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仮面の少年

「なぁ、本当に信用できると思うか?」

「ヴェルナーのこと?今は、信用するしかないと思うけど?」


 ヴェルナーを先頭にパーサーたちは薄暗い通路を歩いていた。

 誰一人として出会わないのに妙な緊張感がパーサーとジェームズの二人にはあった。


「僕が信用ならないなら、構わない。お前ら二人だけで、この基地の中を探せば良い」


 二人の小声が聞こえたのか、振り向きもせずにヴェルナーは突き離すように話し掛ける。


「そのかわりに古代の遺跡と複雑に絡み合った施設だ。延々と彷徨えば?」


 表情は見えないが彼の人を小馬鹿にする顔が浮かんでいるのが、容易に想像できる。


「それは、ごめんだよ。それよりも、この施設には今、どのくらいの人間が残っているの?」

「さぁな。………居るとすれば、イェニチェリが40人くらいと神父エンジニアが10人。あと、指揮官が1人くらいじゃないか?」

「お前、あっち側なんだろ?もっと詳しく話せよ」

「フン。いくら僕が万能でも、そんな細かいところまで、わかるわけが無いだろ」


 ヴェルナーは、間を置かずに答えて扉の前で立ち止まる。


「おっと、やっと着いたのか?」


 ジェームズが問うが、ヴェルナーは答えずに扉を開ける。


「入れ」


 一言、そう言うとヴェルナーはさっさと部屋の中へと入って行く。


「ちッ、答えろよな」

「まぁまぁ、良いから入ろうよ」

「ちょっと、待てよ。アイツの罠だったら、厄介だ。クラーディ、先に入ってくれ」


 ジェームズに言われてクラーディは頷くとスタスタと部屋へと先陣をきって入って行く。

 待つこと数秒。

 中から、すぐにヒィっと短い悲鳴が漏れ聞こえてくる。


「よし。大丈夫そうだな」

「……………ジェームズ、今のは絶対に嫌がらせだろ?」

「何、言ってんだ?ここは敵地だぜ?安全確認はしっかりしないとだな」


 含み笑いで言うと早く、お前のお仲間に再会しようぜと気兼ねなく部屋へと入って行く。

 パーサーも呆れつつも、その後に続くとヴェルナーが部屋の隅に置かれたベッドの上で涙目になってクラーディと距離を取っていた。


「条件の追加だ!この泥人形を僕に近づけさせるな!」


 逃げ場を失ったようにクラーディを睨みつつ、歯を出して怒鳴るヴェルナー。

 しかし、彼の容姿では大した迫力はなく、ジェームズにハイハイと軽く流される。


「まぁ、それは置いといてだな。俺たちは仲間の下に連れて行けと言った筈だぜ?」


 そう言ってジェームズは、部屋を見渡す。

 乱雑に床に散らかった紙の束に壁の四方に取り付けられた大きな黒板。

 申し訳程度に中くらいのチェストとヴェルナーが非難している粗末なベッドがあるくらいの小ぢんまりとしたほぼ、生活感の無い部屋だった。

 パーサーはチラリと黒板に眼をやると、数式やグラフに判読不明な図がところ狭しと書き殴られている。

 そして、何気なく床の紙を一枚拾い上げて読んでみる。

 ドイツ語で長々と何かについて書かれたメモ書きのようだった。


(えっと、ラ…ケー………テ。ラケーテって読むのかな?)

