81・サランヴィーネの港街 その一
ジャイアントロックタートル
レベル72 亀種 地属性 ロックタートルの上位種
HP B(青) MP C(赤)
スキル 突進 腐敗の吐息
魔法 地属性上級
目の前に見える亀を「完全解析」で見ると、こんな感じだった。十メートル以上はありそうな巨大な亀。流石レベルが72だけあって、倒すのが面倒くさくなるステータスである。
注意すべきは魔法とスキル「腐敗の吐息」か。これは文字通りで、吐息に触れれば装備だけではなく、身体にも影響があるだろう。
スキルの効果範囲に入らなければいいだけだが。
「ガアァァァァァァ‼」
「あ~あ~うるせぇなぁ……」
闇夜に響き渡る重低音の雄叫びに、瑠華は煩そうに顔をしかめる。テトから下りて、体をゆっくりと撫でていく。
「テト、手出し無用だよ?」
「…………分かっている」
ふふっ、と楽しそうに笑う瑠華を見て、呆れたようにテトはため息を吐く。
瑠華は〔宵闇〕を引き抜き、巨大な亀に向かって歩いていく。
そしてニィ、と口角を上げ、心底愉快気に笑い、剣を真正面に突き出す。
「さぁ~て…………死合おうか……」
「おおぅ」
「……ふみゅ………」
「ああ、おはよう、シン、サラ」
マジックテントから出てきたシンとサラが、目の前の光景を見てそんな声を上げた。
それもそうだろう。
テントの目の前に巨大な魔物の死体が鎮座していたら、誰だって驚くというもの。
「どうしたんですか?この魔物」
「ん?例の魔物だよ。サランヴィーネへの街道に出るっていう」
「え⁉夜に襲われたんですか⁉」
「襲われたんだよ、この魔物の方がな」
マジックテントの入り口の横で伏せっていたテトが、憐れみを帯びた視線を魔物に向けていた。
それに対して瑠華が不満そうに口を尖らせる。
「襲ったって失礼な!ちゃんと正面から勝負を挑んだよ!」
「そうだな、最初から最後まで容赦ない蹂躙だったな」
「「可哀想に」」
リトとマリアも見てもいないのに、その状況が分かるようでうんうんと頷いている。
「……………シンは僕を手伝ってくれ。サラは朝食を頼む。簡単で良いからな」
「あ、はい」
「………分かりました」
シンと二人で巨大亀の解体を始める瑠華だが、如何せん大きいし固いしで作業は遅々として進まなかった。
そして病的に面倒くさがりな瑠華の気力がもつ筈もなく、解体作業はサラが朝食を作り終えたので、終了となった。
「もういやだ………」
「面倒くさがらないで下さい、ルカ様。全然終わってないじゃないですか」
「いいよ、もう、ギルドに頼むから」
「またそういうこと言って。これだからお金を持ってる人は……魔物の素材解体は冒険者の必須じゃないですか。自分でやろうとは思わないんですか?」
「思わないね!」
即答された、とシンは脱力して地面に突っ伏した。それを見ていたテトとリトが、シンの肩にそれぞれもっふりな前足を置いた。
「無駄だ、シン。これまで幾人も言ってきたが、主の面倒くさがりは治らなかった。ほぼ他の仲間がやっていたからな」
「そうねぇ、主は時折ダメモードになるから、仕方ないわ」
うんうん、と瑠華も頷いていた。
「そなたのことを言っているのだ!」
そんな瑠華にテトのもっさりとした尻尾が炸裂した。
サラが作ってくれた朝食を皆で食べてから、後片づけをし出発の準備を済ませる。ジャイアントロックタートルの死体はアイテムボックスに入れる。
「ルカ様、あの人達本当に起きませんでしたね」
シンが地面に転がっているビンゲ達を見ながら呟いた。
「純粋なユメミ草は強いからな。使いどころを間違うと大変だな。うん。さて、では行きますか」
「「はい!」」
テトとリトにそれぞれ跨がり、サランヴィーネへと向かって駆け出していく。
あの亀のお陰か、今日も魔物には会わなかった。こういうのは本当に楽でいいな、と瑠華はつくづく思った。
「あっ、見えてきた!」
サラが嬉しそうに声を上げた。
まだリト達の速さに慣れないサラの為に、酔わない程度の速さで駆け、途中休憩を挟みつつ進んでいた。
空が茜色に染まり始めた時、サランヴィーネの港街が見えてきた。門が見える位置でテトとリトから降り、影に入ってもらう。
そこから歩いて門まで来て、通行証を見せ街の中に入る。
「………人が多いですね」
「流石港街ということか」
もう日が暮れるというのに、通りには人が溢れていた。
「これはちょっとマズイかな……」
「え?なにがですか?」
「宿屋がないかもしれん………」
港街だから宿屋は他の街に比べれば多いだろう。けれどあまりの人の多さに、瑠華は嫌な予感がした。
「取り敢えず宿屋を探してみよう」
頷いた二人を伴い、薄暗い通りを人を避けながら歩いていった。
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