告白
「golemが怖いってか?………そりゃ傑作だな」
ジェームズは、クラーディに組み敷かれているヴェルナーを見て笑う。
「ジェームズ。そんな言い方するなよ」
そう言って嗜めるパーサーだったが、ジェームズは聞く耳を持たず、ヴェルナーの近くにしゃがみ込んで今、どんな気持ちだなどと煽り出す。
「……………けろ」
「あ?」
「はっ……………早く…、この…、泥、人形を………退けろ!ヒッ」
引くつきながら、声を振り絞るヴェルナー。
パーサーは、流石にやり過ぎだと、顔をしかめる。
「ジェームズ、いい加減にしろよ!」
「………で?こいつどうする?」
「そうだね」
ヴェルナーをこのままには出来ない。
ーー彼は天才よ。
以前、リリスが彼を評した言葉がパーサーの脳裏に蘇る。
あの彼女に、そこまで言わせる彼だ。
おそらく縛って、どこかに閉じ込めたとしても脱出して自分たちが窮地に陥ることは容易に想像がつく。
「……………連れて行こう」
少し考え、口を開く。
「人質兼、道案内か?」
「まぁ、そうだね。クラーディに任せておけば彼も下手な事は出来ないし、みんなの居場所を知ってるだろうしね」
そう言ってパーサーはクラーディに彼を立たせるように指示をする。
「さて、こんな不気味な所は、早く退散しようぜ」
ジェームズは、そう言うと部屋の出口へと足早に向かう。
「待ってよ。えっと、歩けるか?」
「………あっ、歩けるから、この泥人形を僕から……………離せ!」
パーサーがヴェルナーに話し掛けると彼は鋭い眼つきで睨みつけながら、怒鳴る。
「それは無理だ。悪いけど、しばらくクラーディの側に居てもらう」
「ふっ、ふっ………、ふざけるなよ、この土臭いラビめ!」
青ざめた顔で悪態をつくヴェルナーの物言いに流石にカチンと来て何か言い返そうと口を開きかける。
しかし、パーサーが何か言う前にクラーディが彼の身体を持ち上げる。
「やっ、止めろ!よせっ!ヒッ!」
あろうことか、クラーディは彼を横抱きにしてしまう。
さらに密着され、青ざめた顔に、屈辱の色が滲む。
パーサーは吹き出しそうになるのを堪える。
「……………!!!」
ヴェルナーは、声なき声で涙を溜めてパーサーに抗議する。
「ゴッ、ゴホン!えっと、別に僕が命令したわけじゃないよ。たぶん、泥人形なんて言うからクラーディの気分を害したんだよ」
「ふっ、ふっ、ふふふふ、ふざけるな!物に気分だと!!あるわけ無いだろ!君が命令したんだろ!おっ、降ろせ!」
喚き立て出したヴェルナーから、チラリとクラーディの表情を見ると、してやったりと言うように無表情のままだが、どこか満足気に見える。
ーー気のせいとは思えないほどに。
(………やっぱり、泥人形呼びにイラッとしてたのか?)
「ほっ、捕虜の虐待は…ジュネーブ条約で禁じられているんだぞ!この………、土人ども!」
「さっ、行こう」
パーサーは、ヴェルナーを無視してスタスタと部屋の出口へと向かう。
部屋の外では、ジュネーブが周囲を警戒しつつ、パーサーたちを待っていた。
「マジで誰も居ねぇな」
「確かにね。何でだろう?」
「ゲストに聞いてみるか?」
「う〜ん。多分、聞いても教えてくれないと思うけど」
「そうか?名前は何だった?」
「ヴェルナーだよ」
「そうか。おい、ヴェルナーって、面白い格好になってるな」
「……………うるさい、見るな」
ジェームズの煽りにヴェルナーは不機嫌そうに睨む。
「ハイハイ。わかったから、答えろよ。なんで、こんなに人が居ないんだよ?」
「……………」
「ダンマリか?」
「計画が、次のフェーズに移行したんだろ」
「なに?」
何も喋らないと思っていたヴェルナーが話し出した事にパーサーたちは意外に思った。
「次のフェーズって?」
「さぁ?僕の仕事は必要な装備の開発と運用の助言だからね。計画の立案は専門外だ。自分たちで考えれば?」
ヴェルナーはそう言って、人を小馬鹿にする笑みを浮かべる。
「ハハハ。そんな顔してもお姫様抱っこされた状態じゃ、カッコつけられないぜ?」