「お前たち、馬鹿か?いくら、人が少ないと言っても、そんな格好でウロウロしていれば見つかるだろう」


 ドイツ語のメモで読めそうな単語を見ていると少しは調子が戻ったのか鼻で笑い、ベッドの脇のチェストに手を伸ばして中から白い服を取り出すとパーサーに投げて渡す。


「これは?」

「僕の予備の制服だ。その悪目立ちする趣味の悪い黒い軍服を着替えろ」


 ヴェルナーに言われて手元の服を見てみると確かにヴェルナーが着ている純白の神学校の制服だった。


「俺のは?」

「君は汗臭い人夫の格好が、よく似合ってるじゃないか」

「……………おい、クラーディ」


 少しの沈黙の後、ジェームズはクラーディに声を掛ける。

 するとクラーディは頷きジリっと一歩、ヴェルナーへと近づく。


「ヒィ!止めろ!来るな!」

「はぁ~、二人ともヴェルナーで遊ばない!」


 パーサーは、悪ノリしだしたジェームズたちを止めると軍服から、神学校の制服へと袖を通す。

 そして、ボタンを留めるとヴェルナーに向き直る。


「これで、どうかな?」

「フン。まぁまぁだな」

「可もなく、不可もなく、だな」

「はいはい。それで?これから、どうするの?」


 少し窮屈な白の制服の首元を緩めつつ、ヴェルナーに聞くと彼はベッドから降りて机から一枚の地図を取り出して広げる。


「今居る位置は、ここだ。そして、ここにお前たちの仲間のドイツ兵やプロテスタントの牧師を拘束している」

「おいおい、ほぼ真逆の方向だな」

「少しでも、中枢から離しておかないといけないからな」

「わかった。それで、マリアたちは?」

「マリアとリリス様は、こっちだ」


 ヴェルナーは、そう言うと今の位置からあまり離れていない場所に指を差した。


「思っていたよりも近いね」

「ん?この区画、"VIP"って書いてねぇか?」

「当然だろ。彼女たちを下手な場所に拘束できるはずが無いだろ」


 何を当たり前なと言わんばかりにヴェルナーは言い放つ。


「ちょっと待って」

「何だ?」

「ハミルトン大佐とリヒト少尉は?」

「……………彼らは別の場所だ」

「別の場所?どこ?」

「そこまで知るもんか。主にでも聞いてみろ」


 ヴェルナーは、冷たく突き離すと地図を折りたたもうとする。

 そこでパーサーは、地図に小さく◯印が数カ所に描かれていることに気付く。


「その印は何?」

「まったく、目ざといな。これは、この施設で補修する場所をチェックしているだけだ」

「何だよ。ここって、そんなにボロい基地なのか?」

「遺跡を無理やりベースに使ってるからな。水漏れやひび割れなんて、不具合はよく出るんだ」


 そう言って、ヴェルナーは地図を小さく折りたたみ懐に入れる。


(補修?本当かな?イェニチェリの部屋にもマークがあったけど?)


 パーサーは思い返してみるが格納庫のイェニチェリの部屋に補修が必要な場所は無かったように思える。


(まぁ、僕が見落としてるだけか)


