチン用品については以上で、ドライヤーは軽いものをお願いします。長時間使ってもあまり疲れないもの」
「ふむ、重量を軽く作ろうとすると、出力が上がらず、結局長い時間使うことになります」
「そういう相関関係なのか……。……いえ、問題ありません。出力が高いから早く乾く、というわけでもないですし。使うのはメイドですから、彼女の負担が少ない方が嬉しいです」
「なるほど、かしこまりました。では、比較的重量の軽いものをご用意いたします」
ちょっと前に、こっちの世界で使ってるドライヤーを持ってみたんですよね。あれ、びっくりするくらい重いんですよ。元の世界みたいに中にコイルとか電子基板とかがあるわけじゃないのに。きっと内臓の魔石の重さなんでしょうけれど、大きさによって出力が変わるっていう感じなんでしょうかね。なんにせよ、あれを毎日使って髪を乾かしてくれてるなんてちょっとどころじゃなく忍びなくて。でも使わないわけにいかないなら、できるだけ負担は減らしてあげたいじゃないですか。
「あとは、卓上ランプと背の高いランプが欲しいですね。卓上は、明かりを中心に籠みたいな形になっているデザインのものはありますか?」
「籠ですか。いえ、そのような意匠のランプはありませんね。持ち運びしやすいもの、でしょうか」
「そうですね。片手で持てるサイズのランプがいいです。それから、机の上に置いて動かさない通常のランプ。背が高いものは寝室のベッド脇に置いておきたいです」
「かしこまりました。籠状の片手で持てるもの、卓上のしっかりとしたもの、それからベッド脇に置いて置ける背の高いものですね」
ササッとその場で書かれたラフを見せていただきます。持ち運びランプはランタンみたいなものが出てくるかと思えば、鳥かごみたいなものですね。ちょっと驚きですが、これめっちゃオシャレ。っていうか、ランタンっていう概念ないのか……。魔法で簡単に灯りが付けられるからかな?
卓上ランプは足元がしっかりしたものですね。光る部分はガラスのドームみたいになってて、その中を煙で覆うことで直接光が目に入らないようにする仕組みみたいです。これは魔法だからできる光量調整ですね。
背の高いランプは、元の世界でもよく見る感じのやつですね。卓上ランプを引き延ばした、みたいな感じです。でもこれだとすごく頭でっかちで、ちょっとバランス悪い……。
「あの、これ、頭の部分をもう少し小さくして、上からカバーをかけるっていう形にできますか?」
「光球部分を小さくし、上からカバーを……? 布をかぶせるような感じですか?」
「えぇっと……、ドレスのスカートの形を保つために装着する器具があると思うんですけれど……あれみたいな感じのものを、その光球に取り付ける、みたいな」
「うむ……?」
「パニエではないでしょうか。光球を小さくし、そこにパニエのような器具を取り付け、その上に布を張り付ける、あるいは纏わせる」
横からコンチータさんがフォローを入れてくれました。そう、パニエ。ドレープは全然違う、ひだだ。あのふわっとした説明でわかってくれるの、本当に助かる。コンチータさんは自分の手元にあるスケッチブックでざっとラフを描きました。私が思ってたのと相違ないカバーです。
「そう、これです。こんな感じで、カバーを取り付ければ、光球の中で光量調整する必要がなくなると思うんですよ」
「なるほど、これは素晴らしいアイディアですね! ええ、もちろんご用意させていただきます」
「本当ですか? よかった、ありがとうございます」
伝わってよかった~。これは楽しみですね。他にないか聞かれましたけれど、とりあえず思い付くものは以上ですね。欲しいものがあれば、その都度、対応してくれるというのは先約してますし。私の番が終了すれば昨日と同じように美雨たちが自分の番で思い付けなかった魔道具を欲しがります。うん、後からあれがこれがってなりますからね。私もきっと後になれば欲しかったなって思うもの出てくると思うし。追加注文も嫌がることなく受け付けてくれて、ウェルズ魔道具店との商談は終わります。
こうやって、必要な物を自分の好みで決められるの、本当に嬉しいですね。魔道具の納品は自宅が完成した後になるそうです。ああ、完成品をお目にかかれる日が待ち遠しいです。