「うるさい!!降ろせ!ヒッ!」
「ジェームズ、クラーディ!まったく、いい加減にしなよ」
パーサーは、呆れてジェームズたちを制止するとヴェルナーに向き直る。
「頼む、ヴェルナー。教えてくれ」
「先ずは僕を降ろせ。そこからだ」
「わかった」
「おい、パーサー!」
反対するジェームズに大丈夫だよと宥めてクラーディに降ろすように合図する。
降ろされたヴェルナーは、素早くクラーディから距離をとり、大きく息を吐くと改めてパーサーに向き直る。
「細かい計画は知らない。けど、ここにある戦力とこれまでの経過から、ここの首謀者が何を企んでいるのか分かるだろ?」
「クーデターだよね?」
「そうだ。クーデターを成功させる為の条件はわかる?」
パーサーは、ヴェルナーの問い掛けに少し考え込む。
「まずは情報を隠して、一気に中枢を叩く。あとは反撃してくる部隊の対処と正当性の周知………そんなところかな?」
「概ね、そうだね。それじゃ、今はどの段階だと思う?」
「………中枢への迅速な攻撃」
「その通り、厳密に言えば、王宮制圧の為の戦力の移動だろう」
「でも、戦車は?制圧する為には一つでも大きな戦力が必要だろ?ここに戦車を置いて行く理由は何?」
「こいつは確かに強いし、速い。でも、こんなのが土煙を上げながらゾロゾロ動いていたら一発でバレるだろ?」
ヴェルナーは、やれやれと馬鹿にした様に首を振る。
「そうだね。それなら、なんでこんなものを?」
「考えてみろよ。王宮を制圧しても鎮圧部隊に包囲されたら、いくらイェニチェリと言っても数には勝てないなら」
「そうか!包囲網を外から、これで打ち破るんだね!」
ヴェルナーの言葉より先にパーサーは答えを導き出す。
「フン。そうだ。さて、ここに人が居ない理由だったな。ーー当然だよ、今は主力は王宮に戻っているからね。ここには戦車を運用する最小限のイェニチェリと整備兵しかいない」
そこまで話すとヴェルナーはパーサーに、今の状況は君たちにチャンスだろと話し掛ける。
「チャンス?」
「ああ、今なら誰にも邪魔されずに逃げられる」
「いや、逃げない」
「なぜ?」
「マリアたちを助けないといけない」
「まだ、そんな事を言ってるのか!良いか、何度も言うが、彼女に関わるな!彼女の身は僕が守る!とっとと去れ!」
「君は何で、彼女に執着するんだよ!」
「決まってるだろ」
ヴェルナーの声が、低く落ちる。
「僕は彼女を愛してる」
ヴェルナーの率直な台詞にパーサーはたじろぐ。
それと同時に胸の奥でちくりと言い表せない痛みが走る。
「そっ、それは……………」
「ハイハイ、ここで恋バナなんてしょうも無いことすんなよ」
呆れた声でジェームズが二人の間に入る。
「良いか、お前の状況は俺たちの捕虜だ。拒否権は無いんだよ。良いから、俺たちを彼女の下に連れてけよ」
「断わる」
「お前な、こんな問答を延々と続ける気か?俺はごめんだぜ」
「……………良いだろう」
わずかに間を置いて、ヴェルナーは続ける。
「ただし、条件がある。
一つ、僕の指示を聞くこと、
二つ、口答えしないこと、
三つ、仲間の下には連れて行ってやる。だがマリアにーー、彼女に触れるな」
最後の三つめをパーサーを睨みつけて提示する。
難癖を付けようと口を開こうとするジェームズを抑えてパーサーは、分かったと答える。
「よし。じゃ、ついて来い」
ヴェルナーは、一言告げると歩き出す。
「ちょっと、待ってよ」
「お前な、捕虜って自覚あんのか?」
「ゴチャゴチャ言ってないで、来い。置いて行くぞ」
先を行くヴェルナーについて行くとき、不意にパーサーは振り返り、イェニチェリの部屋を見た。
(あれ?あんな箱あったかな?)
ついさっきまでは無かったはずだ。
記憶違いかなと、パーサーは小さく首を傾げる。
「どうした?早く来い」
「ああ、わかったよ」
パーサーは深く考える前にヴェルナーに促されるまま、慌てて彼の後を追う。
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