 ほんの僅かな違和感に蓋をしてパーサーは、行こうと声を掛ける。

 そして、ヴェルナーの部屋から出ようと扉に向かおうとした。

 その時だった。


 コン、コン。


「「!?」」


 パーサーがドアノブに触る前にノックの音が響き、思わず固まる二人。


『ブラウン、居るかね?』


 低い中年の男の声がドアの向こうから聞こえて来る。


「はい。少し待って下さい」


 ヴェルナーが、返事をして時間を稼ぐ。


「くそっ、どうする?」

「ヴェルナー、ここに隠れそうな所はある?」

「……………」


 ヴェルナーは一瞬、沈黙する。

 部屋に緊張感が張り詰める。

 そして、徐に部屋の物入れからロープを一束取り出した。


「何を言ってるんだ?隠れる必要は無いだろ?」

「「?」」

「おい、人夫。このロープで、その泥人形を縛れ」


「ブラウン。いつまで待たせるんだ?」

『お待たせしました。どうぞ』


 ドアの前で待たされていたクーデターに参加した将校は、小声で異教者のガキめと呟くと少し乱暴にドアを開ける。


「?」

「ヤブズ大尉、どうされました?」


 乱雑に紙の束が散らかった部屋は、いつも通りの光景だった。

 だが将校、ヤブズは部屋の中央でロープで拘束された1体のgolemとロープを持つ人夫に目を止めた。


「何をしてるんだ?」

「何って、見ての通りですよ」 


 ニッコリと魅惑的な笑顔でヤブズの質問に答えるヴェルナー。

 彼の後ろでは、ヴェルナーと同い年くらいの少年が手元のメモ帳に何かを書いてるのが目に入る。


「……………golemの研究?君が?」


 訝しむようにヤブズは、ヴェルナーに声を掛ける。


「ええ、そうです。不都合な事がありますか?」


 ヤブズの視線が一瞬、クラーディに向けられる。


「いや、無いが……………。君は、golemが嫌いだったのでは?」

「勿論です。こんなモノに触りたくありません」

「では、何故?」

「僕の研究に有用そうだったので、実験のためにデータを集めてるんです」


 そう言ってヴェルナーは悩ましそうに吐息を吐く。


「主の道に反する異端の技術ではありますが、一人の研究者として調べずには居られません。だから、こうして助手と調べてるんです」


 そう言ってパーサーにチラリと視線を送る。

 パーサーは、メモを取っていた手を止めて、ペコッと小さく会釈する。

 その手には汗が滲んでいる。


「そうか………」

「何か問題がありますか?」

「いや、無いが………。golemは力が強い。そんな貧相な人夫とロープだけでは暴走したときに危険だぞ」

(単純な奴め)


 ヤブズの警告にヴェルナーは、心の中で冷たく呟く。


「そうなんですか!?ああ、怖いな。では、次から鎖に変えてイェニチェリ一人を護衛にしないと!」


 ヴェルナーは、サッと顔に影を作るとブルッと身震いする。


「ああ、そのほうが良いだろう。それと、そのイェニチェリの事だが二人が残敵掃討から戻らん」

「すみません。イェニチェリ………、golemのことは専門外です」


 ヴェルナーは、眉を潜めて申し訳無さそうに話す。


「いや、そうじゃない。捜索のために君の戦車を出したい」

「でしたら………、Ⅰ号戦車が良いです。小さくて機動力もあるので索敵や捜索に役に立ちます」


 今度は満面の笑顔になり、提案する。


「そ、そうか。では、その戦車を借りよう」


 ヤブズは、ヴェルナーの用は終わったとドアへと向き直り、部屋から出ようとした。

 しかし、何かを思い出してヴェルナーに振り返る。


「そう言えば、閣下からの伝言でシスターたちを後発の部隊で宮殿に移送するようにとの事だったぞ。その準備をしておいてくれ」

「彼女たちを宮殿に?」


 ヴェルナーは、心配そうな表情になる。


「ああ、そうだ。心配するな、計画では後発部隊が着く頃には大半が制圧できているはずだからな、危険は無い」

「良かった。それなら、安心ですね」


 ヤブズの言葉に安心したような笑顔が咲く。 


「あっ、そうだ!他の捕虜はどうしますか?」

「後発の出発前に始末する」


 目撃者は少ない方が良いからなと言葉を残して彼は部屋から出て行った。

 そして、ヴェルナーの表情から笑顔の仮面が剥がれて無表情になる。


「……………お前、二重人格かよ」

「黙れ」

「そんな事よりも早く皆を解放しないと!」


 パーサーが焦って声を出すが、ヴェルナーは落ち着けと制止する。


「処刑は、リリス様たちの準備が終えてからだ。……………それまでは生かしておく口ぶりだったから時間は、まだある。行くぞ」


 そう言って、足早に歩き出すヴェルナーの後ろでジェームズは首を傾げる。


「今更だが、なんでアイツが偉そうに指揮してんだよ?」

「今は、誰がしても良いだろ?行こう」



ここまで読んで頂き、ありがとうございます!気に入ってもらえれば、嬉しいです。引き続き、よろしくお願いします!

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